目次

  1. 事業計画書とは
  2. 事業計画を作らない理由
  3. 事業計画書を作る目的とは
  4. 社内向けに計画書を作成する目的
    1. 自社の目的を明らかにする
    2. 目的達成への行動計画を明らかに
    3. 社内コミュニケーションの円滑化
    4. 事業の進捗確認
  5. 社外向けに計画書を作成する目的
    1. 資金調達を行う
    2. 事業への賛同者を募る
  6. 事業計画書の構成
  7. 経営理念とビジョンの策定
    1. 経営理念
    2. ビジョン
  8. 事業概要の策定
    1. 事業の目的
    2. ターゲットとする顧客
    3. マーケティング
    4. 競合分析
    5. 数値計画

 事業計画書は、事業を進めていくうえで、羅針盤の役割を果たしています。初めての目的地に行くのに、地図を持たずに出かけると道に迷ってたどり着けません。

 事業も同じように、目標を定めて、その目標にたどり着くためにどんな道のりを選んで、どのような手段で進めていくかを考えることが重要です。従って、事業計画書はとても大事なものになります。

 しかし、中小企業庁の小規模企業白書(2016年版)によると、「経営計画の作成の有無」について、小規模事業者の47%は「作成したことがない」と回答しました。

経営計画の作成の有無(以降の画像はすべて、2016年版の小規模企業白書から引用)

 なぜ、事業計画書を作成しない経営者が半数近くいるのでしょうか。同白書によると、「特にない」(45.7%)、「現状維持ができれば良いため」(41.9%)、「『計画』など大仰なものは不要なため」(37.2%)などの理由が挙がりました。

経営計画を作成したいと思わない理由

 筆者が理由を分析すると、二つに分類できます。一つは「そもそも事業計画は不要である」、もう一つは「事業計画書を作りたいが作成する時間が無い、または作成方法が分からない」というものです。

 それでは、事業計画書を作成する必要はどこにあるのでしょうか。

 事業計画書を活用するシーンとしては、金融機関からお金を借りる、補助金の申請をするときなどが挙げられます。

 事業計画書を作成する目的は、大きく分けて、社内向け、社外向けの二つがあります。

 以下、順番に解説していきます。

 自社が、なぜこの事業を始めたのか、事業を通じてどのようにしていきたいのかを明らかにすることです。

 目的を達成するためには、具体的な行動計画が必要です。誰が、いつまでに、何を、どのように行動することで、目的を達成できるようになるかを明らかにします。

 会社全体で計画を示したとしても、事業部ごとに方針がバラバラでは、目的達成には近づきません。事業計画を通じて、会社全体のコミュニケーションを円滑にします。

 計画を立てただけでは絵に描いた餅で終わります。事業計画がどのくらい達成しているかを、常に確認する必要があります。

 例えば、金融機関からの融資や、国や地方公共団体などから補助金を受ける際には、事業計画書が必要になります。

 事業に賛同してくれる人がいても、具体的な事業計画が無ければ、出資の判断などができません。

 前述の小規模企業白書によると、計画作成がもたらした効果として、「経営方針と目標が明確になった」(73.8%)、「自社の強み・弱みを認識できた」(68.6%)、「販路開拓のきっかけとなった」(38.5%)、「資金繰りの状況が把握できた」(29.6%)などが挙げられています。

経営計画を作成した効果

 特に注目していただきたいのは、目標や自社の強み・弱み、資金繰りの状況が明らかになったという点です。それまで何となくもやもやしていたことが、事業計画を作ることで明確になり、事業を進めやすくなったことが、一番大きな効果だと考えられます。

