コロナ禍でも広がる後継ぎたちの輪 パートナー団体の活動を紹介
新型コロナウイルスの感染拡大は、中小企業後継ぎたちの交流団体の活動にも大きな影響を与えました。オンラインのイベントや勉強会に力を入れたり、コロナ禍の後を見据えた活動を模索したり。制約の中でも、業種や地域をまたいで交流を深めている、ツギノジダイのパートナー団体の活動を紹介します。
新型コロナウイルスの感染拡大は、中小企業後継ぎたちの交流団体の活動にも大きな影響を与えました。オンラインのイベントや勉強会に力を入れたり、コロナ禍の後を見据えた活動を模索したり。制約の中でも、業種や地域をまたいで交流を深めている、ツギノジダイのパートナー団体の活動を紹介します。
目次
10月末、東海地方を拠点とする交流団体「跡取会」が、名古屋市内で対面の定例会を開催しました。リアルの定例会は約2年ぶり。約30人が参加し、経営や事業に関する悩みや経営課題をぶつけあうなど、会話に花を咲かせました。
跡取会は2019年、同市内で鮮魚卸や居酒屋を営む「寿商店」の森朝奈さんが会長となり、発足しました。月1回ペースで定例会を開いていましたが、コロナ禍の後は、オンラインでの勉強会が中心となりました。
「リアルじゃないと参加率も良くなかった。仲間と会えるのはうれしいです」。副会長の加藤慎二さん(46)は、声を弾ませます。
加藤さんは、1945年に創業した名古屋市のとんかつレストラン「気晴亭」の3代目。家業は、コロナ禍の影響で大赤字になったといいます。それでも、事業再構築補助金を活用し、急速冷凍技術を採り入れて、看板商品の薄皮焼まん「まんざ」を販売するなど、チャレンジを続けました。
料理人だった加藤さんは元々、経営にはノータッチでしたが、同じ飲食業の後継ぎの森さんに刺激を受けて跡取会に加わり、運営メンバーとなりました。「若いのに成功している後継ぎと話ができ、経営について知らなかったことを教えてもらえる、貴重な機会となっています」
名古屋市でペット用品の卸売業を手がける「アメリカンフーヅ」社長の金子倫央さん(34)は、定例会の参加常連です。跡取会の立ち上げ後、3代目として家業を継承したばかり。「ポジティブな後継ぎの皆さんから、色々な話を聞けて恩恵を受けています。具体的な経営戦略の相談にも乗ってくれました」
ステイホームの広がりで、ペットのマーケットが拡大する中、金子さんは年末に屋内型のドッグランをオープンし、事業拡大を進めます。
大阪府から参加したのは、府中央卸売市場で、淡水魚や川魚を扱う「タナベ」の後継ぎ、田辺真希さん(36)です。「魚屋で働いている女性は少なく、周りで競りに出ている女性もほぼいません。女性で魚屋として活躍している会長の森さんの存在を知り、メンバーになりました」
跡取会の縁で仕入れにつながるなど、プラス効果が出ています。対面での参加は、この日が初めて。会長の森さんは不在でしたが、同じく参加した魚屋の後継ぎの女性と、交流を深めていました。
「父が社長ですが、親の七光りと言われないように、販売力を身につけないといけません。普段は魚屋の女性の話し相手が少ないので、跡取会はモチベーションにつながるし、感謝しています」
跡取会は今後、コロナの感染状況を見ながら、毎月定例会を開催し、若い学生にも気軽に参加してもらうなど、活動の輪を再び広げる方向です。
神奈川県藤沢市の養豚業後継ぎ・宮治勇輔さんが共同運営者を務める家業イノベーション・ラボは、20年以降オンライン中心の活動にシフトしてきました。
全国の家業後継者同士が、つながりを持ちながら切磋琢磨できるように、セミナーやイベントのほか、アイデアソン、クラフトソン、家業経営革新プログラムなど、中長期のプログラムを企画。ビジネスアイデアの種を生み出しています。
イベント後のネットワーキングの機会が課題ですが、同団体は「後継者同士がつながれるライトなオンライン交流会、初めて家業イノベーション・ラボに参加するメンバー向けのガイダンスセッションを、月1回のペースで新たに実施しています」としています。
今後も、基本的にはオンライン中心の活動を続けながら、東京を中心に集まれるメンバーを対象にしたリアルイベントも、状況に応じて開く意向です。
34歳未満の後継ぎが集う「ベンチャー型事業承継」も、新型コロナの影響を受けました。オンラインサロン内での後継ぎ同士の定例会や分科会はすべてオンライン化し、対面での接触はほぼ無くなりました。
