男性育休、2022年4月からの法改正のポイント 企業に必要な準備も解説
男性の育児休業が取りやすくなる育児・介護休業法の改正が国会で成立しました。2022年4月から新しい制度が始まり、大手だけでなく中小企業も準備が必要です。法改正のポイントのほか、育休の何が義務化されるのかや企業側や従業員のメリットについて、男性育休コンサルの広中秀俊さんに聞きました。(2021年8月2日更新)
男性の育児休業が取りやすくなる育児・介護休業法の改正が国会で成立しました。2022年4月から新しい制度が始まり、大手だけでなく中小企業も準備が必要です。法改正のポイントのほか、育休の何が義務化されるのかや企業側や従業員のメリットについて、男性育休コンサルの広中秀俊さんに聞きました。(2021年8月2日更新)
目次
――これまでの男性側の育休制度について教えてください。
法改正前の男性育休の制度は、子どもが1歳になる前日までの間、育児のために取得できるお休みです。そもそも育休制度は、男性も女性も取得できます。
基本的には1歳までですが、保育所に入れないなど特別な理由がある場合は、最長2歳になるまで延長できます。
また、両親がともに育児休業を取得する場合、原則子が1歳までの休業可能期間が、子どもが1歳2ヵ月に達するまで延長される「パパ・ママ育休プラス」のほか、「パパ休暇」という制度があり、通常は育休の取得は1度だけですが、出産後8週間以内に育休を取得したパパは、再度育休を取得することができます。
――こうした制度に対し、男性は育休を取得しているのでしょうか。
男性の育休取得率は2020年度で12.65%(政府目標は13%)となり、前年の2019年度の7.48%からかなり増加しましたが、まだ国際的には低い水準になっています。
また、2020年度の男性の育児休業の取得期間は、多少中長期間で取得する傾向が見られましたが、約28%が5日未満でした。
こうした事情の理由はそもそも育児休業制度の認知が低いことや、職場に育休取得者がおらず前例がないので育休取得できる雰囲気がないことが考えられます。
――国会で2021年6月に改正育児・介護休業法が成立しました。今回の法改正のポイントを教えてください。
法改正の3つのポイントを施行時期順に紹介します。
まず2022年4月から始まるのが、周知・意向確認義務です。これは今回の改正の目玉です。
目的は育児休業を取得しやすい雇用環境整備です。一言でいえば、育休を取得しやすい「社内の雰囲気づくり」になります。概要は育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に個別の周知・意向確認を義務づけるものです。
周知・意向確認の細かいところは今後、厚生労働省からガイドラインがでるので、アンテナ高く、情報を入手することが必要です。条文をみていくと、研修や相談体制の整備という文字がありますので、第一歩としてはセミナーや研修の準備が必要かと思われます。
今回のポイントは中小企業、大企業変わらず、全ての事業主に適用されるというところです。そして、努力義務ではなく義務なので、ポスターを貼るなどの啓蒙活動では足りず、必ず周知と意向確認が必要になってきます。
義務なので怠ると、行政労働局による指導勧告の対象になり、最終的には企業名が公表されることもあるので注意が必要です。
2022年10月ごろから始まるのが、出生時育休制度の創設です。目的は子どもの出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設です。
いわゆる男性産休です。子どもの誕生直後8週間以内に父親が最大4週間を2回に分けて取得することができる制度です。
別枠でさらに2回取得することができるので最大で合計4回取得できます。
この男性産休創設により、複数回、短期長期を組み合わせが可能でかなり柔軟かつカスタマイズができる制度になります。回数と期間の組み合わせがほぼ無限大にあるので、事前に出産前から綿密に計画することが必要になってきます
最後に2023年4月から始まるのが大企業の取得率公表義務化です。目的は周知・意向確認義務と同じく男性が育休を取得しやすい社内の雰囲気づくりになります。
条文をみると常時雇用する労働者の数が1,000人を超える事業主に対し、育児休業の取得の状況について公表を義務付けます。
施行されると、SDGsやESG投資などと同様のような企業の社会的評価や投資の判断基準になってくると思われます。
