取引信用保険とは?補償内容やファクタリングとの違いをわかりやすく解説
「貸し倒れによる資金繰りの悪化は防ぎたい」と考えている経営者も多いのではないでしょうか。多額の損失が発生しかねない貸し倒れに対処する方法として「取引信用保険」があります。この記事では、取引信用保険に加入するメリットやファクタリングとの違いなどをわかりやすく解説します。
「貸し倒れによる資金繰りの悪化は防ぎたい」と考えている経営者も多いのではないでしょうか。多額の損失が発生しかねない貸し倒れに対処する方法として「取引信用保険」があります。この記事では、取引信用保険に加入するメリットやファクタリングとの違いなどをわかりやすく解説します。
目次
取引信用保険とは、取引先の倒産によって売掛債権を回収できなくなるリスクに備えられる保険です。取引先の倒産や破産などで、売掛金や売掛手形などが回収できなくなって損害が生じると保険金が支払われます。
法人同士の取引のほとんどは、決められた期日までに代金をあとで支払う掛取引です。
掛取引では、商品を販売してから代金を受け取るまでに期間があるため、さまざまなリスクが生じる可能性があります。例えば債権を回収するまでのあいだに取引先が倒産してしまうと、会社は売上金などを得られなくなってしまいます。
売上金が得られなくなると、会社の資金繰りが悪化して経営に支障が生じかねません。たとえ黒字経営であっても、自社の資金繰りが悪化してキャッシュが尽きると連鎖倒産してしまいます。また他の取引先の売掛金を払えず、迷惑をかける恐れもあるでしょう。
取引信用保険に加入していると、保険金で損失を補填することが可能になるため、資金繰りの悪化を防止できます。
取引信用保険に加入して保険料を支払うと、以下のようなケースで取引先が債務を履行しなくなったとき保険金が支払われます。
取引信用保険を申し込むと、保険会社が取引先を調査して倒産や破産などのリスクを分析します。分析結果をもとに、保険金の支払限度額が決まる仕組みです。補償の対象となる取引先ごとに支払上限額を設定する場合もあれば、小口の取引先に限って一定の限度額まで補償する場合もあります。
支払われる保険金は「損害額に縮小率をかけた金額」と「支払上限額」のどちらか高いほうとなるのが一般的です。保険会社の多くは、縮小率を90〜95%程度に設定しています。
例えば損害額が2000万円、保険金の支払上限額が1500万円、縮小率が90%であるとしましょう。損害額に縮小率をかけた金額が2000万円×90%=1800万円であるのに対し、支払上限額は1500万円です。よって支払われる保険金は、1500万円となります。
取引信用保険の保険料は、保険会社が設定する支払限度額の1〜3%が相場です。例えば、支払限度額1億円、保険料率3%である場合、年間の保険料は1億円×3%=300万円です。
保険料率は、加入先や取扱保険会社によって異なります。また補償の対象となる取引先の数や、取引先の信用情報によって保険料率が決まることもあります。
取引信用保険の内容を聞くと、ファクタリングとどう違うのか、という疑問がしばしば出てきます。
ファクタリングとは、回収していない売掛債権を売却して現金化できるサービスです。ファクタリングを利用することで、お金を借りることなく資金調達できます。
取引信用保険は、売掛債権が回収できなくなったときの補償であるのに対し、ファクタリングは資金調達の手段である点が主な違いです。
また取引信用保険は、先に保険料を支払っておき、取引先が倒産したり破産したりすると保険金が支払われる仕組みです。一方のファクタリングは、売掛債権を売却したときに手数料が徴収されます。
取引信用保険の保険料は、取引先の支払限度額の1〜3%ですが、ファクタリングの手数料は売掛金の10〜30%ほどです。一概には比較できませんが、ファクタリングのほうが、取引信用保険よりもコストが割高な傾向にあります。
取引信用保険に加入するメリットは、以下の3点です。
一つずつ見ていきましょう。
取引信用保険に加入していれば、取引先が倒産して売掛金を回収できなくなっても、保険金でカバーできます。保険金を受け取ることでキャッシュフローの悪化を防げるため、資金がショートしてしまうリスクを抑えることが可能です。
また取引信用保険に加入すると、保険料の支払いが発生するものの、貸し倒れ損失の発生を防止できます。貸し倒れによる多額の損失を、保険料という毎年一定のコストに平準化できます。なお取引信用保険の保険料は、損金に計上が可能です。
売掛債権を回収できなかった場合、仕入れ先や金融機関、株主などから資金ショートを不安視されるでしょう。取引信用保険に加入して売掛債権を保全すると、金融機関をはじめとしたステークホルダーから「この会社は貸し倒れをするリスクが低い」と評価してもらいやすくなります。
また取引信用保険に加入して信用力が高まれば、さらに取引先を拡大したり、金融機関から追加の融資を受けたりすることも可能です。
なお取引先に取引信用保険の補償対象となっている事実は通知されません。そのため、取引先に不快感を与える心配はないでしょう。
専用の部門を設けていたとしても、取引先の信用状況を常に把握するのは困難です。自社の力だけで、貸し倒れのリスクを抑えるのは簡単ではありません。
取引信用保険を申し込むと、保険会社による取引先の審査が実施されるため、企業自身が行う与信管理と二重で取引先の信用を確認できます。
また取引信用保険に加入したあとも、保険会社から取引先の信用情報を提供してもらえます。取引先の信用に不安が生じたとのであれば、実際の損害が発生する前に取引を縮小して損害を抑制できるなど、経営を判断する際にも役立つでしょう。
一方で取引信用保険には、以下のデメリットがあると考えられます。
取引信用保険は、デメリットを理解したうえで加入するか判断することが大切です。
取引信用保険に加入する際は、保険会社による取引先の与信審査を受けなければなりません。審査の結果次第では、補償額が希望に届かなったり、保険料が割高になったりすることがあります。
また倒産や破産などのリスクが高い企業であると保険会社に判断されると、補償してもらえないこともあるのです。
取引信用保険に加入するときは、補償対象となる取引先について「全取引先」「10社以上」「売上上位10社」などと指定します。また商品や事業内容などで、補償の対象となる取引先を指定する場合もあります。
そのため取引信用保険は、特定の取引先のみを補償対象に指定して加入できません。
取引信用保険を取り扱っている保険会社の例は、次の通りです。
また全国中小企業団体中央会や各都道府県の法人会連合会などは、契約者が団体となっている保険料が割安な取引信用保険に加入できます。会社が所属している団体で、取引信用保険が取り扱われていないか今一度確認してみてはいかがでしょうか。
取引信用保険に加入していれば、取引先から売掛金を回収できなくなったときに保険金を支払ってもらえます。たとえ1社でも、売掛金が回収できないと資金繰りが悪化したり連鎖倒産が発生したりしかねません。リスクに備えてより安定的に会社を経営していきたい方にとって、取引信用保険は心強い備えであるといえます。
ただし取引信用保険に加入すると、保険料の支払いが発生します。また特定の1社のみを補償の対象に指定できません。補償内容と保険料負担のバランスをもとに、自社にとっての必要性を考えることが大切です。
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