痛い経験も糧に 角煮まんじゅう3代目の「損して得取れ」経営
長崎名物「角煮まんじゅう」で知られる岩崎食品は、コロナ禍での赤字転落のピンチを大胆なキャンペーンで乗り切り、売り上げを伸ばしました。3代目社長の岩崎礼司(ひろし)さん(37)は、その後も「形が似ている」という理由で始めたパックマンとのコラボ商品や、3代目オリジナル商品など、攻めの姿勢を続けています。社内でも幹部候補の育成や、新卒の定期採用など、将来を見据えた経営を続けています。
長崎名物「角煮まんじゅう」で知られる岩崎食品は、コロナ禍での赤字転落のピンチを大胆なキャンペーンで乗り切り、売り上げを伸ばしました。3代目社長の岩崎礼司(ひろし)さん(37)は、その後も「形が似ている」という理由で始めたパックマンとのコラボ商品や、3代目オリジナル商品など、攻めの姿勢を続けています。社内でも幹部候補の育成や、新卒の定期採用など、将来を見据えた経営を続けています。
――2022年1月に、バンダイナムコエンターテインメント社とのコラボ「角煮パックマン」を発売しました。きっかけは何ですか。
形が似ていたからです。取引先との打ち合わせ中に「角煮まんじゅうって、パックマンみたいですよね」と言われたのがきっかけでした。改めて角煮まんじゅうを見つめると、もう、角煮をくわえたパックマンにしか見えなくなってしまい、すぐにバンダイナムコエンターテインメント社へコラボを申し入れました。
――岩崎さんご自身で進めたのですか。
広報部門が中心になって進めました。幸い、先方からは「面白そう」「おいしそう」とすぐにOKが出ました。試作品のやりとりから始めて、約4カ月で商品化できました。
――苦労した点はありますか。
大変だったのは知的財産の管理と、キャラクターの世界観の共有です。商品そのものはうちにノウハウがあり、製造部門が味に自信のある商品を作ってくれました。「パックマンと言えば黄色」「黄色と言えばカレー」の発想で、単なる着色ではなく、カレー風味の生地づくりにチャレンジしたのです。味のよさだけでなく、色やにおいが他の商品の製造ラインに影響することがないよう、品質管理にも細心の注意を払いました。
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一方、商標や意匠といった知的財産管理については、ライセンスを持つ大手企業には細部にわたる規定があります。その要件をクリアするために、何度もやりとりをするのが大変でした。一緒に開発したランチクロスでは、うちの会社のロゴや角煮まんじゅうも、パックマンの世界観を踏襲したドット絵で表現しました。
――売れ行きはいかがですか。
おかげさまで好調です。メディアに取り上げられたこともあり、話題になりました。売り上げのインパクトよりも、宣伝効果の方が大きいです。一度話題になることで、コラボを持ちかけてくれる企業も出てきて、販売のチャンスが増えたと感じます。
――ご自身のカラーを出した商品開発にも積極的です。
「3代目長崎ぎょうざ」と「3代目長崎肉まん」を発売しました。私が子どものころに主力だった商品の復刻版です。かつてのレシピを、現代風の味付けや製法でアップデートしています。観光客需要の回復が見込めないなかで、商品が角煮まんじゅうだけだと、地元のお客様に飽きられてしまうため考案しました。
私が子供のころは卸販売が多かったため、ぎょうざと肉まんは地元のお客様に親しまれていたものの、「岩崎食品」の商品とは認知されていませんでした。それが角煮まんじゅうのヒットで、会社名も知られるようになりました。今回はそこに「3代目」である私のカラーも反映した商品で勝負しています。
――調理師の経験は生かされていますか。
オペレーションは開発部門に任せています。そこに食材の使い方や仕入れ先の見つけ方など、私の調理師の経験も生かしています。私自身は商品開発だけでなく、コロナ禍が収束したら飲食事業(焼き肉店)をやりたいです。今はアイデアを温めている段階で、その時がくればいつでもアクセルを踏み込めるようにしています。
――Jリーグチーム「V・ファーレン長崎」のオフィシャルスポンサー活動や、長崎出身タレントのCM起用など、地元愛を感じます。
V・ファーレン長崎とは父の代、Jリーグ参入のころから十数年のお付き合いです。実はオフィシャルスポンサーは、私の代で一度やめようとしたことがありました。うちのような中小企業にとって、スポンサー費の負担は決して小さくないからです。社長就任2年目の、経費削減に目覚めたときでもありました。
