目次

  1. なぜ事業計画を作るのか
    1. 社内向けの目的設定
    2. 社外向けの目的設定
  2. 事業計画書を社内で共有するには 
    1. 経営者の考えを伝える
    2. 前期を振り返る
    3. 今後の目標を伝える
    4. 年間の行動計画と数値計画を明示
    5. 部署ごとに行動計画を練る
  3. 事業計画を伝える際の注意点
    1. 伝える対象者は誰か?
    2. 伝える時期と頻度は?
    3. 数字をどこまで伝えるか?
    4. 事業計画をプレゼンする際の注意点は?
  4. 事業計画書を社外に理解してもらう
    1. 誰が話をすればいいか
    2. どんなタイミングで訪問するのが望ましいか
    3. どんな話をすればよいか
  5. 計画書を出す際の注意点
    1. 決算書の書類を持っていくときのポイント
    2. 決算書のほかに持っていくといい書類
    3. 後継者の対応
  6. コミュニケーションを円滑に

 連載3回目は、事業計画書作成の全体像と具体的な作成方法をお伝えしました。今回は経営者や後継ぎが自ら立てた事業計画を、従業員や金融機関の融資担当者らに理解してもらうにはどうすればいいかをテーマに説明します。

 「なぜ事業計画を作成するのか」と聞かれたとき、皆さんはどのように答えますか。

 連載1回目のおさらいになりますが、事業計画書を作成する目的は、社内と社外の二つに分かれます。

 社内向けにつくる目的は次の通りです。

事業目的を明らかにする

 自社がなぜこの事業を始めたのか、この事業を通じてどのようにしていきたいのかを明らかにすることです。

目的達成への行動計画を示す

 目的達成には、具体的な行動計画が必要です。いつまでに、誰が、何を、どのように行動することで目的を達成できるようになるかを明示します。

社内コミュニケーションの円滑化

 会社全体で計画を示しても、事業部ごとに方針がバラバラでは目的には近づきません。事業計画を通じて、会社全体のコミュニケーションを円滑にします。

事業の進捗確認

 計画を立てただけでは絵に描いた餅で終わります。事業計画がどのくらいの達成度合いなのかを常に確認する必要があります。

 社外向けに事業計画書を作る目的として、以下の内容が挙げられます。

資金調達

 例えば、金融機関からの融資や国や地方公共団体などからの補助金を受ける際には、事業計画書が必要になります。

事業への賛同者を募る

 出資などで事業への賛同者を募るのに、具体的な事業計画が無ければ出資の判断などができません。

 目的を振り返ったところで、まずは経営者や後継ぎが事業計画を社内でどのように共有し、生かしていくかを考えてみたいと思います。

 経営者自身が具体的な事業計画を作成しても、それを従業員が実行できなければ意味がありません。

 せっかくの計画を生かすには、まずは社長がどのような思いで会社を経営し、今後のことを考えているかを、自分の言葉で話せるように整理することが重要です(整理の仕方のヒントは連載2回目3回目を参照)。

 話すべきことを整理したら、従業員に向けて事業計画を発表します。この際のポイントは以下の通りです。

 まずは従業員に改めて、経営者の考え方やなぜこの会社の経営をしているのかを伝えます。例えば以下のイメージです。

 池田パン店はただパンを売るのではなくパンを通じて、“日常の中に幸せな時間を提供する”のが仕事です。

 外部環境を踏まえて、1年間の事業活動を評価します。うまく進んだ事業内容やさらに改善できるポイントを、社長自身の言葉で話します。

 新型コロナウイルス感染症の影響で来店客が減る中でも、宅配サービスやパンの移動販売を実施して、昨年とほぼ同じ売り上げを実現することができました。店でお客様を待つだけでなく、パンを求めている人のところにこちらから積極的に働きかけた結果です。会社をさらに成長させるには、お客様にまた店に来ていただける工夫をして、「池田パン店」のファンを増やしていくことが課題になります。

