目次

  1. 東日本大震災が決めた方向性
  2. マスマーケティングからの変化
  3. オンラインイベントが80~90%に
  4. 中小企業が取り組みやすい理由
  5. 個人情報をどこまで持つべきか
  6. 少なくても熱量の高い人を
  7. 知らない世界がたくさんある

――原田さんと藤田さんは、2011年にPeatixを立ち上げました。それまでどのようなキャリアを経験したのでしょうか。

 原田卓さん(以下、原田):ニューヨークで生まれて、日本と米国を行ったり来たりという生活でした。最初はソニー・ミュージックエンタテインメントに入社して、音楽とインターネットを組み合わせたビジネスが生まれる端境期を経験しました。

 2001年にアマゾンジャパンに移り、書籍からCD、DVD、ゲームソフトへと(取扱商品の)カテゴリーを広げる責任者を務めました。アップルでiTunesのマーケティング担当を務めた後、アマゾンに戻ったのですが、自分でビジネスを立ち上げたいという思いが募り、藤田たちと作ったのがPeatixです。

 藤田祐司さん(以下、藤田):人材紹介会社を経て、原田の少し後にアマゾンジャパンに入り、マーケットプレイスのマネジャーを務めるなど6年ほど在籍しました。同僚だった原田と仲良くなり、09年にアマゾンを辞めて2年間色々なサービスにチャレンジしながら、Peatixにたどり着きました。

――イベントの企画やチケット販売などがだれでも手軽にできる。そんなPeatixのビジネスモデルはどこから着想したのですか。

 原田:色々なビジネスにトライする中で、音楽のアーティストを助ける仕事もしていました。ライブやコンサートのチケット販売が煩雑で非効率であることを知り、電子チケットをクラウドで管理するサービスはできないか、と思って始めたのがPeatixになります。

 Peatixの一貫したテーマは、個人や中小企業を支えて価値を提供することです。当初は音楽で始めましたが、色々なジャンルの方々に利用していただき、Peatixはコミュニティー作りの場だと気付きました。

 藤田:Peatixが東日本大震災直後の11年5月に立ち上がったのも大きかったです。震災直後は音楽のライブが無くなった一方、震災復興のコミュニティーやNPO活動が活発になりました。草の根の活動を支えるという原点が、Peatixの方向性を決めたのではないでしょうか。

インタビューを受けるPeatix共同創業者の原田卓さん(左)と藤田祐司さん(右)

――Peatixでは、どのようなビジネスコミュニティーが発生しているのですか。

 原田:ここ数年でマーケティングとしての活用が明確になってきました。Peatixも最初は個人やNPOの活用が多かったのですが、6、7年が過ぎると、知名度のある企業がセミナーを開催して有益なコンテンツを流してファンベースを作っています。

 イベントの開催が、リードを獲得するための重要な戦略になっていると思います。

――中小企業がPeatixを通じたファンマーケティングに力を入れ始めたのは、いつごろですか。

 原田:イベントの集客支援サービスを提供した16年ごろから、ニーズが顕著に表れています。我々は利用者840万人以上のデータベースを持っており、ターゲットを絞って集客のお手伝いもできます。

 今はチケットの販売手数料より、集客やリード獲得の支援がビジネスとして大きくなっていますね。

――マスに働きかけるマーケティングから、ファン一人ひとりとのエンゲージメントを築いていくものへと変化しているのでしょうか。

 藤田:テレビCMを流すなどのマスマーケティングがメインだったころに比べ、サービス自体のターゲットが細分化されている印象です。例えば、同じビジネスパーソンでも、マーケティング人材に絞ったサービスを提供するなどですね。

 企業のコアバリューへの共感が、顧客をつかむための重要な要素になります。コミュニティーを醸成し、サービスの理念に共感してもらえれば、価格が安い競合に流れたり、機能が足りないから(商品を)売ってしまったりする行動にはならないと思います。

――コロナ禍はPeatixのビジネスにどのような影響を与えましたか。

 原田:当初は打撃を受けました。それまで、Peatixのイベントに占めるオンライン開催の割合は1~2%でしたが、オンライン開催しやすい機能改善などを素早く進めて、今ではオンラインイベントの割合が80~90%になっています。

 藤田:中小企業がリアルイベントを開いても、参加者はほぼ地元の人に限られていました。しかし、オンラインになったとたん、場所を問わず参加者を募集できます。

オンラインイベントの主催者と参加者の地域。首都圏からの参加者(赤い棒グラフ)が、どの地域のイベントでも多数を占めることが分かります(出典:2021年Peatixイベント調査リポート)

 Peatix利用者のデータをみると、地方で主催したオンラインイベントでも、首都圏からの参加者が過半数を占める地域がほとんどです。特に北海道や東北などでも、首都圏からの参加が60%を超えています。

 大都市圏以外でイベントを開いている事業者が、今まで接触できなかった人たちと接点が持てるようになりました。1回のイベントは20~30人の参加でも、積み重ねるとかなりのつながりになるのではないでしょうか。

