育休制度とは

 育休制度とは、厚生労働省によれば「子どもが1歳に達するまでの間、申請することで育児休業が取得できる」制度のことです。ただし、保育所に入れないなどの事情により最長で2歳まで延長できます。さらに、母親の出産後8週間以内に、父親が育児休業を取得した場合は、特別な事情がなくても、再度、父親が育児休業を取得できる「パパ休暇」という制度があります。

パパ休暇の概要(厚生労働省のリーフレットから引用)

 このほか、両親ともに育児休業を取得する場合は、子どもが1歳2か月に達するまでに延長される「パパ・ママ育休プラス」という制度もあります。こうした制度は、育児・介護休業法の改正のなかで新たに創設されました。

パパ・ママ育休プラスの概要(厚生労働省のリーフレットから引用)

中小企業の7割が反対した育休義務化

 政府は男性の育児休業の取得率を高めるため、社員に取得を推奨することを会社に義務づける検討に入っています。これに対し、日本商工会議所と東京商工会議所は「多様な人材の活躍に関する調査」では、70%の中小企業から義務化反対という結果が出ました。

 アンケートは、2020年7~8月、全国の中小企業6007社を対象に実施しました。すると、このうち48.9%にあたる2939社から回答がありました。このなかで、男性社員の育児休業取得の「義務化」について尋ねたところ、「反対」「どちらかというと反対」を含め、70.9%が反対しました。とくに「義務化」に反対した割合が高かった業種は、運輸業が最も高く81.5%、次いで建設業で74.6%、介護・看護が74.5%で、人手不足が厳しい業種でとくに反対の割合が高い傾向にありました。

男性の育休取得率は低調

 政府は、男性の育休の取得率を2020年までに13%、5年後までに30%とする目標を掲げていますが、厚生労働省によれば、2019年度の男性の育休取得率は7.48%にとどまっています。育児休業を取得しない理由から「会社で育児休業制度が整備されていない」、「職場が取得しづらい雰囲気だった」といった課題が見えてきています。

育休コンサルが解説する利益貢献の理由

 男性育休コンサルタントの広中秀俊さんは日ごろ、中小企業の経営者からも「従業員の仕事と育児をどう両立させればいいのか」といった悩みの相談を受けるといい、育休を取得しづらい会社の雰囲気に対しては「育休の取得は、会社の売り上げではなく利益に貢献できます」として、2つの理由を挙げました。

1.会社の負担も減らせる

 育児休業期間中、一定の要件を満たす場合は「育児休業給付金」が支給されますが、この財源は、雇用保険のため、会社の負担がありません。

 また、育児休業中の社会保険料は、労使ともに免除されます。給与所得がなければ、雇用保険料も生じません。詳しくは、厚生労働省のリーフレット(PDF形式:313KB)で確認してください。

 ミサワホームで経理を10年間経験し、財務会計(対外的会計)と管理会計(内部的会計)に詳しい広中さんは「育休取得は会社の会計にかなり影響があります」と話しています。

 広中さんの試算では、月給30万円の社員が3ヶ月間育休を取得した場合、会社負担(損益計算書に計上する金額)は、会社負担の社会保険が約15%(約5万円)なので、35万円の3ヶ月分で105万円です。約100万円の費用負担がなくなります。仮に職場が人手不足だった場合、その費用を代替となる従業員の人件費や教育研修費に充てることができます。

2.子育てパパ支援助成金で利益貢献

 広中さんは「育休取得に関する助成金は充実しており、特に中小企業には手厚い設計になっており、助成金を組み合わせると会社が100万円程度の助成金を受け取ることも可能です」と話します。助成金は会計上、雑収入に計上されるため、決算書上でいう経常利益に反映されます。

 一例としては、出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)です。男性労働者に育児休業・育児目的休暇を取得させた事業主に助成金を支給するという制度です。ただし、管理職や労働者向けの研修、育児休業取得者の業務をカバーした他の社員に対する手当をつくるなどが育児休業を取得しやすい「職場風土作り」が必要です。詳しくは、両立支援等助成金支給申請の手引き(PDF形式 3.44MB)を確認してください。

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)のリーフレットから引用

 会社の目的は本来、利益追求です。広中さんは「会社に対して、売り上げではなく育休を通して、利益貢献するのはいかがでしょうか」と話しています。

広中秀俊 男性育休コンサルタント

 1977年山口県下関市生まれ。大学卒業後、ミサワホーム入社。住宅営業、経理、まちづくり事業、働き方改革推進を経験。2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定され、イクメンスピーチ甲子園2018では審査員を担当。「育児を負担からエンタメに」をビジョンに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し啓蒙活動、コンサルを展開する。  2019年4月からは独立し、収入の分散化を図りポートフォリオワーカーを実践。「Publink」コーディネーター、「JOINS」財務経理担当、「ONE JAPAN 」Resource Management監事、「Cancer X」監事、新宿区100人カイギ代表。