一方、同団体のコミュニティー・マネジャーの衛門宏樹さんは「オンラインを中心に、地域をまたいだ後継ぎ同士がつながることで、交流の機会は圧倒的に増えたと考えています」と話します。
ピッチイベントでは配信業者のクオリティーを高め、トークイベントや新規事業開発講座では、Zoomのブレークアウトルームを活用し、リアル開催よりも質問の量を増やすことができました。
多くの人が集まるイベントでは、当日のコミュニケーションを円滑にするためにoviceというツールを活用し、満足度を高める工夫を凝らしました。
ただ、オンライン開催は、申込者数に対する参加率が悪くなる傾向があります。衛門さんは「申込時に、メールアドレスだけでなく電話番号も取得し、イベント前にしっかり接点を持つことを心がけました」と言います。
今後は、対面イベントを増やす一方、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型の活動が基本になるとしています。
家業の女性経営者が集う「日本跡取り娘共育協会」(跡取り娘.com)はコロナ禍になり、毎月1回、オンラインの交流会や勉強会などを積極的に開催しました。
以前は、首都圏の会員が大半でした。しかし、オンラインで地域の枠組みが外れたことで、福井、広島、静岡、長野など、今まででは得られなかった広いネットワークを構築し、会員数も70人に伸びました。
同協会は企業研修やワークショップなどの経験を豊富に持つメンバーが在籍。「オンラインでも単なる一方通行ではなく、十分な心理的安全性を確保しながら、話し合うことで互いの共感を深め、自らも話すことで自分自身の考えを整理することができました」としています。
21年10月には、静岡県内での女性経営者・後継者のネットワークを構築している「A・NE・GO」とオンライン交流会を開催しました。
11月は、神奈川県鎌倉市の老舗やベンチャー企業を視察するツアーも企画するなど、リアル企画も再開させています。12月12日には東京都内で、ダイヤ精機の諏訪貴子社長を招いた「跡取り娘のためのプレゼンテーション講座」を、対面で開く予定です。
同協会は「オンラインの交流会や勉強会も、毎月1回をめどに継続開催しながら、さまざまな地域の方々とも連携した、協働イベントも開催する予定です」としています。
一般社団法人「2代目お坊ちゃん社長の会」は、東京都多摩市の自動車整備工場「京南オートサービス」社長の田澤孝雄さんが中心となり、コロナ禍のまっただ中の20年に立ち上がりました。
当初からオンラインをベースに立ち上げ、経営者のプレゼンテーションなどを盛り込んだ勉強会を毎月開いています。
家業の2代目の田澤さんは「会員はZoomに慣れている方が多く、内容の濃い定例会ができています。出席率も非常に高く、オンラインの良さを享受しています」と手応えをつかんでいます。
同会は業務改善ツールを提供している企業と提携し、DXをテーマにしたセミナー開催にも協力しています。
全国から会員が集うようになり、今後は、オフラインでのパーティーも考えています。
田澤さんは「会員で素晴らしい実績を出した方を表彰するなど、リアルでしかできない体験を提供したいです。オンラインは真面目な学びの場、リアルは懇親の場として使い分けていきます」と話しています。
家業をサポートしたいと考える人たちのコミュニティーである「家業エイド」も、コロナ禍で完全にオンラインのイベントにシフトしました。色々な家業の業種を集めたミートアップイベント、家業の商材を持ち寄ってのアイデア会などを企画しました。
運営事務局の梅田裕介さんは「ニーズに合ったイベントかどうかが重要なので、メンバーの生の声を聞いて活動しています」といいます。
家業エイドは、全国からメンバーが集まっているのが魅力で、リアルではつながりにくい、自分と同じ家業を持つ人たちとつながれます。
梅田さんは「オンラインの魅力を生かしたイベントや、コミュニティー内での助け合いを引き続き活性化させていきます。同時に状況を見極めつつ、オフラインでの活動も検討していきたいです」と話しています。
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