「野球界に貢献したい」。元高校球児が起業して“オンライン野球塾”を立ち上げるまで
高校野球の強豪校出身の元球児たちが起業し、元プロ野球選手から1対1の指導をオンラインで受けられる「野球塾」をはじめた。なぜ“オンライン野球塾”を立ち上げようと思ったのか。大学卒業後に仲間と会社を立ち上げ、代表取締役を務める岸洋平さん(26)に思いを聞いた。
高校野球の強豪校出身の元球児たちが起業し、元プロ野球選手から1対1の指導をオンラインで受けられる「野球塾」をはじめた。なぜ“オンライン野球塾”を立ち上げようと思ったのか。大学卒業後に仲間と会社を立ち上げ、代表取締役を務める岸洋平さん(26)に思いを聞いた。
岸洋平さん(26)は、岐阜県の高校野球の強豪校、県立岐阜商業高校出身。
同じく神奈川県の強豪校、横浜高校出身の大学の同級生たちと立ち上げた会社「ERA Holdings」で、社長を務めている。
岸さんたちが6月からはじめたのが、元プロ野球選手から1対1で指導を受けられる「オンライン野球塾」だ。
講師となるのは、プロ野球のオリックスや巨人などでプレーし、戦力外通告を受けた20~30代の投手や野手、トレーナーなど計8人。生徒が希望する講師を選び、オンラインで直接、打撃フォームや投球方法、練習の仕方など、自分に合った内容を指導してもらえる仕組みだ。
野球といえば、少年野球やクラブチーム、中学・高校の野球部など、チームに所属しながら指導を受けることが多い。
よりよい指導を受けようと、遠く離れた強豪校に入学する――。そんな「野球留学」もめずらしくない。
でも、もしオンラインで質の高い指導が受けられたら?
岸さんはこう話す。
「高校時代の恩師など、僕自身は岐阜で素晴らしい指導者に出会えましたが、もしこの“オンライン野球塾”が子どもの頃にあったら利用したいと素直に思いました。住んでいる場所が原因で、いい指導が受けられないという“壁”をなくしたい。場所に関係なく、いい指導者にめぐりあう機会を提供できればと思いました」
現在は、元オリックスの園部聡内野手や佐藤世那投手ら元プロ野球選手は6人が講師を務めているが、今後増やしていきたいという。
「指導法に正解はないと思いますが、プロの世界に入った方の練習法やノウハウはレベルが高い。こうした場をつくることで、選手たちのセカンドキャリアの助けにもなれば」
なぜ、大学卒業後に起業して「野球塾」をやろうと思ったのか。
就職活動を経て、企業に入る選択肢はなかったのか。
岸さんにたずねると、高校3年間の野球部での経験が返ってきた。
自身が高校3年生だった2012年、県立岐阜商業高校は夏の甲子園に出場した。ただ、肩の不調から手術をした影響もありマネジャーに転向。甲子園の舞台に選手としては出場できなかった。
父親も同じ野球部出身。甲子園出場経験もある。当たり前のように同じ高校に入学し、野球部に入部した。でも...。
「甲子園でプレーするのが目標でした。でも、僕は目標を達成できませんでした。だからこそ、その後の人生では、“好きなことを形にしたい”と思うようになりました」
大学進学後も、準硬式野球部で野球を続けた。そこで出会ったのが、横浜高校出身の同級生たちだった。
「野球はもちろん好きでしたが、当時はビジネスにできるとは思えませんでした。一方で、就活をして企業に入って、好きなことを実現できるイメージもわきませんでした」
就職活動はせず、仲間と会社を立ち上げる道を選んだ。
会社設立後、人材紹介業などをしていたが、再び“野球”に向き合うきっかけになったのは、横浜高校野球部の元監督・平田徹さんとの出会いだったという。
「野球人口の減少に歯止めをかけたいという平田さんの思いに共感しました。歯止めをかけるには、指導者の資質を向上させることと、幼少期に野球に触れるきっかけをつくることが大切。自分たちもお世話になった野球界に貢献したい、と思いました」
何ができるかを考えた結果、1人1人に合った指導が受けられる「オンライン野球塾」のほか、「指導方法や知識、ノウハウをオープンシェアしたい」とYouTubeチャンネルも開設。YouTubeの動画には平田さんも出演し、指導方法を紹介している。
オンライン野球塾は、1回1時間、月2回の指導で1万5千円。月4回であれば2万8千円。月8回なら5万400円(いずれも税込み)。レッスン以外の時間でも、LINEなどで質問も受け付けているという。生徒は講師を指名でき、指名された講師に報酬が支払われる仕組みだ。
収益の一部は、子どもたちに野球を知ってもらおうと、ゴムボールやストラックアウトなどの子ども用の野球道具を幼稚園や保育園に寄贈する活動にあてているという。
「会社を立ち上げたときは、“好きなことを探そう”と、とにかく必死で色んなことをがむしゃらにやっていました。失敗した事業もありました。失敗も経験したからこそ、利益だけが目的ではないものを形にしたいと思いました。また野球と異なる形でかかわることができてうれしい」
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年7月13日に公開した記事を転載しました)
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