 自社の長期目標やそれを達成するための中期計画を従業員に明らかにします。その際、数値目標だけでなく数値以外の定性的な目標を出すことがポイントです。

 5年後、池田パン店を3店舗で展開できるように事業を進めます。特に名物の「あんぱん」を前面に出し、「○○市内で一番おいしいあんぱんの店と言えば池田パン店」というイメージが定着するように展開していきます。その時の年間売上高は7200万円、営業利益は200万円になります。

 目標を達成するために、この1年どのような活動をしていくのかを明らかにします。

 中期計画達成への第一歩として、来年10月に2店舗目を出店する資金をためていきます。また、○○駅徒歩5分圏内に店舗を構えることを目標に候補を探します。今期始めた移動販売を拡充するために、移動販売の車両をもう1台購入するとともに、移動販売ができる人員を2人増やします。さらに、あんぱんの販売を店頭だけでなくネットにも広げます。新事業も含めた数字は売り上げが4千万円、営業利益が150万円です。

 経営者の話を踏まえて、誰が、いつまでに、どうやって目標を達成するかを部署ごとに考えます。ポイントは、行動レベルにまで落とし込むことです。

 移動販売部門は1月中に、責任者のAさんが新たに移動販売を行うための候補地をピックアップする。

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 これらの骨組みは連載2回目と3回目を参考に、実際にノートなどに書いてみてください。書いたものを自分で読むことで、新たな気づきが出てきます。そして、付け加えたり修正したりして、事業計画書をブラッシュアップします。

 それを何回か繰り返すうち、頭の中で整理ができ、自分の言葉で話せるようになります。

 事業計画を伝える際に、経営者が抱きがちな疑問点にもお答えします。

 原則として、全従業員に伝えるべきです。しかし、企業の規模によって伝え方は変わります。例えば従業員が数人なら、社長が一斉に伝えることができます。

 しかし支社が点在したり、従業員が数十人以上になったりすると大変です。その場合には、まずは経営幹部に事業計画を伝えて、それをもとに各支社で計画を立てて実行する事例があります。

 「経営報告会」という名目で、従業員だけでなく金融機関や関係取引先に1年間の業績と今後の経営方針を発表する場を設けて、事業計画を発表する会社もあります。

 最低限、年1回以上は報告すべきです。事業計画通りに進んでいるかという進捗管理を毎月行うことが一番理想的です。

 自分の会社の状況や、今後はどのように動いていくのかを確認することが、社長と従業員全員が同じ方向を向くためにも必要だからです。

 決算の数字はできる限り隠さずに伝えるべきです。経営者にやましいことが無ければ、数字はオープンにできるはずです。

 数字から自社の現状や、今後取るべき行動を把握することで、目標設定が明確になり、それを達成するための行動計画もより具体的になります。

 目標達成の可否にかかわらず、従業員にはまず感謝の意を伝えるべきです。従業員は同業他社がいる中で、わざわざ自社を選んで働いてくれています。働いてくれたことへの感謝とねぎらいの言葉を忘れないようにしたいものです。

 そのうえで、今期の目標を達成するために、ただ数値目標を言うだけでは物足りません。目標達成した先の未来、例えば、自社がどのように発展しているか、その時働いている従業員がどんな状態なのかを話し、そのためには社長自身が何をするのかを示すことが必要です。

 そんな社長の背中を見て、従業員もやる気になります。ただ指示を出すばかりでは、従業員のモチベーションも上がりません。

 自社で作成した事業計画書は、社外で利害関係のある人にも読んでもらうようにしなければいけません。普段から外部の協力をいつでも得られる体制を作ることが重要だからです。一番イメージしやすいのは金融機関になります。

 ファミリー企業の経営者と後継者が、金融機関の担当者に自社の事業計画を話す際のポイントを、Q&A形式でまとめました。

 社長と後継者2人で行くのが良いです。筆者の経験上いきなり来る方もいましたが、必ず担当者にアポイントを取って行くようにしましょう。

 決算が終わったタイミングで、決算書とともに事業計画書を持っていきます。前期の振り返りと今期の具体的な行動を外部に示すためです。

 基本は従業員向けの項目と同じですが、それにプラスして、金融機関には数字のことを詳しく話しましょう。

 具体的には以下のポイントになります。

前期の数字の振り返り

 社長自身が、前期はなぜそのような数字になったのかを分析します。

 「コロナ禍で売り上げが落ちました」という説明では不十分です。そのような状況でも、自社はどんな事業活動をしたのかを話すことが重要になります。

 仮にその活動が今期の数字として残らなかったとしても、後になって実を結ぶ例は多くあります。例えば、新商品の開発に5年費やしてようやく販売までこぎつけたといった具合です。

