目次

  1. ティール組織とは 本をきっかけに注目
  2. ティール組織と他4つの組織モデル
    1. レッド(Red)組織:衝動型
    2. アンバー(Amber)組織:順応型
    3. オレンジ(Orange)組織:達成型
    4. グリーン(Green)組織:多元型
    5. ティール(Teal)組織:進化型
  3. ティール組織が機能するための3要素
    1. セルフ・マネジメント(自主経営)
    2. ホールネス(全体性)
    3. 常に進化し続ける存在目的
  4. ティール組織を目指す中小企業の事例
    1. 産婦人科の事例:アンバーからティールへ。ヒエラルキー構造からの脱却
    2. 調剤薬局の事例:事業承継は組織を変革するチャンス
  5. 確実な方法が存在しないティール組織の重要ポイント
    1. 既存の状態から脱却する覚悟を持つ
    2. 組織を多角的に捉える
    3. 組織変革は小さく始める
  6. ティール組織へ 失敗しないための心構え
ティール組織の特徴
ティール組織の特徴(デザイン:吉田咲雪)

 ティール組織とは、権力者が存在せず、メンバー1人ひとりが状況に応じて意思決定できる組織のことです。2014年に出版された『ティール組織ーマネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)をきっかけに、注目を集めています。

 著者のフレデリック・ラルー氏は、マッキンゼーのアソシエート・パートナーとして15年働いた後に独立した人物です。「現況の組織運営は、もはや機能していないのではないか?」という疑問を持ち、組織調査を行いました。

 その結果、従来の組織モデルとは異なる運営を行っていた新たなパイオニア組織を発見し、進化論を説いて世界的なムーブメントを起こしています。

 ティールは、進化という意味を持ちます。複雑で、不確実で、変化のスピードが速くなっている経済環境において、「既存の組織形態で生き残っていけるのか」「社員を疲弊させ、不健全な組織を生み出しているのではないか」という不安や危機感を抱いている経営トップは少なくありません。そのような背景があったため、従来の組織構成や意思決定とは異なる手法でありながらも、実際に成果をあげている事例を数多く持つティール組織は、革新的なモデルとして広まりました。

 人類の歴史をふりかえると、技術の進化や産業の発展にあわせて、人の集まりである「組織」も発明され、変化を続けてきたことがわかります。実はティール組織も、現代を生きていくために発明された組織なのです。

 現代アメリカの思想家であるケン・ウィルバー氏が提唱しているインテグラル理論の「意識のスペクトラム」をもとに、人類が発明してきた5つの組織モデルをご紹介します。

 レッド組織は、人類最古の組織モデルです。衝動的で自己中心的な方法で組織を運営する特徴があり、トップが圧倒的な力で支配し、秩序を強制します。組織をまとめるエネルギーは、「忠誠心」や「恐怖心」です。

 レッド組織には、衝動的な行動によって、すぐに手に入る利益を追求していく傾向があります。仕事の分配とトップダウンによる組織構造により、小さな組織でまとまりやすい反面、不安がつきまといます。拡大していくことが難しい組織です。

 アンバー組織は、階層的なピラミッド型で、明確なランクが存在しています。安定性、確実性を重視し、決まったルールで行動を促します。そして、上下関係によって統率され、役割による行動を優先させます。アンバー組織の特徴は、安定性と再現可能なプロセスがあることです。

 典型的なアンバー組織の例は、ヒエラルキー型の軍隊、学校や宗教組織、公共機関などがあげられます。中長期的な思考が可能で、規模を拡大しても安定的に機能する組織です。しかし、ルール重視で、少数の人に権力や判断が集中するため、外的変化へのすばやい対応や適応が難しい構造とも言えます。

 オレンジ組織は、産業革命がもたらした組織モデルで、今日のマネジメントの基礎となっています。階層構造を持ちながら、変化にも対応できる組織です。日本のさまざまな組織にあてはまる、一般的な組織モデルと言えるでしょう。

 上場会社や銀行は、典型的なオレンジ組織です。合理性と結果を重視し、社員は高い業績を目指しながら、組織全体の能力を大きく向上させ続けてきました。オレンジ組織は、安定を覆すイノベーションを生み、競争視点からの実力主義、目標管理を導入しています。

 一方、競争による疲弊、売上や利益の目標に追われることで、心理的な負担が蔓延しがちです。結果、組織ぐるみの隠ぺいや不祥事などの問題だけでなく、役割や肩書を追い求めて燃え尽きたり、社内政治に神経を疲弊させたりといった個人の問題も生じています。

