目次

  1. 事業計画作成の4ステップ
    1. 目的の明確化
    2. 現状把握
    3. 取り組むべき事業の明確化
    4. 事業計画の実行と検証
  2. 経営理念と事業内容を明確に
    1. 経営理念
    2. 事業内容
  3. 具体的な目標設定
    1. 年ごとの目標
    2. 数値目標
    3. 数字に表れない目標
  4. 現状を把握するためのステップ
    1. 自社の強みと弱み
    2. 競合相手
    3. ターゲット顧客とニーズ
    4. 外部環境
  5. 自社が発展するための第一歩

 前回は、事業計画書の意義や作成のメリット、計画書の構成についてお伝えしました。今回はツギノジダイ読者の後継ぎ経営者の皆さんが、実際に事業計画書を作成する際に、どのようなステップを踏めばいいのか、具体的に解説します。

 事業計画書の作成には、次の四つのステップを踏むことが重要です。

 なぜ会社を設立し、事業を展開しているのでしょうか。どんな会社にも、創業当時の思いがあるはずです。後継ぎの皆さんが事業計画書を作る際は、その思いをもう一度明らかにし、会社の目的を定める必要があります。

 そのうえで、5年後には具体的にどのようになっていたいか。そのためには、自社が3年後にどこまで進むのか。さらに、それを踏まえて1年後までに何をしなければいけないか、逆算して定めていきます。

 次に、自社が現在、どのような状態かを見ていきます。決算書などから見える定量的な分析と、数字には表れない定性的な分析を進めます。定性的な要素とは、例えば、商品・サービスの内容や従業員の質、技術・知識・ノウハウ、立地条件、知名度などが考えられます。

 現状把握によって、自社が定めた目標と現状との間のギャップに、気づくと思います。

 既存事業の強化か、それとも新しい事業を始めるのか。そして、なぜその事業に取り組むのかを明らかにしていきます。

 その際には、事業を進めるにあたっての問題点と解決方法を、行動計画に落とし込みます。具体的には、いつまでに、誰が、何を、どのように、どうやって行動するかを明確にするのです。

 3で示した行動計画の進み具合を定期的に確認し、必要があれば修正していきます。事業計画を立てて満足してしまう方も、少なからずいますが、実際に行動をして結果を出すことで、初めて生きた事業計画になります。

 事業計画を実行した結果、どのようになったかを検証する作業が、重要なのです。

 前章で示した項目は、具体的にどのように進めればいいのでしょうか。今回は「目的の明確化」と「現状把握」について、詳しく解説します。「事業の明確化」と「事業計画の実行と検証」は、次回以降で触れていきます。

 前提として、皆さんはどうして会社を経営しているのでしょうか。創業当時の会社は、どんな思いを背負って経営されていたのでしょうか。先代から創業当時の思いや考えを見聞きしていますか。

 もし聞いたことがなければ、まず先代から創業当時の思いや考えを知ることがスタートラインです。

 なぜこの質問をしたかというと、日々の業務を進めるうちに、自分がなぜ後を継いで、どんな思いで事業を成功させたいかを忘れがちだからです。

 前章で触れた「目的の明確化」は、会社を継いだ原点に立ち返り、事業を通じて世の中に何を訴えたいのかを振り返ることで、自分が今後何をなすべきかを改めて思い出すことです。

 目的を明確にするためのヒントとして、「経営理念」と「事業内容」について考えていきます。

 「経営理念は何ですか」と聞かれて、すぐに答えられる人は少ないと思います。ここで明らかにすべきなのは、以下のポイントです。

  • なぜ、(創業者が)会社を立ち上げたのか
  • なぜ、今の事業を進めているのか
  • 事業を通じて、世の中に何を訴え、何を実現したいのか

 これらの疑問に答える形で、経営理念につながるヒントを具体的に掘り下げていきます。

 誰にどんな商品やサービスを提供しているのかを、改めて明確にすることで、会社の目的やこれから果たすべきことを示していきます。以降に示す表は、筆者が架空のパン屋をもとに作成しました。

項目 内容
経営理念 パンを通じて世の中の人に幸せな時間を提供する
事業内容 食パン、総菜パンの製造販売

 次に具体的な目標を設定していきます。その際に参考になるのが、以下の項目です。

 例えば、パン屋が5年後に3店舗を展開したいという目標を立てたとします。そのためには、3年後に2店舗目をオープンさせ、それに向けて、2年後までに店長候補になる従業員を育て、1年後には正社員を1人採用するといったように、目標からさかのぼって考えていきます。

 年ごとの目標を踏まえた上で、数値計画(売り上げ、経費、利益など)を、1年後、3年後、5年後というスパンで区切って考えていきます。

 数字には表れなくても、顧客などから自社がどのように評価されたいかを具体的に考えていきます。

 例えば、お客様から「○○市内であんぱんが一番おいしいお店」と言ってもらえるとか、従業員がこのパン屋で働けて良かったと思えるようにするなど、数字には表れなくても、社員や顧客が自社のイメージが思い浮かべられるようにすることです。

