つらくはなかった新人時代。でも、もっと部活のように働きたかった
――仲山さんは新卒でシャープに入社されました。社会人になりたての頃は、仕事に対してモヤモヤとした感情を持ったことはありましたか?
「シャープに入社して最初に配属されたのは奈良の本部長室でした。そこは事業計画や経営管理をする部署で、新人なので事業本部に関連する雑務がありました。
始業前に掃除機がけをするのもぼくの仕事。一番歳の近い先輩が8つ上で、『やっと掃除機がけしなくてよくなった』と笑っていたので、『8年は続くんだな……』と思っていました。
ほかにも業界紙の記事のファイリングだったり、データの打ち込み作業だったり。そういう仕事自体はつらくなかったのですが、しばらくするとモヤモヤし始めました。
同じ奈良に配属された同期も似たようなモヤモヤを抱えていて、よく一緒に『こんな成長速度でいいのかな』『もっと思いっきり働きたいよね』とくすぶりトークをしていました。
社内で会うたび『どう最近?』って聞くと、彼が死んだ魚のような目をして、『んー、全然』と答えるのがお決まりの挨拶でした(笑)」
――思いっきり働くとは、どういうイメージでしょうか?
「ぼくにとっては中高サッカー部のときの感じです。休みの日もボールを蹴りたくて、360日はグラウンドにいました」
元同期に誘われ楽天へ。顧客の顔がみえることに充実感
その後、新卒3年目のとき、仲山さんに転機が訪れました。
きっかけは社内で「どう最近?」「全然」と会話を交わしていた元同期からの連絡。
元同期の男性は1年前にインターネットのベンチャー企業に転職していました。
たまたま上京予定があり、その彼と渋谷で再会を果たした仲山さんが「どう最近?」と聞くと、返ってきた言葉が「うん、楽しい」だったそうです。
――元同期の方の返事を聞いて当時どう感じたんでしょうか?
「お決まりの挨拶の不成立感、それに対してモヤっとしました(笑)
死んだ魚の目をしていた彼が、本当に楽しそうだったんです。『なんかずるい』という感覚がありました」
その3日後、元同期の転職先・楽天で三木谷浩史社長と面会し、実質当日に採用が決定。
それまで転職など考えたこともなかった仲山さんは「思いっきり働きたい」という仕事観を共有していた元同期の楽しそうな姿に惹かれ、すぐに転職することを決めたそうです。
当時「ネットには疎かった」という仲山さん。最初は右も左もわからず、飛び交うIT用語も知らない言葉ばかりで必死だったそうです。
しかし、スピード感があって、部活のように夢中で仕事ができる社風にはまり、入社3ヶ月もすると、先輩に頼らず一人で仕事を進められるように。
仲山さんは転職前のご自身をこう分析しています。
「モヤモヤの要因は、組織が大きすぎて全体像も各現場もよくわからず、自分がやっている作業にどういう意味があるのか、特にお客さんの喜びにどうつながっているのか全く見えなかったからだと思っています。
だから、小さい会社で働きたいなと。楽天は、当時20人だったので、実際に全体も現場もわかった上で仕事ができました」
当時の楽天では、楽天市場への新規出店営業からオープン後のECコンサルティングまで、1人の社員が一気通貫で担当する方式だったといいます。
そのため、仕事の成果をダイレクトに実感でき、お客様(出店者)からの「ネットショップやってよかった。ありがとう」の言葉がモチベーションにつながったそうです。
仲山さんは新入社員当時のことをこう振り返ります。
「新卒で入社したシャープは、いい会社でした。ただ、自分の担当業務をこなすだけの働き方にはモヤモヤを感じることに気づいて、結果的に今で言うスタートアップ企業を選びました。
転職してから半年後には、楽天市場出店者の学び合いの場『楽天大学』の立ち上げを任されました。
前の会社だと新規事業の立ち上げ責任者なんてもっと偉い人でないと担当できないと思いますが、そんな経験をさせてもらえるスタートアップのほうが自分には向いていたようです」
「今の働き方に違和感」なら、ネコなのにイヌとして働いているかも?
