親子間で対立が起こるとどうなる?

 経営をめぐる親子対立でよく知られた例が、大塚家具創業者の大塚勝久さんと、現社長で娘の大塚久美子さんです。久美子さんは2009年、社長に就任しましたが、2014年に解任され、代わりに勝久さんが会長兼社長に就任しました。当時、会員制か、気軽に入りやすい店作りかをめぐる経営方針の違いから2人の対立が表面化しました。しかし、以前から人事をめぐる対立があったと指摘する記事があります。

 2人の対立が決定的になったと互いに口をそろえるのは、13年2月。ある社外取締役の選任を巡って、会長の勝久と社長の久美子が激しくぶつかった。そのときのことを久美子が「より開かれた取締役会にする必要があった」と話せば、勝久は「経営を知らない人ばかり入れて、会社を壊そうとしている」と反論する。

朝日新聞デジタル

 2015年には久美子さんが再び社長に就任し、勝久さんが会長職を退任しましたが、久美子さんの経営改革は目立った成果が出ず、2019年にヤマダ電機の傘下に入りました。一方の勝久さんは高級家具販売店「匠大塚」を立ち上げ、2016年に1号店をオープンしています。

 こうした事態に限らず、現経営者の親と後継ぎの間で意見が対立し、確執へと発展していくケースは中小企業でも多くあります。

対立や確執の原因とは

 対立や確執の原因の一つに、立場の切り分けの難しさがあります。ファミリービジネスのなかでの親子は「家族」と「上司と部下」という2つの関係があります。社長、または後継者が職場に親子関係を持ち込んでしまうと、組織の秩序を守りづらくなります。

 家庭と職場で立場を切り替えるために、家庭と職場では呼び方を変えている後継ぎも多くいます。10月7日にインタビューした聖護院八ッ橋総本店の鈴鹿可奈子専務もその一人です。職場では「社長」「専務」と呼んでいるそうです。ただし、意識的に切り替えていても、家庭に戻ってから、仕事の話題を出してしまい、議論が白熱してしまうこともあったそうです。

聖護院八ッ橋総本店専務の鈴鹿可奈子さん

 職場で、経営者が「身内に甘い」と見られないため、あえて厳しく接する場合があります。老舗の工具箱メーカー「リングスター」の後継ぎである、唐金祐太さんも社長である父から従業員の前で厳しく怒られることもあったそうです。

経営者と後継ぎの意識のズレも原因

 経営者が後継ぎに求めていることと、後継ぎが実現したいことのズレが対立の原因にもなります。2019年版の中小企業白書によれば、経営者が後継者に重視した資質・能力の上位には、「事業に関する専門知識」「事業に関する実務経験」「経営に対する意欲・覚悟」が挙げられています。

経営者に実施した後継者に重視した資質・能力についてのアンケート(2019年版中小企業白書から)

 経営者は「同じ目線に立てるか」、つまり経営理念、大切にしてきた価値観などが引き継がれるかを気にしています。経営者と一緒に仕事をしてきた古参社員も、同じように気にかけています。つまり、後継ぎに求められるのは能力だけでなく、企業文化に即した行動を取れるかということになります。

 これらの事情から経営者は、後継ぎにまず現場に入り、一通りの実務経験を積むところから求めることがあります。

 これに対し、新しい挑戦をしたくて家業に戻ってきた後継ぎからすると経営理念など社長が大切にしてきたものを引き継ぐ重要性は理解しつつも「やり方が時代に合わない」と感じてしまうことがあります。

難しい後継ぎへの権限委譲

 後継ぎに責任を移す時期なのに、なかには過度に関わり続ける社長もいます。星野リゾート代表の星野佳路さんはインタビューで次のように話しています。

 仕事はやらせているけど、会社の株式を含めた所有権、最終的な権限を含めて渡さずに手綱を握ろうとするケースもあります。譲る側の覚悟ができていないのです。そうなると、最終的には破綻したり、ハードランディング型の承継になったりします。たすきを渡す側が、ノウハウを把握することが大事なのではと感じています。

星野佳路さんが語る家業の強み「リスクが少ないベンチャービジネス」

 とくに創業者の場合は、自らの能力で事業を立ち上げた経験を持つ一方で継いだ経験がないため、会社の意思決定権を委譲するときに対立する場合があります。グロービス経営大学院の田久保善彦研究科長は次のように話しています。

 親が創業者だった場合、継がせる側も継ぐ側も初めての経験になるということです。創業者は会社に時間と情熱をすべて注ぎ込んできました。ですので、後継者側から「会社の株を譲渡してほしい」などと求めると、まるで体の一部を奪われるかのような感覚に陥ることがあります。そこでもめてしまうと、会話が難しくなり、場合によっては数年間の冷却期間が必要になります。

親から「会社を継いでほしい」と言われたら?後継者が学ぶべきこと

深い溝が生まれる前にできること

 親子間対立が激化する前にできることがあります。これまで後継ぎに話を聞いたなかでは、週1回、親子に加えて孫も連れて食事に行き、後継ぎが社長を褒めるなど、意識的に良好な関係を維持しようとしているケースがありました。

 すでに仲がこじれてしまっている場合には、当事者だけでの解決は難しくなります。第三者に仲裁に入ってもらいましょう。3代目を継いだ弟と先代社長の父親の事業承継を経験した村尾佳子さん(グロービス経営大学院の副研究科長)の場合、弟と父親が経営に対する考えの違いからギクシャクすることもありました。結果的には間に入った親族を通じて、改めて意思疎通が図れるようになったそうです。この経緯は論文「ファミリービジネス事業承継のコミュニケーションについての研究」にまとめられています。

 (先代社長へのインタビューから抜粋)「弟(親族のこと)は一度社外に出ていたこともあり、またいろんな苦労をしてきた経験も手伝って、非常に会社のことを理解している。会社や自分、そして3代目を本当に心配してくれていて、純粋なその思いを感じることができ頼りにしている。自分があまり上手く話せないことも弟がうまくご飯に行ったりしながら、3代目に話してくれているようだし、定期的に一緒にミーティングをして、見る景色を合わす努力をしてくれた」

ファミリービジネス事業承継のコミュニケーションについての研究

 老舗企業は元々、次世代に引き継ぐことが事業に組み込まれているため、経営者にとって会社は「自分のもの」ではなく、「世代間で受け継がれてきたもの」なので、親子関係もまた事業承継を前提としたものになります。

 老舗企業では、親子でどのようなコミュニケーションを図っているのでしょうか。グロービス経営大学院とツギノジダイは、10月22日に老舗和菓子店の虎屋本舗の事業承継者である高田海道さんにインタビューするイベントを開催しましたので、後日、その様子を記事で公開します。