目次

  1. 納税の期限と猶予措置
    1. 納税の期限
    2. 税金の猶予
  2. 企業が納めるべき税目と期限
    1. 法人税等
    2. 消費税
    3. 源泉所得税
    4. 固定資産税
    5. その他
    6. 納税スケジュール
  3. 税金の納付方法
    1. 納税方法
    2. 国税の電子納税
    3. 地方税も電子納税が可能に
  4. 納税が遅れるとどうなる?
    1. 猶予の制度と仕組み
    2. 換価の猶予
    3. 納税の猶予
    4. 必要書類
    5. 期間の延長
  5. 納税スケジュールの立て方
    1. スケジュール作成の目的
    2. スケジュール作成の手順
  6. 中小企業の納付事例で解説
    1. 概要
    2. 納付誓約書
    3. 相談時の内容
    4. 分割納付
  7. 納税資金に不安なら相談を

 まずは納税で定められた期限と猶予措置について、簡単に説明します。

 法人には様々な税金が発生し、各税目ごとに納付の期限が定められています。期限までに納付しないと、延滞税等が発生します。

 税金の滞納状態が続くと、国または地方公共団体から督促状が届きます。督促状が届いてもなお、納付が行われない場合は、財産の差し押さえなどの滞納処分が行われます。

 しかし、様々な事情で一時的に税金を納付することが困難な場合、申請することにより財産の差し押さえ等の換価の猶予や、納税の猶予が認められる場合があります。

 企業が納めるべき税金は多岐にわたります。種類やそれぞれの納税期限について、ポイントを解説していきます。

 法人税等とは、法人の一事業年度の所得に応じて発生する税金です。

 法人税等は税務署(国)に納める法人税・地方法人税と、都道府県市区町村(地方)に納める法人住民税・法人事業税・地方法人特別税に区分されます。いずれも、決算日から原則2カ月以内の納付が必要です。

 また、前年度の税額が20万円を超える場合には、事業年度開始から6カ月経過時点で、中間(予定)納付が発生します(6カ月経過後から2月以内に納付)。なお、中間納付した金額は、決算で確定した税額に充当されます。

 消費税は免税事業者である法人を除いて発生します。端的に言えば、一課税期間で預かった消費税(仮受消費税)と、支払った消費税(仮払消費税)の差額を支払うものです。こちらも決算日から原則2カ月以内の納付が必要です。

 消費税(国)と地方消費税(地方)とに区分されますが、合算して税務署に納付します。なお、消費税は選択によって、課税期間を1カ月ごとまたは3カ月ごとに変更できます。

 また、法人税等と同様に、前年度の税額によって1カ月ごと、3カ月ごと、半年ごとに中間(予定)納付が発生する場合があります。こちらも決算で確定した消費税額に充当されます。

前期の確定消費税額 48万円超から400万円以下 400万円超から4,800万円以下 4,800万円超
中間申告の回数 年1回 年3回 年11回

 法人は給与や配当の支払いや、司法書士や税理士らに報酬を支払う際、源泉所得税を預かる必要があります。源泉所得税が発生する支払いの種類は税法に定められています。

 そして預かった所得税は、会社の事業年度に関係なく、原則預かった日の翌月10日までに税務署に納める必要があります。

 なお、従業員が常時10人未満の場合には、事前に届け出ることによって、一定種類の源泉所得税については、1月20日(7~12月分)と、7月10日(1~6月分)の年2回にまとめて納付できます。

 法人が1月1日時点で所有している固定資産に対して課税されるものです。
なお、固定資産税は土地・建物に対するものと、機械・器具備品等の償却資産に対するもの(償却資産税)の2種類があります。

