もし不正利用されたら? QRコード決済各社の補償内容を比べると……
かつて“キャッシュレス後進国”と言われた日本。近年はクレジットカードや電子マネーの利用が進み、「どのカードがお得?」「ポイント還元率は?」といった会話も日常の風景になりました。業界を30年以上取材してきた岩田昭男さんが、“キャッシュレス狂騒曲”を冷静に見つめ、利点や問題点を分析します。
かつて“キャッシュレス後進国”と言われた日本。近年はクレジットカードや電子マネーの利用が進み、「どのカードがお得?」「ポイント還元率は?」といった会話も日常の風景になりました。業界を30年以上取材してきた岩田昭男さんが、“キャッシュレス狂騒曲”を冷静に見つめ、利点や問題点を分析します。
目次
身近な店舗で使えるQRコード決済が人気です。
PayPay、楽天ペイ、d払い、auPAY、LINE Pay、ファミペイなどいろいろあります。
ただ、本格普及が始まって3~4年と歴史は浅く、不正利用の多さが問題になっています。
「7pay事件(※1)」や「ドコモ口座事件(※2)」は記憶に新しいですね。
※1 7pay事件……2019年7月のサービス開始直後、利用者になりすましてログインする不正アクセスにより、約800人が計3800万円の被害を受けた。サービスは3カ月で廃止され、運営会社の社長が辞任した。
※2 ドコモ口座事件……d払いの支払いに使われる「ドコモ口座」を通じ、全国の銀行の口座から不正に預金が引き出された問題。2020年9月に表面化した。
こうした不正利用は後を絶たず、私たちは事件に巻き込まれないようにしないといけません。
被害に遭うケースは2パターンあると言われています。
1つが「アカウントを乗っ取られ、なりすましで勝手に使われてしまう」、もう1つが「レジなどでの本人確認が不十分な場合、QRコードであれば第三者が提示しても決済できてしまう」というものです。
今回はこうした事件に遭遇した際、QRコードの運営会社がどんな補償をしてくれるのか、具体的に見ていきます。
キャッシュレスの先輩であるクレジットカードには60年の歴史があり、不正利用の補償も充実しています。
被害に遭ってもほとんどの場合、全額返ってくる決まりです。
Visa、マスターカードなどの国際ブランドが積極的に仕切っています。
一方、QRコード決済の歴史は浅く、運営主体がカード会社ではなく大手通信事業者(キャリア)や一般の流通事業者のため、腰が引けている印象があります。
当初は「自己責任」の一点張りで全く補償をしませんでした。
しかし、サービスの普及とともに不正利用が増えるにつれ、各社とも補償を前面に押し出すようになっています。
こうした動きに道筋をつけたのがPayPayです。
PayPayは2018年12月に実施した「100億円あげちゃうキャンペーン」でキャッシュレスの方向性を決めた手前、業界を引っ張っている自覚があるのでしょう。
早め早めに手当てをするようになっています。
PayPayの補償内容は次のようなものです。
原則全額補償。60日以内にPayPayと警察に通知すれば、原則として全額補償される。フリーダイヤルの専用窓口もある。
「全額補償」と「60日以内」は他社の手本となっています。
一方、楽天ペイも原則全額補償と60日以内を掲げています。
楽天は昨年から全額を補償すると言い出しました。
それまではケースバイケースで金額を決めているようだったので、急展開です。
楽天がなぜ全額補償にしたかというと、やはりモバイル事業への進出があるのでしょう。
これから楽天もキャリアになるのだから、補償もしっかり行う、ということでしょうか。
次はd払いです。
運営するNTTドコモは2020~21年にかけ、「ドコモ口座事件」で大打撃を受けました。
改めて「ドコモ口座事件」を振り返ります。
ドコモには「dアカウント」というIDがあります。
ドコモのサービスを利用しようとすると、このdアカウントを要求されます。
dアカウントは当初、「@docomo.ne.jp」のドコモのメールアドレスで利用できました。
しかし、dアカウントと表記したことで、新しいIDが必要だと思った既存のドコモユーザーに敬遠されてしまいました。
ドコモとしては、ドコモユーザーだけでなくソフトバンクやauのユーザーまで取り込む目的もあったため、「dアカウント」としていました。
ソフトバンクやauのメールアドレスも入力できるよう間口を広げた形です。
しかし、結果的に本人確認が不十分になり、犯罪者に付け入る隙を与えてしまったのです。
この教訓から、ドコモは本人確認に独自の認証方式を導入するなど、しっかりした態勢を整えました。
d払いの補償内容は次の通りです。
原則全額補償。不正利用に気づいたら直ちにドコモと警察に申告。30日以内に損害の補填に必要と認める書類を提出する。
こちらも原則全額補償ですが、書類提出が「30日以内」という点が忙しい人には厳しいかもしれません。
ただ、ドコモからすると、不正利用対策のために早く情報がほしいのでしょう。
auPAYも大手キャリアですから、ドコモにならって全額補償です。
ただ厳格な条件がついていて、パスワードの管理がしっかりしていないと認めない、などと記載されています。
また、被害額は現金ではなく「auPAY残高で補填する」となっています。
以上PayPay 、楽天ペイ、d払い、auPAYという4つのサービスについて述べてきました。
いずれも全額補償なので安心できます。
これらの事業者はキャリアで、国民生活に責任を持つ立場とも言えます。
これはQRコード決済サービスを選ぶ上でのポイントになると思います。
これに対し、LINE Payとファミペイは補償上限が10万円と慎重です。
LINE Payはキャリアではないし、ファミペイもファミリーマートが運営する決済ツールなので、全額補償が難しいのかもしれません。
LINE Payは被害申し立ての期限が「30日以内」と、ちょっと短い感じがします。
ただ、警察が認めるなどした場合に補償額を引き上げる可能性はあります。
ファミペイは「原則10万円まで補償」で、書類提出期限が「30日以内」にとどまっています。
ただ、どのサービスも、家族や同居人が関わっている場合は補償対象外です。
さらに、パスワードの管理がいい加減だと補償を認められないことがあるため、日ごろから注意したいですね。
今回は最新のQRコード決済の被害補償について紹介しました。
毎日使うものですから、自分のキャッシュレスの補償がどうなっているか、再確認してみてはいかがでしょう。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年6月27日に公開した記事を転載しました)
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