――オフィシャルスポンサーは継続したのですね。
当時のV・ファーレン長崎社長の高田明さん(ジャパネットたかた創業者)が来社して、熱のこもった説明をされました。「あと1年、1年だけ続けてみてください」と言われ、そこまで言うのならうちも勉強させてもらおうと。単なるチームとオフィシャルスポンサーという関係ではなく、自分たちの経営に何かプラスになることはないか、何か学べることはないかという思いです。
――どういうプラス影響がありましたか。
スタジアムグルメで角煮まんじゅうを販売しています。ホームだけでなく、アウェーのスタジアムでも販売できないか、チームを通じて出店交渉をしてもらいました。交渉が全てうまくいくわけではありませんが、まずはチャレンジすることが大切だと感じています。
私自身がホームやアウェーのスタジアムに行くことも多いです。角煮まんじゅうを販売するだけでなく、他のスタジアムグルメやグッズの販売、試合後のイベントなどを参考にしたり、観戦に来るサポーターの方々と交流したりしています。
――交流ですか。
高田明さんから学んだ姿勢です。スタジアムに行くとだいたい明さんがいて、「長崎に来られませんか?」とサポーターと話したり、あいさつしたりしています。経営者が率先して、地道に一人ひとりと言葉を交わして、ファンを作っていくのを目の当たりにしました。それを見習ううちに、私もSNSを通じて知り合ったサポーターの方々から、声をかけていただくことが増えました。
――従業員の採用はどうやっていますか。
うちは従業員の平均年齢が31歳と若い会社です。毎年地元の高校に求人を出して採用しています。周りの経営者からは「もう何年も新入社員がいない」という声も聞くので、長崎の中小企業としては定期採用が珍しいようです。組織に厚みを持たせるために、大卒の採用活動も始めるべく準備中です。
――人材の確保も大変ですね。
役員も交えて毎月行う店舗運営ミーティングや、従業員の待遇改善といった、働きやすい職場づくりをしています。また、家庭の事情などで退職した従業員の再雇用も行っています。経営幹部を育てることも課題のひとつで、これはと思う従業員に外部のコンサルタントをつけて、集中的に学んでもらったりもしています。
――どういうコンサルタントですか。
新しく導入したのはSNSのコンサルタントです。「角煮まんじゅう5個入り1袋購入でもう1袋プレゼント」キャンペーンで、SNSの影響力を実感したのがきっかけです。それまでもツイッターやインスタグラムで企業アカウントを運用していましたが、どこかマイペースで本気度が足りませんでした。私自身もSNSをほとんどやっていなかったので、専門家の力を借りて勉強中です。受け手を意識した発信内容を考えたり、フォロワーとのコミュニケーションをとったりと、商売のきっかけにつながることは何でもやるつもりです。
――直近の業績はいかがですか。
年商は徐々に、コロナ前の13~14億円規模に戻りつつあります。出張旅費がかかる各地での催事が減ってネット通販の比重が増えた分、利益は増加しました。月別では、贈答品需要で例年12月が最も売れるのですが、2020年も2021年も、12月の売り上げは過去最高を更新しました。
――コロナ禍での過去最高とは驚きです。要因は何でしょうか。
プレゼントキャンペーンをはじめ、自分のカラーを出しながら思い切ってやったことが実を結んだと思います。加えて2020年の12月は、Go Toトラベル事業のチケット使用による売り上げもありました。2021年は、SNSやYouTubeを通じたPRと、V・ファーレン長崎でのリアルな交流による認知度アップが寄与したと実感しました。
――今後の取り組みについてお聞かせください。
先の見通しが立てにくい状況なので、常にプランA、B、Cぐらいまで準備して、タイミングを逃すことなく対応していきたいです。例えば、コロナ禍が収束したら催事や店舗販売に注力する、長引きそうなら通販に力を入れる、さらに店舗休業になる場合は期間限定で通販の送料を負担する、といった施策です。
これまで何度も痛い目に遭った経験を無駄にはしないぞ、転んでもタダでは起きないぞという気持ちです。「損して得取れ」精神で、コロナ禍を乗り切りたいと考えています。
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