――Peatixでオンラインイベントを企画し、ビジネスの幅を広げた中小事業者の事例を教えて下さい。

 藤田:茨城県鉾田市の農家が企画した「オンラインメロン狩り」です。農家さんがメロンに関する話をしながら、畑に行って参加者にオンラインで「どのメロンを収穫しますか」と呼び掛けるんですね。参加者は後日、自分が希望して収穫されたメロンを家で味わえる特典があります。

茨城県鉾田市で開かれたオンラインメロン狩り(イベント主催者撮影、Peatix提供)

 オンラインを掛け合わせることで、例えば、九州にいても茨城のメロン狩りを気軽に楽しめるようになり、いつか畑に行ってみようかという流れにつながります。今までだと少しハードルが高かった体験を提供することで、ファンとのエンゲージメントを高めるのがユニークですね。

 ほかにも、イタリアに特化した旅行会社によるオンラインツアーや、ワイナリーが作り手の話を配信して、eコマースでワインも買ってもらうオンラインイベントも盛況でした。

 原田:大手企業だと、ガイドラインやルールが厳しくてできないイベントも多いと思いますが、中小企業の方がクリエーティブに企画できているように感じます。

 また、大手は求められる数字のケタが大きいので、オンラインイベントにリソースを割く発想が生まれにくいですが、中小なら何十人という単位でも成果を積み重ねられます。抵抗感が薄く、大きな効果が生まれるように思いますね。

 コロナが収束したとしても、一度付いた火は消えないだろうと実感しています。

――20年11月、第三者の不正アクセスによって、Peatix利用者の個人情報が最大677万件不正に引き出される事態が発生しました。その後、どのような対策を取ってきましたか。

 原田:セキュリティーの観点から詳細は言えませんが、どのような手口で不正アクセスされたかは把握しています。その後、第三者のセキュリティー会社と一緒にサービスやシステム、勤務体制を様々な角度から見直して、細かいところまで対策を進めており、経営の重要項目の一つになっています。

 セキュリティー対策は日々進化しているので、継続してやっていくしかないですね。

――オンラインイベントが広まると、中小企業も個人情報管理が大きなリスク要因になりますね。

 原田:そもそも個人のデータをどこまで持つべきなのか。我々も根本から考え直しました。年齢や性別などのデータを取ることが、本当に自社のビジネスに必要かどうかの見極めが重要ではないでしょうか。

――イベントでどうやってファンのコミュニティーを作ればいいのか悩んでいる中小企業は、何から取り組めばいいのでしょうか。

 藤田:最初は100人くらい集めたイベントを開くというイメージが思い浮かぶかもしれません。でも本当の一歩目は、自社のサービスが好きな5人ほどに集まってもらい、好きな理由や改善点をヒアリングするミートアップだと思っています。

 少なくても熱量の高い人を集めるところからスタートすると、自分たちが顧客に伝えるべきことが見えるのではないでしょうか。

 成し遂げたい旗印があり、それに共感した人が集う場がコミュニティーです。少数のファンに企業のコアバリューを見いだしてもらうと、ハードルも高くないし、旗のイメージが見えてくると思います。

 原田:コアファンが5人ほどでもいいので、企業のストーリー作りに関わってもらい、コミュニティーが広がって、新たなファンを呼んでくれる流れがベストですね。

 藤田:日本だとクラフトビールを製造するヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が、コミュニティー作りでビジネスを成長させている代表例です。コロナ禍の前は、社長自ら前に出て「超宴」という交流イベントを展開していました。

 社員がお客さんと対話することで自分たちの提供価値を肌で感じられますし、社員と話すことで顧客のエンゲージメントが高まります。

 我々も大きいイベントに注力していた時期もありましたが、半年がかりで企画しても、終わった瞬間に燃え尽きてしまうんですね。大きい花火を打ち上げると満足してしまうので、できれば年間でロードマップを引き、小さなミートアップから、中規模、大規模のイベントにつなげるのが望ましいです。

――Peatixが誕生して10年になります。中小企業を支えるという理念はどこまで達成されたと思いますか。

 原田:1%もできていないんじゃないかな。私も藤田もアマゾン出身ですが、創業者のジェフ・ベゾスなんかはいつも「まだまだ初日」と言うんですね。事業が成長するたびに、次々と新しいテーマが出てくると思っています。

 今はイベントもeコマースも安価で気軽に使えるサービスが増えて、中小企業にはいい時代なのではないでしょうか。

 中小企業のオンラインイベントを毎日見ていると、知らない世界がこんなにたくさんあるのかと驚かされるばかりです。皆さん、すごいクリエーティブに企画していると感じています。

 ※下記リンク先から、原田さん、藤田さんへの動画インタビューもご覧になれます。オンラインイベントを有効活用した醸造会社の事例、イベントのKPI設定の考え方やマネタイズへの道のりなど、記事では触れていない点についても語っています。