男性育休に経営層の4人に1人が後ろ向き 従業員や就活層とは温度差
大手住宅メーカーの積水ハウスは2021年9月、男性の育児休業に関する全国調査結果を発表しました。マネジメント層の半数が、男性育休の取得推進策を検討する一方、経営層の4人に1人が、男性の育休に後ろ向きな姿勢を見せるなど、世代や立場によって、育休への姿勢に濃淡が見られました。
大手住宅メーカーの積水ハウスは2021年9月、男性の育児休業に関する全国調査結果を発表しました。マネジメント層の半数が、男性育休の取得推進策を検討する一方、経営層の4人に1人が、男性の育休に後ろ向きな姿勢を見せるなど、世代や立場によって、育休への姿勢に濃淡が見られました。
積水ハウスは2018年から、男性の育児休業で1カ月以上の完全取得を推進し、翌19年2月以降は、取得率100%を継続しています。また、19年からは毎年、企業で働く男性の育児休業の取得実態を探る調査を行っています。
今回の調査は22年4月に施行される「改正育児・介護休業法」を前に、「男性育休白書2021特別編」として、21年6月に、インターネットを通じて行われました。
対象者は男女2800人で、内訳は、従業員10人以上の企業の経営層(200人)、部長クラス(200人)、就活中の20代(400人)、20~60代の一般層(各年代400人ずつ、計2千人)です。
厚生労働省によると、2020年度の男性の育休取得率は12.65%と、極めて低い水準です。ただ、今回の調査では、男性育休に「賛成」という回答が全体の88.1%で、就活層では97.8%を占めました。
一方、経営層の賛成は76.0%にとどまり、24.0%が「賛成しない」と答え、現場との意識の差が浮き彫りになりました。
経営層と部長クラスを合わせたマネジメント層に、男性育休の促進策の導入見通しを聞いたところ、「促進予定がある」が52.3%、「促進予定がない」が47.8%となりました。
ただ、「促進予定がある」と答えた中で、男性部長(100人)は42.0%の一方、女性部長(同)は70.0%にのぼり、男女間の意識差も浮き彫りになりました。
「促進する予定がない」と答えたマネジメント層には、理由も聞きました。回答のトップは「企業規模が小さい」が53.4%で、以下、「従業員の人数が少なく、休業中の代替要員の手当てができない」(30.4%)、「休業する従業員以外の従業員の負担が大きい」(28.3%)と続きました。
企業内の人手不足が、男性の育休促進の妨げになっている実態が見えてきます。
男性育休をめぐっては、労使の受け止めに温度差も見られました。勤め先の企業は男性の育休取得を促進しているか聞いたところ、「促進している」と答えた割合は、経営層が36.0%、部長クラスが48.0%だったのに対し、働く一般層では25.8%にとどまりました。
自分以外の男性が育休を取得したときの気持ちについても、調査しています。「同僚には取得してもらい家庭も大切にしてほしい」という回答が、マネジメント層は75.0%、一般層は85.1%でともにトップでした。
ただ、マネジメント層の回答の2番目に「人手不足で会社の業務に支障が出る」(73.8%)が入るなど、男性育休の促進に向けて、思い描くイメージと現実との間で、ジレンマを抱えていることがうかがえます。
調査対象に入っている就活層は、97.8%が男性の育休取得に賛成しています。また、男性の育休制度の有無が就活に影響するかどうかを聞くと、50.0%が「影響する」と答えました。特に男性は56.5%で、女性の43.5%を上回りました。
また、入社先を選ぶときに、「男性の育休制度に注力する企業を選びたい」と答えた就活生は73.8%にのぼりました。
マネジメント層と就活層には、男性の育休制度が浸透している企業のイメージについて聞いています。両者の回答で最もギャップがあったのは「働きやすそう」という回答で、就活層が53.5%だったのに対し、マネジメント層は36.3%でした。
男性育休の浸透度は、マネジメント層が思っている以上に、就活層のイメージに大きな影響を与えているとみられます。
同社のリポートでは、男性育休に詳しい有識者が、調査結果を受けてコメントを寄せています。
ジェンダー問題に詳しい東工大准教授の治部れんげさんは、男性育休制度が充実していない企業に就活生が抱くイメージに着目しました。調査結果では「経営者の考えが古そう」(54.5%)、「世の中の動きに対して遅れている」(45.8%)などとなっています。
「男性育休の拡充が遅れていることが、自社にとってさほどマイナスにならない、と思っている経営層は考えを変えた方がいいでしょう。優秀な若手は就職先を選ぶことができます。『古い』と思われてしまうことは、人材獲得競争で致命的な不利につながります」とコメントしています。
経営層の4人に1人が男性育休に反対という結果については、「いつの時代も変化に対応できない人はいます。残念ですが仕方ないことかもしれません」としながらも、「(残りの)75%の経営者に率いられる企業が、今後、優秀な人材を集めて革新的な事業を興し、市場をリードするのではないでしょうか」と期待を寄せました。
NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也さんは、男性育休が進められない主な要因に「人手不足」が挙がったことについて、次のように指摘しました。
「それぞれが複数のスキルを身につけて、他の人の代替になれる多能工化の推進や、無駄な会議や資料作りなどの時間泥棒を見直して、定時にみんなで退社できるようにするなど、日々の積み重ねで育休取得のハードルはぐっと下がるはずです」
安藤さんは出版社、書店、IT企業などで実績を残しながら、06年に父親の育児を支援するファザーリング・ジャパンを設立し、活動を広げています。
「家庭での経験を豊かにした従業員を生かし、生産性向上やリクルーティングにつなげていく。男性育休推進は企業の成長戦略の一環です。社会変革のため、目先の損得で決めず、長期的な視点で取り組むことが大切です」とメッセージを送りました。
男性の育休取得環境の充実は、生産性向上や採用戦略の見直しも含めた経営力強化につながる。そんな意識変革が、中小企業のマネジメント層にも必要になりそうです。
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