 どちらも納税先は市区町村となります。なお、償却資産税は毎年1月31日までに、市区町村に申告した内容に基づいて計算されます。

 納期限は事業年度に関わらず、各市区町村で定められています。ちなみに2021(令和3)年度の東京都は、6月30日、9月30日、12月27日、2月28日です。

 上記以外にも、以下の税金が課されることが考えられます。

住民税

 住民税も源泉所得税と同様に、原則給与の支払いの際に会社が預かり、従業員の1月1日時点の住所がある市区町村に、翌月10日までに納付します。

事業所税

 人口30万人以上の市区町村において発生する地方税で、事業所の床面積や従業員数に応じて課税されます。事業年度終了から2カ月以内に申告と納付が必要です。

自動車税

 4月1日時点の車両の所有者に対して課される地方税です。

印紙税

 事業目的で作成する契約書や領収書など、税法に定められている特定の文書に対して課される国税です。印紙を文書に貼って消印することで納税となります。

 これまで説明した主な税目の納税スケジュールは、表にまとめましたので、ご参照下さい。

 ここからは、税金の納付方法を説明します。

通常の納付書を使うもの

・税務署、都道府県、市区町村の窓口
・金融機関の窓口

専用の納付書を使うもの

・コンビニ

納付書を使わないもの

・クレジットカード
・電子納税

 なお、国税の電子納税については二つの方法があります。

ダイレクト納付

 e-Taxで電子申告または納付情報登録を送信後に、納税額を預貯金口座から振り替える方法です。

インターネットバンキングなど

 インターネットバンキング、モバイルバンキング、ATMからペイジーを使う方法です。

 また、地方税についても、19年10月から地方税共通納税システムが導入され、電子納税ができるようになりました。

 電子納税の普及で、社内での納付手続きが可能になり、納付書の準備や金融機関への外出などの負担が軽減されます。

 定められた期限までに税金を納付できない場合、原則として納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。地方税も同様に延滞金が発生します。

例)国税の延滞税の税率
対象期間 原則 特例
納期限の翌日から2月を経過する日まで 7.3% 延滞税特例基準割合+1%(R3.1.1-12.31までは2.5%)
納期限の翌日から2月を経過した日以後 14.6% 延滞税特例基準割合+7.3%

 また、督促状が送付され、その後も納税の意思が確認できない場合は、財産の差し押さえや、換価(現金化)による徴収手続きが行われます。

 やむを得ない理由で、税金を期限内に納付できない場合には、申請によって換価の猶予又は納税の猶予が受けられます。猶予を受けると延滞税も軽減または免除されます。

 そして、猶予を受けた税金は、猶予期間中に分割して納付することになります。地方税についても同様の申請をすることができます。

 換価の猶予とは、収入が減少し、国税を一度に納付すると事業継続または生活の維持が困難になる場合、原則として1年間財産の差し押さえや現金化(換価)を猶予する制度です。

 猶予を受けるには、納期限から6カ月以内の申請が必要です。また、猶予期間中の延滞税が軽減(※)されます。

 なお、通常は過去分の滞納があったり、納期限から6カ月を超えたりする場合は、換価の猶予の申請はできませんが、一定要件を満たしていれば、税務署長の職権で換価の猶予が受けられる場合もあります。

 納税の猶予は、震災などの災害、新型コロナウイルス感染症の影響による備品の廃棄や損失のほか、事業に著しい損失を受けたことなどで、国税を一度に納付することができない場合、1年間納税を猶予する制度です。

 なお、適用を受けるには申請が必要です。猶予期間中の延滞税は軽減(※)または免除されます。

 ※2021年は延滞税が8.8%から1%に軽減されます

 申請には、以下の書類が必要です。

申請のための書類 換価の猶予 納税の猶予
猶予申請書
財産収支状況書(※1)
担保の提供に関する書類(※2)
災害などの事実を証する書類

(※1)猶予金額が100万円超の場合には、財産目録及び収支の明細書
(※2)以下の場合、担保の提供は不要です
・猶予金額が100万円以下
・猶予を受ける期間が3カ月以内
・提供できる担保がない等の事情がある場合

 やむを得ない理由で、猶予期間内に完納できない場合は、猶予期間終了前に申請することによって、猶予期間の1年以内の延長が追加で認められる場合があります。

 種類や期限が入り交じっている納税は、計画的に進めることが重要です。本章では、スケジュールの立て方を解説します。

 大原則として、税金は期限内に納める必要があります。また、会社は損失が出た時ではなく、資金が回らなくなったときに倒産します。

 そのため、常に資金が途切れることの無いように、納税計画も含めた資金計画をたてる必要があります。

 なぜ納税計画も必要になるのかというと、会社の現預金残高の有無にかかわらず、納税は発生するからです。

 法人は原則、決算時点の利益を基にして法人税等が計算されます。しかし、利益が出ていても、状況によっては、その時点で利益相当額のお金が無い場合もあります。

 例えば、以下のケースが考えられます。

  • 売上代金の回収が遅れている
  • 売り上げが急増し、代金の回収より前にそれに対する仕入れなどの支払いが発生
  • 取引先の都合により在庫を多く抱えている

 また、消費税は期中の売上代金に含まれている額から、仕入れなどで支払った額の差額を納付することになります。これは、利益の有無とは関係なく発生します。

 固定資産税や事業所税も、対象資産を持っていれば必ず発生する税金です。

 このように、会社の納税資金の有無とは関係なく税額は計算されます。納税の時期に資金が足りなくなる、といったことがないように、年間の資金計画に納税計画も含める必要があるのです。

