社葬の準備手順と当日の流れを解説 会社の新体制を伝える場に
企業の後継ぎが社葬を執り行う場合、その差配が新体制の行く末にも影響します。ご不幸が発生してから社葬開催に至るまでの準備手順と、当日の流れや注意点などについて、詳しく解説します。
企業の後継ぎが社葬を執り行う場合、その差配が新体制の行く末にも影響します。ご不幸が発生してから社葬開催に至るまでの準備手順と、当日の流れや注意点などについて、詳しく解説します。
目次
社葬の対象になる方のご不幸が明らかになった場合、一般的には、以下の手順を踏みます。
社葬規程によって、社葬の対象者が明らかな場合でも、改めて臨時取締役会を開催し、ご不幸の事実を共有し、社葬の実施の有無について決議します。議事録も作成して残します。
取締役会の決議を受け、担当者が遺族に連絡を取り、社葬を行いたい旨を伝え、許可を得ます。仮に、合同葬にしてすみやかにご葬儀を行いたい、という要望があれば、基本的には従います。社葬を行う許可が得られれば、遺族は密葬の準備に取り掛かるので、要望があればサポートします。
合同葬なら直ちに、社葬であれば若干の猶予がありますが、ほどなく葬儀社の選定に入ります。会社の名前で葬儀を行う以上、会社の信用を落としたり、遺族に迷惑をかけたりするミスは回避したいものです。地域に強くて、信頼性も高く、規模の比較的大きい葬儀社への依頼が必要です。
以前に頼んだことがある葬儀社なら、その時の評価が参考になりますが、葬儀社の担当者が異動することもあります。複数の葬儀社のウェブサイトをチェックし、担当者と直接話をして、安心して任せられる、と思うところを選んでください。
なお、宗教色を絡めない社葬の場合は葬儀社に依頼せず、総務担当者がホテルなどと直接交渉して行うことも可能です。宗教色を絡める「狭義の社葬」の場合、葬儀社を通して遺族の菩提寺の住職への相談をお勧めします。
招待者数を集計し、遺族や葬儀社とも相談のうえ、人数に見合った会場を選びます。その際に留意すべき点があります。
「狭義の社葬」の場合、祭壇を設けて遺骨を安置したり、僧侶などの宗教者に読経をしてもらったりするなど、宗教儀礼的色彩が強くなります。しかし、一般的に、ホテルではこのような宗教儀礼を許可しておりません。祭壇のお灯明(ろうそく)に火をつけることも禁じているホテルが多いです。
「狭義の社葬」の場合は必然的に、寺院や神社などの宗教施設、あるいは葬儀社直営のセレモニーホールなどに限定されます。
一方、「お別れの会」、「偲ぶ会」など、宗教儀礼の色彩の薄い催しは、会社の本社や事業所に近い立地のホテルなどが選択肢となります。
平日のお昼前後が比較的多く選ばれます。参列者へのもてなしとして食事を提供するためですが、2020年あたりからは、食事の時間帯を外した午後2~3時ごろの開式が多くなっています。
日時と場所が決まり、社葬規程と社葬マニュアルに従って葬儀委員長以下の担当者も決まれば、いよいよ準備作業に入ります。
まず、新聞に死亡広告を載せるため、社葬規程やマニュアルに従い(決めていなければ関係者間で取り決め)、速やかに葬儀社、もしくは広告会社に連絡して出稿を依頼します。地方によっては新聞の訴求力はまだまだ大きく、社長や会長など会社の中心人物の死去を広範に知らせるうえで、死亡広告はきわめて有効と言われています。
掲載日のどのくらい前までに申し込めばよいかは媒体や地域によって異なりますので、葬儀社か広告会社に確認してください。取引先など関係者への連絡は死亡広告の掲載日より前に終わるようにして「関係者が死亡広告を見て訃報を知った」などということがないようにします。
次は案内状の送付です。まず「供花・供物・香典を受け付けるか、辞退するか」を決めなければいけません。案内状に盛り込む必要があるからです。
供花、供物に関しては、会場側の制約もあるので、必ず会場と調整した上で受付の有無を決定します。
香典に関しては、大雑把にいうと「受け付けておいて、それなりの返礼をする」、「受け付けずに、来場の返礼も簡素に済ませる」のどちらかです。
香典の会計・税務処理は少々面倒なので(関連記事参照)、辞退する会社が多くなっています。しかし、取引先から「うちの会長が亡くなった時には御社から香典をいただいていますので、お渡ししないわけにはいきません」と懇願されることがあります。
このような場合に備え、「香典は辞退するが供花(1万円~1万5千円程度)は受け付ける」という方法があります。お花は見栄えがよく、故人をしのぶのにふさわしい装飾ではありますが、場所の関係で供花をすべて飾れないことも多いので、実物の花の代わりに「芳名板」を用いることもできます。