 だからこそ、数字に反映されたかどうかは別として、自社が今期取り組んだことを、金融機関の担当者に話すことが大切なのです。

中期経営計画と今期の活動

 前述した従業員向けの内容の2-3、2-4に当たるものです。こちらの項目は、会社の内部でも外部でも重要なので、社長が自分の言葉で話せるようにすると良いでしょう。

数値計画

 事業計画に基づいて行動した結果、どのような数字になるのかを説明します。ポイントは、数字の根拠を示すことです。

 良くない例は「売り上げは前期比120%で推移します」とだけ説明した場合です。なぜ120%と設定したのか、その数値はどこから出てきたのか、それを実現するために何をするのかが、不明確だからです。

 私が以前、金融機関の窓口で融資相談を受けていた時も、時折そのような説明をする経営者がいらっしゃったので、私は必ず以上のことを確認しておりました。

 売り上げについては、なぜその数字になるのか、単価や数量の根拠を示しましょう。

 経費についても、その根拠や削減できる経費がないか、売り上げに比例して増える経費は何か、その結果、利益がどのくらい残るのかを示すことが必要です。

 それによって、自己資金で賄うことができるのか、もし足りない場合はどのタイミングで融資を相談するかを伝えておくことで、金融機関の担当者も支援しやすくなります。

 そのほか、金融機関に資料を出すときには以下のことを意識しましょう。

 金融機関の担当者に決算書を求められた場合、貸借対照表と損益計算書しか持ってこない経営者が多いですが、これはNGです。

 法人なら必ず、法人税などの申告書の書類や勘定科目内訳明細書も一緒に持っていきましょう。金融機関は決算書の中身だけでなく、期限までに申告しているか、どのような取引先があるか、借入金の状況などチェックをする項目が多くあるからです。

 今期の事業計画書はもちろん、前期1年間を振り返るリポートを持っていくのが良いでしょう。書式は何でも構いません。

 例えば、1年の売り上げと利益は計画と比べてどうだったか、達成できなかったとすれば原因はどこにあるか、今期の計画を達成するためにどのような行動をするのかを記載することで、金融機関も融資や会社の評価をする際の資料として活用できます。

 実際にあった例として、何も資料を持たずに来た社長から「1千万円を貸してほしい」という相談がありました。決算の状況から金融機関の担当者は一度は「500万円であれば貸せる」と回答しました。

 しかし、上記で述べた資料を準備して再度相談した結果、希望額の1千万円を借りられました。

 社長が現状把握や今後の具体的な行動計画を書面で示した結果、担当者はこの会社の売り上げが上がり、資金繰りにも余裕ができると判断したのです。

 金融機関が会社を評価する際は、定量的、定性的に見ていきます。

 定量的な評価は決算書の数字で判断します。一方、定性的な評価は数字以外の部分を見ていきます。その中の一つが後継者についての評価です。

  • 後継者がいるか
  • 後継者は今までどのような仕事を経験しているか
  • 自社の状況をどのように把握しているのか
  • 今後どのように自社の経営を考えているか

 担当者は以上のポイントを確認します。例えば、先代が行ったことを考えもなくそのまま引き継いで事業を展開するという後継者では、自身の考えが見えてこないので評価のしようがありません。

 これに対し、後継者が自社の強みや弱みを自分なりにまとめ、今後の事業について明確な目標があれば、金融機関としても一定の評価をすることが多いです。

 事業計画を立てる理由の一つは、経営者自身が従業員や金融機関などとのコミュニケーションを円滑にすることです。

 計画を作って終わりではなく、外に向けて発信して理解してもらうことで、周りの人たちの助けを借りることができ、事業が前に進むのです。事業計画書の伝え方のノウハウを、ぜひ実践していただければと思います。