 グリーン組織は、公平と平等を軸にしています。組織内のメンバーは、お互いの多様性を尊重しあい、組織を家族やコミュニティのように表現しているのが特徴です。

 非営利団体、NGO、社会的ベンチャー企業の中に、グリーン組織がみられます。ボトムアップ型の意思決定をすることで、メンバーのモチベーションを高めます。

 現在では、一部の民間企業にもみられる組織モデルです。細かいルールがないため、風通しのよい組織でもあるでしょう。メンバーが働きやすい環境をリーダーが整えていく役割を担いますが、意思決定権は少数の権力者が握っています。

 またグリーン組織は、権限委譲をもたらしました。リーダーのタイプは、奉仕型の「サーヴァント」です。提案や企画の判断を現場まで押し下げ、メンバーに対してフォロワーシップを発揮します。

 ティール組織を実践する経営者は、組織を「生命システム」と表現しています。生命システムは、あらゆる知恵を働かせ、まわりの環境に適応していきます。ティール組織が進化型といわれる理由です。

 この組織の特徴は、権力を集中させるセクションやリーダーが存在せず、1人ひとりのメンバーが必要に応じて意思決定を行っていくことです。

 組織での関係性は対等でフラットです。「組織」は1人の権力者のものではなく、メンバー全員のものであると考えます。

 「私たちの本当の目的や目標は、何なのか?」を考え、組織の存在目的と個人が達成したい行動目標を一致させることに、多くの時間を費やします。人に対する信頼を前提に構築されているモデルと言えるでしょう。

 ティール組織は、階層的なピラミッド構造にある他者からの管理ではなく、自主経営(セルフ・マネジメント)を前提とします。自分らしさを発揮し、自身の可能性を促進させながら、組織としての存在理由を追求し続ける仕組みを確立したのです。

 ティール組織が、これまでの組織モデルとは大きく異なることを説明してきました。続いて、ティール組織が機能するための3つの要素について解説します。

 ティール組織はセルフ・マネジメント(自主経営)を前提としています。ティール組織として紹介される企業事例には、トップダウンのコントロールがなく、上下の階層構造がありません。しかし、コントロールやルール、意思決定構造が存在しないわけではないのです。

 ティール組織では、少数の権力者がすべてを判断するのではなく、構成されるメンバー1人ひとりが、リーダーシップとオーナーシップを持って判断します。

 セルフ・マネジメントに移行した組織では、リーダーの役割が変わります。今までは、組織の管理や問題を防ぎ、対処することがリーダーのおもな役割だったでしょう。ただし、ティール組織のリーダーは、自走していく組織を作ることに力を注いでいきます。

 さらに、個々の判断を助ける手段として、関係者から助言をもらうプロセスをルール化したり、コーチの伴走を組み込んだりします。また、組織全体が同じように機能するために情報開示を徹底し、組織の認識をそろえるためのトレーニングに力を入れています。

 経済の複雑性が増している環境下において、意思決定が遅くなりがちなピラミッド型の組織構造では、変化への対応が間に合いません。ティール組織に到達しないまでも、各階層やセクションで、能動的に判断して行動できるセルフ・マネジメントの仕組みは、これからの組織に必須の要素となっていくでしょう。

 ティール組織が実践しているホールネス(全体性)とは、そこで働く社員が、自分を偽ることなく、安全で安心できる環境が整備されていることです。心理的安全性が高い環境である状態、とも言い換えられます。

 ホールネスを取り入れた組織には、恐れや不安がないため、全員が活発に意見を言うようになったり、積極的に行動したりと、職場が活気づきます。行動が増えると、自分でも気が付かなかった才能や資質を発見する機会につながります。たとえば、新規事業などへのチャレンジも増えるでしょう。

 「過度なプレッシャーや恐れ、不安を手放して支え合える文化がある」ような環境があったら、誰もが所属したいと思うはずです。

 すべての人にホールネスを体現してもらうためには、異なる環境で育った1人ひとりのカルチャーを大切にすることが必要です。そして、個々人の価値観や大切にしていることを共有する場を設けることが求められます。

 ティール組織における存在目的とは、組織を1つの生命体として捉え、継続的に組織が存在する目的を問うことです。「私たちの組織は、何のために存在しているのか?」を考え続けていきます。

 戦略を立てて実施するという考え方や、未来を予測してコントロールしようとするやり方は、いまや古い枠組みになりつつあります。複雑かつ不明確な世界で、未来の予測や制御は困難です。一度決めたことにこだわるあまりに、自由が利かなくなってしまうことは避けたいでしょう。