育休取得率が高いことは、企業イメージの向上につながりますし、男性学生からの観点でいうと会社選びの際の判断基準になると思われます。
そのほか、有期雇用者も取得できたり、育休中も働くことができたり、1カ月前告知が2週間前告知になったりなど制度が様々変更になっていきますので、しっかり理解することが大切です。
厚労省がまとめた育児・介護休業法のガイドラインを5分の動画にまとめました。
――改正前に「男性育休の義務化」が話題になっていましたが、これは何の義務化だったのでしょうか。
一時期義務化が話題になり、懸念する声が出ていたのは、「取得の義務化」です。「取得の義務化」はフランスなどで実施が決まっていますが、今回の法改正で義務化になったのは「企業の周知・意向確認の義務化」になります。
――男性の育休取得にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
育休取得によるメリットは様々ありますが、それぞれメリットを享受できる対象者が異なりますので、マインド、ファイナンス、ソーシャルの3つのアプローチでメリットを説明します。
マインド面のメインの対象者は育休取得者、ファイナンス面は育休取得者、上司同僚などの現場、経営・人事・広報担当者、ソーシャル面は経営・人事・広報担当者が対象になってきます。
育休取得者本人が育休を「休む」というネガティブ概念ではなく、ポジティブ概念の「冒険(QUEST)」のように能動的に取得することが大切です。
具体的にはパパには賞味期限があることに気づき、子どもと一緒にいられる時間は有限であることを認識し、育休期間をLIFE SHIFTのエクスプローラーステージに捉えて人生100年時代のマルチステージを経験することができます。
育休取得者目線では、育休中も育児休業給付金により手取りベースで収入が約8割保証されます。
企業目線では、育児休業給付金の財源は雇用保険からでており、会社の費用負担は0になるので、育休中、損益計算書上は利益がプラスになります。また、育休取得による助成金が多数用意されていますので、育休取得は会社への利益貢献につながります。
育休取得は社会、会社に価値を生み出すメリットがあります。
社会的に見れば育休を取得する人が増えれば、SDGsのナンバーファイブのジェンダー平等、ナンバーエイトの働きがいに合致し、ESG投資ではソーシャル面の方向性に合致してきます。
会社的に見ても社内で育休を推進することは今後CSR,CSV(Creating Shared Value)活動の中心になっていくと思われます。
――ただし、取得するときに職場、同じ部署から不満が出ることも考えられます。男性の育休をスムーズに取得できるようにするにはどうすればよいでしょうか?
法改正により、より柔軟な育休取得が可能になってきますが、まだ育休取得の前例のない中小企業では馴染むまで時間がかかります。現場の上司や同僚に負担がかからず、逆にインセンティブ(評価や手当)を与えるような制度設計が必要になってくるでしょう。
たとえば、実際に社内制度として導入している企業もありますが、部下の育休取得率を評価に組み込んだり、業務負担が増える同僚に手当を与えたりする企業も今後増えてくると思われます。
育休取得者本人に関しては今回の法改正は完全に追い風になりますので、事前に業務の棚卸しをしておくなど、早めの準備が必要です。
育Qドットコム代表取締役社長
1977年山口県下関市生まれ。大学卒業後、ミサワホーム入社。
住宅営業、経理、まちづくり事業、働き方改革推進を経験。大企業50社のコミュニティ「ONE JAPAN」の事務局担当。落合陽一氏と介護施設での自動運転車椅子の実装や、住宅展示場ハッカソン等の実施でオープンイノベーションを推進する。 2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定され、イクメンスピーチ甲子園2018では審査員を担当。
「育児を負担からエンタメに」をビジョンに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し啓蒙活動、コンサルを展開する。
2019年4月からは独立し、収入の分散化を図りポートフォリオワーカーを実践。JOINS株式会社財務経理担当、一般社団法人ONE JAPAN Resource Management監事、一般社団法人Cancer X監事、新宿区100人カイギ代表。
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