今の働き方に違和感をもつ20、30代に対して、仲山さんが語ったアドバイスは、「まず自分の働き方の価値観を知ること」でした。
仲山さんによると、組織で働く人は「イヌ」「ネコ」「トラ」「ライオン」の4つのタイプに分けられるといいます。
イヌは組織に忠実で、会社から言われたことを優先する価値基準。
一方、ネコは自分に忠実で、もし会社からの指示が自分のポリシーに反しているような場合は、やらずに済む方法を工夫したり、しれっとスルーしてしまったりするような働き方を志向するそうです。
そして、イヌが憧れるリーダーがライオンで、ネコの進化形をトラと定義しています。
「組織で働くためには、『組織のイヌ』になる必要があると思い込んでいる人が結構多いと思います。
でも、もともとの性質がネコな人が『イヌ』としてふるまうと、しんどくなりやすい時代になっています。
だからぼくは『組織のネコ』として働く、という選択肢を広めたいなと思っています」
――モヤモヤしたり、違和感をもったりしたら、まず最初に自分がどんな働き方をしたいかを整理したほうがいいと。
「そうですね。自分がどういう性格で、どういう価値観を持っているのか、ちゃんと自分で認識する。
自分が『夢中になれる』ときや、『居心地がいいと感じる』ときは、どういう状態なのかと。
『社長の指示です!』と上から言われて、しっかりやれるのがイヌ。
『何のためにやるのか』や『お客さんにどう喜んでもらえるのか』が自分で納得できないと着手できないのがネコです」
――イヌ派の場合、どんな場合にモヤモヤするんでしょうか?
「イヌのモヤモヤポイントは、指示通りやっているのに会社や上司から評価されない場合ですね。
特に、事業自体の賞味期限が切れていて、利益が上がらなくなってしまった仕事をしている場合にしんどくなりやすいと思います。
ネコはそういう状況だと、『こうするとお客さん喜んでくれそうかも』と、言われていない仕事をやり始めがちです」
――イヌ派、ネコ派は時代によって、総数は変わってくるものでしょうか?
「高度経済成長時代は、工場で均一の製品を大量につくって品質を維持向上する仕組みで成果が出たので、ライオンがイヌを率いて事業を拡大することでみんなが健やかに潤っていきました。
伸びているときは組織の雰囲気も明るく、ほめられることも多く、失敗を恐れない風土も生まれやすくなります。
だからネコだったとしても、みんな揃ってイヌとして働くほうが効率がよかったので、多くが『イヌの皮をかぶったネコ』として働いていたのではないかと思います。
いちいち『何でやんなきゃいけないんですか』とか言っていたら、仕事が進まないので」
「でも環境が変わって、経済が変わって、時代が変わって、これまでのやり方や、以前の事業価値の賞味期限が切れてきた。
事業価値の賞味期限が切れたということは、それを生み出すのに最適化してきた組織の賞味期限も切れているということです。
言われたことをやっても、どんどん結果が出なくなって、全員がしんどいという状態にあるからこそ、イヌのモヤモヤ感がすごいんだと思います」
――ネコ派の働き方を志向する人が、組織内でネコらしく健やかに生きていくためにはどうすればいいでしょうか?
「そうですね。お客さんに価値を提供して喜んでもらう、という仕事の本質を追求していくことが大事です。
それを続けていれば、『自分のことを評価してくれるお客さん』が増えていくので、たとえ折り合いのよくない上司の下で働くことになったとしても、会社の評価に依存しないで働くことができるようになるので」
自分にあった「働き方」を見つけよう
――今30歳前後で働いてる方は、自身がどのタイプで、どのフェーズが合ってるのか、一度振り返って、組織でどう働くかを考えるといいかもしれないですね。
「そうですね。それには最初はとりあえず何でもやって、自分が本当に得意なことが見えてくるまで、とにかく量をこなすというステージが大事だと思います。
そのうえで、見えてきた自分の強みを磨くステージに進んでいきます」
「イヌ、ネコ、どっちのタイプが尊いということではないんです。
それぞれに得意な仕事が違うので、どんな組織もバランス、多様性が大事だと思います。
ライオンのリーダーシップで多様性ある組織文化を醸成し、トラやネコの活躍で既存事業に変革を起こしていけば、新たな事業の成長カーブを描けるかもしれません。
トラやネコが立ち上げた後に、事業継続や運用を得意とするイヌが引き継ぐことで、うまく組織が機能するのではないかと思います」
プロフィール
仲山進也(なかやま・しんや)。慶應義塾大法学部卒。シャープを経て、1999年に社員約20人の楽天へ。楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を2000年に設立、2007年に楽天で唯一、兼業自由・勤怠自由の正社員となり、2008年には自らの会社・仲山考材を設立、個と組織の育成プログラムを提供。新著に『「組織のネコ」という働き方』(翔泳社)。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月5日に公開した記事を転載しました)