 まずは、会社全体の年間資金繰り計画を立てます。もし事業計画がある場合には、それを基につくることになります。

 事業計画が無い場合でも、売上代金の回収や商品の仕入れ、給与や家賃の支払いなど日々のお金の動きに加え、借入金の返済予定や設備投資の金額と時期などについて、過去の実績や予定を参考に、計画をたてます。

 なお、納税計画は、大きく四つに分けられます。

  • 毎年ほぼ金額が変わらないもの・・・固定資産税等
  • 前期決算に応じて決まるもの・・・予定納税(法人税等、消費税)
  • 毎月発生するもの・・・源泉所得税、住民税
  • 決算時に確定するもの・・・確定法人税等、確定消費税

 これらは、顧問税理士とも確認しながら計画を立てましょう。特に消費税は、毎月一定額を積み立てるなどの堅実な対応が理想です。

 そして大枠ができた段階で、資金が厳しくなる月に関しては、精査したうえで、事前の対策が必要です。

 納税に関して、税務署に相談すると常に言われるのは、滞納を積み重ねないことです。その上で、猶予してもらった税額を、1年間のどの時期に納付できるかを考えます。

 計画は必ずしも毎月定額である必要はなく、今の事業年度にかかる納税や売り上げの季節変動などを考慮して立てることになります。

 では、中小企業はどのように納税計画を立てればいいのでしょうか。ケーススタディーとして、筆者が取り扱った事例を紹介します(個人情報保護のため、設定は一部変更しています)。

 製造業を営むC社に、取引先からの入金の遅れが発生。12月決算における2月末までの消費税の納税が、どうしても難しい状況になりました。

 そのため、決算申告業務と並行して、納税についても相談を受け、税額確定と同時に、社長と所轄の税務署に出向いて相談しました。

 実務上、国税については換価の猶予や納税の猶予ではなく、納付誓約書による分割納付をする場合もあります。

 これは、3カ月以内の納付をする旨を記載した誓約書を提出するもので、猶予申請書などの提出が不要です。

 しかし、延滞税の軽減や免除はされず、納税できなかった場合には督促状の送付、滞納処分へと進みます。

 あくまで今は納付が厳しく、3カ月以内に確実に納付できる場合などの一時的な対応になります。

 相談内容と、それに関する対応を以下にまとめました。

  • 納税が厳しい理由→売掛金の回収遅れ
  • 今後の納付見込み→4月には遅れている代金の回収が行われ、他の売り上げの入金も見込みがある
  • 猶予の期間→5月末までの3カ月間
  • 分割納付の方法→2月末、3月末、4月末、5月末の4回に分けて支払い
  • 対応→今後の資金計画と、猶予申請書などの作成や猶予税額に対する延滞税の負担を考慮して、納付誓約書による分割納付を選択

 上記内容で税務署の確認を受けた後、納付誓約書を作成して提出。誓約書控えと4回分の納付書をもらい、手続きを完了しました。

 C社はその後、計画通り5月末で猶予税額の納付を完了。後日、延滞税の納付も済ませました。

 会社にお金を残して財務体質を強くするには、利益を出し、適切な納税をすることが唯一の方法です。そして、税金は大原則として期限内に納める必要があります。

 しかし、災害やその他やむを得ず一時的に納付することが困難な場合には、申請をすることで猶予が受けられます。新型コロナウイルス感染症で影響を受けた場合も同様です。

 納税資金に不安を感じたら、早めの相談と行動が必要です。その際には、なぜ納付困難になっているかをしっかりと把握しましょう。

 もし、納付困難な状況が続いている場合は、事業そのものに不具合が生じている可能性もあります。

 事業を継続している限り、納税は発生します(特に消費税と源泉所得税)。そのため、一度納税が厳しくなると、それ以降も苦しい状況が続いてしまうこともあります。

 本稿が、納税に悩む皆様の参考になれば幸いです。