また、香典をいただく場合は3千円程度の返礼品を渡し、高額の香典をいただいた方には後日、香典返しを渡すことが通例です。香典を辞退する場合は千円程度の返礼品をお渡しすることが一般的です。
おおよその方向性をあらかじめ社内で取り決め、マニュアルに明記しておくか、社葬の日時が決まり次第、速やかに社内で取り決めるのが良いでしょう。
案内状に記載する項目は、故人の氏名、役職、没日、生前の厚誼に対する深謝の意、喪主、葬儀委員長などです。火葬に先立って合同葬を行う場合は通夜・葬儀の日時と場所ももちろん明記します。
合同葬の場合はファクス、時間に余裕のある本葬・お別れの会の場合は郵送で案内状を送ることがほとんどです。
事前リハーサルで、当日の手順、導線を確認することも必須です。晴天、雨天それぞれのケースを想定して、来場者を長時間待たせたり、「密」の状態を作ったりしないように、人の流れをシミュレーションします。
あくまで一例ですが、おおよその式次第は、以下の通りです。仏式を前提に考えますが、カッコ内のものは、宗教色を絡める「狭義の社葬」の場合のみ、流れに加えます。所要時間は一般的に、おおよそ1時間程度です。
<宗教儀礼> | <進行> |
---|---|
(僧侶入場) | |
開式の辞 | |
読経 | |
弔辞奉読 | |
弔電奉読 | |
思い出の画像・映像の上映 | |
葬儀委員長挨拶 | |
喪主挨拶 | |
読経 | |
焼香 | |
その他参列者焼香 | |
僧侶の法話 | |
僧侶退場 | |
閉式の辞 |
神式の場合は焼香の代わりに玉串奉奠(たまぐしほうてん)、キリスト教の場合は献花を行います。細かな式次第も上記と異なる可能性もありますので、事前に葬儀社に確認をしてください。
上記の式次第の中から、いくつかに絞って解説します。
葬儀の規模縮小に伴い、一般の葬儀ではほとんどなくなりましたが、社葬においては弔辞、つまり関係者による追悼の言葉、語りかけは欠かせません。一般的な社葬であれば、弔辞の本数は3、4本が上限です。取引先の社長、古くからの友人、故人が所属していた団体の代表、といった方々にお願いすることが多いです。
いただいた弔電を司会者が奉読し、祭壇に供えます。
司会者に指名された順に焼香、もしくは玉串奉奠、もしくは献花を行います。あくまで一例ですが、一般的な順番は以下の通りです。
終了後の手続きは大きく分けて、「社内の記録」と「参列者等への御礼」があります。
前者は、案内を出した人、参列者、香典・供花をいただいた人などを記録します。また部門ごとに反省事項を洗い出し、必要に応じて規程やマニュアルを更新します。
通常のイベントと異なり、参列者にアンケートを取るわけにいきませんので、厳しめに自己評価を行います。総費用も集計し、ご遺族と案分する取り決めになっているものは、忘れずに実行します。
後者はさらに、あいさつ回り、香典返しの発送、会葬礼状の発送に分かれます。あいさつ回りは葬儀委員長(外部にお願いした場合)や、弔辞をいただいた取引先の社長らのところに出向いて謝意を伝えます。
香典返しは昨今、「当日返し」が主流ですが、大きい金額を包んでいただいた方には別途お返しを送ります。
香典を会社の収入とする場合は会社が責任を持って、ご遺族の収入とする場合はご遺族のお手伝いという立ち位置で、それぞれ行います。会葬礼状も「当日渡し」が主流となっていますが、本来はきちんと封書で送るべきものです。
規程やマニュアルにしたがって準備を進め、つつがなく当日の進行を行い、あわせて会社の新体制をアピールすることは、社葬の大きな役割です。
しかしながら、当日の現場においては、故人に対して生前に厚情をいただいた皆さんに、会社として深く感謝する気持ちを担当者全員が共有することが、何よりも大切です。
会社の体制や社葬の規模によっては、総務部や営業部以外の社員に応援を求める場合もあるかもしれません。
部署によっては、平素顧客との直接的な接触が全くないために基本的な応対に不安を抱いていたり、業務の合間を縫って社葬に駆り出されることに、割り切れない気持ちを持っていたりする社員がいないとも限りません。
そういった社員にも、社葬の意義と重要性をしっかり伝え、会社としての立派な立ち姿を参列者に見せるよう、心掛けてください。
【監修】
小原正寛税理士事務所
【取材協力】
セレニオン(運営会社:フルールウーノ)
【参考文献】
中小企業のための社葬マニュアル(三上清隆著、清文社)
社葬のすべて(講談社)
法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局)
税務相談事例集(大蔵財務協会)
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。