 自分たちの感覚や知覚を総動員させ、絶えず現状に適応させていくため、ティール組織では、常に目的を問い続け、軌道修正していくことを実践しています。

 ここまで、ティール組織の概要や、機能するための要素について説明してきました。

 それでは、実際にティールの概念を導入している企業の事例をみながら、ティール組織への理解を深めていきましょう。筆者が代表を務める株式会社Starting Pointが組織開発を支援している企業(クリニックと調剤薬局)の事例をご紹介します。

 最初の事例は、茨城県守谷市で産婦人科を営む篠﨑医院です。医療業界の組織は、アンバー組織のタイプが多く見受けられますが、篠﨑医院では、お産にまつわるケアの充実と持続的な経営体制の構築のため、働く1人ひとりが主体的に動く自律型組織の構築に力を入れています。組織変革に着手し始めて2年目に入ると、トップダウンによる行動が減り、看護師や助産師、バックオフィスのスタッフ全員が医院の方針にそって自発的に判断し、行動していく場面が定着しつつあります。

 この組織変革の背景には、トップダウンで指示を受けて動くことから、自発的に行動していこうという、認識のアップデートがあります。院長が目指す組織は「看護師や助産師が中心となって活躍する」組織です。そのために、院長が描くビジョンを言語化し、組織全体へ浸透させていく仕組み作りやコミュニケーションに注力しています。

 続いては、金沢市の調剤薬局であるファーマケア株式会社の事例です。同社は、2代目への事業継承をきっかけに、アンバーやオレンジが混在する従来の組織から、ティール組織への変革に取り組んでいます。

 経営層が変わる事業継承のタイミングでは、メンバーの間で少なからず不安が生じます。組織の変革を目指しているとなれば、なおさらでしょう。経営を受け継いだ2代目は、まず目指したい組織とその目的を言語化し、メンバー1人ひとりと面談を実施しました。経営者が丁寧に語り、メンバーの声を聞くことで、少しずつお互いの想いが重なり、新しい事業や組織全体を考えた自発的な行動が始まっています。

 どちらの事例にも、経営者自身に「組織を前進させたい」という強い意志とビジョンの言語化、働くメンバーとの対話があります。本質的な取り組みを丁寧に行うことで「組織も人も変化できる」という可能性を感じられるでしょう。

 組織変革には、時間がかかるものです。また、進化型のティール組織には、「ティール組織になるための確実な方法」が存在しません。しかしながら、ティール組織にはよい組織づくりへのヒントやエッセンスが詰まっています。経営層にとくに意識してほしい組織作りのポイントを紹介します。

 まずは、「現状から脱却したいのか?」を自分自身に問いかけることから始めましょう。組織変革のプロセスでは、「組織」だけではなく経営層「個人」の変容が重要です。

 新しい組織への一歩を踏み出すことは、さまざまな想定外のことに出会うことでもあります。思いがけない反発や反応、自分の限界、これまで避けてきたこと、認識していなかった未熟な一面に触れることもあるでしょう。覚悟を決めて強い意志を持つことで、想定外なことも受け入れやすくなります。

 私たちには、思考や行動の傾向、偏った認識(バイアス)があります。ですから、傾向や偏りがあることを意識し、組織や物事を多角的にみることが大切です。

 しかし、意識できないことをみるのは難しいものです。日頃から、多角的に考えられる思考力のトレーニングや、客観的な立場にいる外部のコンサルタントやコーチを活用することもおすすめです。

 急な組織変革は、メンバーから反発を招きます。また、一度にすべての部署を動かそうとすると、現場は混乱するでしょう。組織変革は、小さく始めることがおすすめです。

 変革のスタートラインを決めるときは、下記3つの問いを組織全体で考えてみましょう。

  • 組織のどこにボトルネックが存在するのか?
  • どのプロセスや仕組みに限界点が発生しているか?
  • どこに成長の可能性が潜んでいるか?

 そして、経営層だけでなく、組織のメンバー全員にも丁寧にインタビューを行いましょう。多くの視点から、顕在化している課題以外にも、潜在的な組織変革の可能性を発見できます。

 また、変革を始めるときは、「やってみたい」という意欲のある人や部署からスタートし、成功事例を作ってから全体へ広げていくとよいでしょう。根気よく、アプローチし続けることが大切です。

 ティール組織とは、組織構造やあり方の概念です。ティール組織の構造を100%満たしている企業はない、とも言われています。実践し続けていくことが難しい反面、人の可能性や未来への期待を感じさせます。

 ティール組織へ向かうためには、1人ひとりの才能と可能性を信じる姿勢と未知なるものへの謙虚さ、そしてチャレンジしていく勇気が必要です。

 あらためて、「ティール組織とは何か?」の理解を深め、現状をふりかえるところから始めてみるのはいかがでしょうか。