 では、事業計画書をどのように作成すればよいでしょうか。

 事業計画書は決算書などと違い、決められたフォーマットがありません。そのため、何を書けばよいのか迷う方も非常に多いと思います。

 それでも、融資を受けようとする場合、金融機関によっては専用のフォーマットがあります。

 例えば、日本政策金融公庫の「企業概要書」では、企業の沿革や経営者の略歴、事業内容、従業員の数、自社の強みや課題、取引先について書くようになっております。

 また補助金でも、記載すべき内容が決まっています。例えば、小規模事業者持続化補助金の場合、以下のような内容を書くように求められます。

  • 企業の概要
  • 顧客のニーズ市場の動向
  • 自社や自社の提供する商品・サービスの強み
  • 経営方針・目標と今後のプラン
  • 販路開拓の取り組み方法
  • 業務効率化の取り組み内容
  • 補助事業の効果

 このような計画書は自分で書こうとしても、普段書きなれていなければ、大変苦労すると思います。

 事業計画書を作成するために、どんなことを考えていけばいいのでしょうか。筆者の経験をもとに説明します。

 なぜこの事業を立ち上げたのか。事業を通じて、世の中にどんなことを訴えかけたいのか。これらは、経営理念を考える際に大事なポイントになります。

 有名企業のホームページを見ると、必ずと言っていいほど経営理念が掲げられています。例えば、体重計などで知られるタニタであれば、「『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献していく」といった理念を掲げています。

 事業を通じて、どんな世の中にしていきたいのかを考えるのが経営理念です。例えば、パン屋を開いている事業者であれば、「焼きたてパンを通じて、多くの方々に幸せの時間を提供する」という経営理念もあるかもしれません。

 経営理念をもとに、数年後にどんな会社になりたいかを具体的に考えていくのがビジョンです。数字に落とし込むことに加え、数字に表れない定性的な面も考えることが大切です。

 例えば、先ほどのパン屋であれば、「3年後に○○市に2店舗目のお店をオープンさせ、○○市でパン屋と言ったら□□パン店というイメージを持ってもらう」というビジョンも考えられます。

 自社が展開している事業を具体的に記載します。パン屋であれば、食パンや総菜パン、フランスパン、サンドイッチがあり、店内でも食事ができるスペースがあるといった内容になります。

 特に来てもらいたい顧客には、どのような特徴があるのかを考えていきます。パン屋の場合、店舗が駅前にあるので、通勤客や学生が多く利用するといった具合です。

 自社の商品やサービスを、どのようにして販売していくかを考えることです。パン屋なら、商品の内容をどのようにするか、パンの単価の設定、店舗の場所をどこにするのか、販売促進の仕方を考えます。

 自社の事業には、必ずライバルがいると考える必要があります。どんな会社がライバルになり、その会社はどんな方法で事業を成功させているのかを分析します。

 パン屋なら、「A店は朝6時から営業している」、「B店は駅から徒歩20分だが、フランスパンの評判が良く、焼き上がり前には常に並んでいる」といった分析をする必要があります。

 これらの事業を展開した結果、売り上げや経費、利益がどのくらいの数字になるのかという計画を立てます。

 特に金融機関は、ただの数字の積み上げではなく、数値計画の根拠や、現実的に達成できそうなのか、という視点で見ています。

 よくある計画の立て方として、「売り上げや経費を前年の10%増で算出した」というのがあります。しかし「なぜ10%増で計画を立てたのですか?」と経営者の方に聞いてみても、答えられないことが多くあります。なぜ10%増にしたのかという根拠の説明が必要です。

 例えば、売り上げや経費が増える根拠として「新規の顧客が1件増えて、その顧客が毎月10万円ずつ購入する」、「販売力向上のために営業社員を1人雇い、年間で人件費が300万円増加する」などが考えられます。

 以上のように詳しく説明してあればよいのですが、具体的な内容を示さずに、とりあえず売り上げと経費を昨年よりも10%増にしようというのでは、数字に説得力がありません。

 数値計画については、算出の根拠や現実的に達成できそうな数値なのかを考える必要があります。

 以上の5項目を考えることで、今後自社が何をしたいか、どのような事業を展開したいかが見えてくると思います。

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 本稿では今回も含めて5回にわたり、事業計画がなぜ必要なのか、 事業計画をどのように作るのかについて、深掘りする予定です。

 次回以降は、事業計画を作成するためにどんなことを考えればよいかを、より深くお伝えします。