既存のソフトを活用して、具体的な目標設定を定めることもできます ※参考ソフト:経営支援基幹システムBIZミル(株式会社エイチ・エーエル監修)
質問 内容
目標年数 5年
事業目的 千葉市内に3店舗展開。市内であんパンが一番おいしいお店と言ったら、真っ先に池田パン店の名前が出てくるように営業展開する
売上目標 72000(千円)
利益目標 2000(千円)
想定従業員数 12人

 今後の目標設定をしたら、自社の現状を把握します。その際、現状把握をしてから目標を設定すると、目先の目標になりがちです。

 さらに1段上に進むためには、自分のなりたい姿や目標を設定したうえで、現状と目標との差を明確にし、行動計画を立てる方が、自身が目指す本当の目標に、より早く近づけます。

 自社が置かれている状況を把握できなければ、今後、どんな行動をすればいいかが見えてこないからです。

 具体的には、定量的、定性的な観点に分けて現状把握を進めていきます。

 定量的な分析には、決算書を使います。詳細は、ツギノジダイの連載ページ「経営に生かせる決算書の読み方」をご覧ください。

 定性的な分析は、以下の項目を掘り下げることで、自社の状況を把握しやすくなります。

 例えば、ここでは、「SWOT分析」と呼ばれる手法で、自社の現状把握を進めます。SWOT分析は強み(Strengths)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字をとったもので、自社の内部状況(強みや弱み)と外部状況(機会と脅威)を分析して現状把握をすることです。

 自社の強み、弱みについて、いきなり聞かれても、なかなか出てこないことが多いかと思います。そこで、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源ごとに分けて考えます。

 例えば、ヒトなら、経営者自身の知識やノウハウ、技術や従業員のスキルなどが挙げられます。

 モノは商品・サービスや店舗の立地、設備など、カネなら資金やコスト、情報だと会社の知名度や信頼、IT導入の進度などが挙げられます。

 具体的には以下のステップを踏むことで、強みと弱みを深く把握できます。

  1. 強みや弱みを経営資源ごとに分けて箇条書きする
  2. 箇条書きしたものを、さらに深掘りする。その際は「具体的にはどんなことか」「なぜそのように考えたのか」を自問自答する

 自社と同じ業種の会社は必ず存在します。ライバル企業はどのような事業展開で成功しているか、自社よりも優れている点、逆に自社の方が優れていることは何かを探っていきます。

 他社の事情を探ることは簡単ではありません。しかし、自社から見える範囲で、顧客はなぜ他社の商品を買っているのか、他社がどんな努力をしているのかを分析することはできるかと思います。

 ここで大事なことは、他社がなぜ売れているのか、自社との取り組み方の違いが何かを観察し、今後何をすべきなのかを考えるきっかけにすることです。

質問 回答
競合店 全国に店舗展開するAパン店
自社が弱いところ 広告宣伝の量、安い価格で様々なパンを提供していること
自社が優れているところ 食パンとあんパンは地元のお客様がリピートで購入。あんパンの発売日には行列ができる

 自社にとって、一番の顧客になる人を具体化していきます。

 例えば、駅前にあるパン屋なら「朝食として買っていくサラリーマンや学生」、駅から遠い店なら「焼きたてのフランスパンをすぐに食べたい半径300メートル以内の住民」といったように、イメージを具体的に思い浮かべます。

 そして、その顧客がお店に求めるニーズを明確にしていきます。

質問 回答
自社で自信のあるところ ヒト(技術・知識・ノウハウ)
具体的な強み 経営者はおいしいパンを作る卓越した技術を持っている
その理由 経営者は学校卒業後、30年にわたり業界で腕を磨き、様々なパンを作る。パン作りの世界大会でも表彰を受けている

 今までは自社や他社のことを考えていきましたが、事業を取り巻く外部環境や、それが自社に与える影響についても考える必要があります。

 例えば、新型コロナウイルス感染症では、テレワークが主流になったり、顧客が来られずに休業を余儀なくされたりといった、様々な影響が考えられます。

 外部環境は、政治、経済、テクノロジーの進化、自然災害、外国での出来事など、自社ではコントロールできない事象が大半です。それらと、自社の経営がどのように結びつけるかが、事業計画書の作成には不可欠なのです。

質問 回答
社会情勢で悩んでいること 国内情勢(政治・経済・法律)
脅威 新型コロナウイルス感染症が長く続いている
機会 新型コロナウイルス感染症の影響で働き方が変わり、家で仕事をしたり食事をしたりする機会が増えた

 今回は、事業計画書を自分で作る手順の中で、目的の明確化と現状把握について、解説しました。

 経営者として自社をどのようにしていきたいか、そのためには今後何に力を入れていくべきなのかをクリアにしたうえで、現状を冷静に見極めなければいけません。

 特にコロナ禍は、様々な企業に大きな影響を与えました。今までのやり方ががらりと変わったと感じる後継ぎの皆様も少なくないと思います。

 このような時代だからこそ、自社の軸をしっかりと持つために、自社の在り方について、事業計画書で明確にすることが大事だと考えます。

 この記事をきっかけに、自社が発展するための第一歩として、事業計画書を作成してみてはいかがでしょうか。