CESに集う日本発スタートアップ 「ビジョンの見本市」から学ぶ経営
世界最大級のデジタル技術・製品見本市「CES」が2022年1月、米国・ラスベガスでリアルとオンラインの両方で開かれます。グーグルやソニーなどの大企業による華やかなショーが目立ちますが、出展企業の大半は中小企業で、日本からの参加も少なくありません。国内スタートアップのCES出展を支援するコンサルタントの佐藤広子さんが、CESから学び取れる中小企業経営のヒントについて、詳しく解説します。
世界最大級のデジタル技術・製品見本市「CES」が2022年1月、米国・ラスベガスでリアルとオンラインの両方で開かれます。グーグルやソニーなどの大企業による華やかなショーが目立ちますが、出展企業の大半は中小企業で、日本からの参加も少なくありません。国内スタートアップのCES出展を支援するコンサルタントの佐藤広子さんが、CESから学び取れる中小企業経営のヒントについて、詳しく解説します。
目次
ラスベガスでは毎年1月になると、世界中のテック業界関係者が、CESに参加するために集まります。その数は約18万人にのぼります。お目当ての一つは、「ユーリカパーク」と呼ばれる、スタートアップ専用の展示会場です。開設初年度の12年は94社だった出展社数は、20年は1200社にまで伸び、斬新なガジェットやテクノロジーが、メディアの話題をさらいました。
ユーリカパークは展示ブースが国別になっているのが特徴です。日本勢は日本貿易振興機構(ジェトロ)が運営し、「J-startup」と呼ばれる展示コーナーに出展しています。こちらの出展社数も、初年度の22社から3年で53社へと倍増しました。
しかし、その規模は、16年にフランスが開設した展示スペース「French Tech」にはかないません。コロナ禍で全面デジタル開催となった21年でも100社が出展。それ以前は400社以上で、米国に次ぐ展示数を記録しています。韓国の展示スペース「K-Startup」の出展社数も21年は97社となり、フランス勢を追い上げています。
近年、スタートアップ企業は、ビジネスやテクノロジーのあり方を覆す画期的なイノベーションの源泉として注目を集めてきました。ユーリカパークは、若い企業がCESを舞台に画期的なアイデアを送り出しやすくなるよう、狭いながらも通常より安価な展示スペースを提供する目的で開設されたと言われています。
先鋭のスタートアップをめがけて、投資家とジャーナリストも詰めかけます。ユーリカパーク開設以来、ここに出展した企業への投資は、合計で10億ドルに上るそうです。スタートアップは今や、世界経済の原動力で、CESの主役と化しているのです。
では、スタートアップなどの中小企業がユーリカパークに出展するには、どうすればいいのでしょうか。
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まずは、展示するプロダクトやサービスが「市場に多大なるインパクトをもたらす可能性がある、イノベーティブなもの」であることが前提です。また、企業として初めて製品をローンチしてから、2年以内でなければいけません。ユーリカパークには初めて展示する企業が優先され、参加は最多で2回までとなっています。
CESの運営団体「コンシューマー・テクノロジー・アソシエーション」(CTA)が上記を含む九つの条件を満たしているか審査。条件に合っていることをきちんとアピールしないと、申し込んでもふるい落とされるケースが少なくありません。
CESの真の魅力は、展示されている技術や製品から、世の中の動きをいち早く読み取り、そこから自社の経営ヒントが得られるところにあります。このため、筆者はCESを「ビジョンの見本市」と呼んでいます。
CESは販売前の新しい技術やアイデアを初公開する場所であり、開発中のプロトタイプが展示品の大半を占めます。商品化までまだ数年かかりそうなものや、最終的に市場で日の目を見ることなく終わるものも少なくありません。
しかし、これらの展示品には、開発者たちが思い描く未来の生活のイメージが投影されており、この先、テクノロジーがどう社会に組み込まれることになりそうか、うかがい知ることができます。
日本の中小企業もCESへの出展で、未来へのビジョンを示しています。
京都市を拠点とするテクノロジー・スタートアップの「mui Lab(ムイラボ)」は、19年、木製のスマートホーム向けメッセージボード「mui」をユーリカパークで初めて展示しました。
天然木でできたボードの表面に触れると、白のドットで構成された文字やアイコンが静かに浮かび上がり、使い終わると光が消えてただの木の板に戻るというものです。
テクノロジーの存在を消して、家具のようにインテリアになじみ、人の生活に調和します。その魔法のような仕掛けと美しいデザインが、参加者を魅了しました。
「未来のテクノロジーは作為的でなく『無為自然』な形で生活のたたずまいに溶け込むべき」という同社のコンセプトと、ガラスの替わりに天然素材でサイネージを作るというアイデアが、国内外のメディアから大きな反響を呼びました。
様々な媒体に記事が載ったことから問い合わせも増え、更なるビジネスチャンスが生まれたそうです。19年にはCESの主催団体であるCTAがとりわけ秀でていると判断した展示製品・技術に与えられる「CESイノベーションアワード」を獲得。「企業としての信頼度が高まり後押しになった」といいます。
21年1月の「CES 2021」では、クォンタムオペレーション(東京都中央区)が、針を使わない非侵襲血糖センサーを出展。これからの糖尿病患者の血糖モニタリングのあり方を変える可能性を秘めた技術として、脚光を浴びました。
「目的は癒やしを与えることだけ」という海外では見受けられないロボットのあり方を打ち出すGroove X(東京都中央区)のほか、Vanguard Industries(東京都港区)、ユカイ工学(東京都新宿区)もロボットの展示で話題となりました。
CESの参加者は技術や製品そのものより、未来の技術のあり方や世界観といった、より大きいものを探し求めています。CESはいわば、イノベーターによる「ビジョンの見本市」なのです。
こうした知見は、国や業種を問わず、経営戦略を立てる上で非常に参考になるはずです。CESで展示されるテクノロジーの領域はますます広がり、全ての人に役立つ情報の発信地となりつつあります。
22年1月にラスベガスの会場とオンラインでの同時開催となる「CES 2022」では、宇宙技術スペーステックとフードテックが、新たにカテゴリーとして追加されます。
スペーステックは宇宙開発に必要とされる様々な技術の展示が期待されます。フードテックでは、土を使わずに育てるバーティカルファーミング、食品の生産から消費まで追跡するトレーサビリティー技術、食材のイノベーションなど幅広いテーマが含まれます。
21年9月末日時点でCESのウェブサイト上で出展を予定しているフードテック企業は、米国と韓国からの6社です。
米国は植物由来の人工肉を開発している「Impossible Foods 」(インポッシブル・フーズ)や、授乳しやすい哺乳瓶を開発する「BisbeeBaby」(ビスビーベイビー)、韓国はバーティカルファーミングや遠隔鉢栽培を手がける「N.THING」(エヌシング)、人工知能技術を利用して一流シェフに代わる調理が可能なシステムを開発する「Beyond Honeycomb」(ビヨンド・ハニーコーム)などが、参加予定です。
「CES 2022」ではさらに、ノンファンジブル・トークン(NFT)やイニシャル・コイン・オファリング(ICO)などを含む、デジタルアセットの業界にむけた新しいプログラムを開始するという発表もありました。
こうした新しいトピックをはじめ、車からヘルスケアからロボットまで幅広い領域において先端技術を学び、未来の社会の方向性をいち早く感じ取れるのがCESの面白さです。
国内にいる中小企業の後継ぎ経営者も、当地からの取材リポートに注意を払うことで、現在進行形のトレンドでなく、これからやってくるであろう波に向けた経営判断が可能になります。
2年ぶりに対人形式が復活し、オンライン出展とも併用で開催される「CES 2022」。ますます目が離せない「ビジョンの見本市」となりそうです。
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