目次

  1. QMS(品質マネジメントシステム)とは
    1. QMSはマネジメントシステムの一種
    2. マネジメントシステムとは
    3. 品質マネジメントシステム(=QMS)とは
  2. PDCAはQMSを支える根本的な仕組み
    1. PDCAとは
    2. QMSにおけるPDCA
  3. QMSをつくるガイドラインとなる規格
    1. ISO9001 要求事項は10項目
    2. JIS Q 9001
    3. SQF
    4. QMSのために規格認証取得は必要?
  4. QMSを構築するための手順
    1. QMS構築の宣言をして教育を行う
    2. 今行われている業務やルールを文書化する
    3. マネジメントシステム規格を参考にして上位文書を作成する
    4. マニュアルに沿って運用し改善する
  5. QMSは目的のための手段と心得る

 QMSとは、Quality Management Systemの略称で、日本語で表記される場合には、一般的に品質マネジメントシステムと言われます。まずは、このQMSがどんなものを指すのかを見ていきます。

QMSの仕組みを理解するポイントと導入手順
QMSの仕組みを理解するポイントと導入手順(デザイン:吉田咲雪)

 マネジメントシステムとは、簡単に表現すると、「方針や目標を定めてその目標を達成するために組織を適切に管理する仕組み」のことです。

 どういう側面から組織を適切に管理するのかによって、マネジメントシステムには多くの種類があります。

 代表的なところでは、

 ・環境マネジメントシステム(EMS)
 ・食品安全マネジメントシステム(FSMS)
 ・情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)
 ・労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)

 などがあげられます。

 QMS(=品質マネジメントシステム)は、こうしたいくつもあるマネジメントシステムの一種です。

 もともとの「マネジメント(Management)」が持つ意味は「経営」や「管理」のことで、企業経営においては「経営管理」や「組織運営」を意味します。

 ちなみに、経営学者のピーター・ドラッカーはマネジメントを「組織に成果を挙げさせるための道具・機能・機関」と定義しているため、マネジメントシステムは「組織が成果を挙げるための仕組み」といえます。

 2種類の飲食店をイメージしてみましょう。

 例えば、顧客の要望に応えつつ、ゆっくりした食事の時間を楽しんでもらいたいと考えているAというお店があったとします。A店では顧客が入店したら席に案内し、注文を取って調理をはじめ、完成した料理を提供し、提供した料理の内容に応じて会計をします。

 一方、より多くの顧客に食事をしていただきたいと考えているB店では、注文を食券で処理し、購入した食券に応じて調理し、完成した料理は顧客自身が運び、済んだ食事の食器類の返却も顧客自身で行います。

 A店とB店は組織の方針や目的が異なっています。そのため成果を挙げるための仕組み=マネジメントシステムもまたA店とB店で違いが生じます。このようにマネジメントシステムとはそれぞれの組織の目的を達成するための仕組みのことを指します。

 マネジメントシステムの意味を踏まえると、品質マネジメントシステムは「品質に関して、組織が良い成果を挙げるための仕組み」あるいは「良い品質のモノやサービスを提供するための組織の仕組み」と言えます。

 「品質」とは、顧客のニーズや期待の程度のことですので、品質の良し悪しは顧客によって異なります。

 高性能のスマートフォンを品質が良いと評価する人もいれば形やデザインが良いスマートフォンを品質が良いと評価する人もいるでしょう。

 組織によって組織の方針や目的はさまざまであり、顧客から求められる品質もさまざまです。そのため、良い品質のモノやサービスを提供するための仕組みもまた、組織によって異なる形をとります。

 つまり、ビジネスモデルやニーズが多様化した現代において、各企業は固有のQMSを持つことが重要になるのです。

 また、各企業はサプライチェーンのなかで他の企業に対する信頼関係を築いていく必要もあります。その点でもQMSを持つ企業のモノやサービスは信頼できる大きな要素となります。

 いろいろな場面で何かと触れるPDCAですが、実はQMSの基本としても採用されている考え方です。それではまず、PDCAとは何か、基本的なところから見ていきましょう。

 PDCAとはさまざまな商品やサービスの改善を促すフレームワークのことです。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)という業務改善におけるそれぞれのステップの頭文字を取った名称で呼ばれています。

 P:Plan(計画)目的・目標を設定し、その目標を達成するための計画を立案します。
 D:Do(実行)計画を実行に移し、実行の記録を残します。
 C:Check(評価)実行した結果と計画の差を客観的事実(記録)に基づいて検証します。
 A:Act(改善)評価した結果を踏まえて、実施するべき対策や改善案を検討します。

 正しい計画(Plan)ができていない場合、あるいは計画(Plan)通りに実行(Do)した記録がない場合は、正しく評価(Check)をすることができません。もちろん、正しく評価(Check)できない場合は適切な改善(Act)ができません。

 PDCAはすべての段階を連続的・継続的に行うことで商品やサービスの改善を促すフレームワークなのです。

 PDCAはQMSの根幹をなしています。具体的には以下のように設定されます。

 P:組織の内部課題や外部環境も考慮し、品質の方針や品質目標、行動目標を決めます。
 D:顧客とのコミュニケーションなどを通じたモノやサービスの企画、設計・開発、製造・サービス提供などを実行しながら、計画通りに実施した記録を残します。
 C:方針や目標などの計画と実行した結果のギャップを検証します。
 A:検証した原因を踏まえて、QMSの改善案を立案します。

 より良いモノやサービスを提供するには、時代や環境変化に応じていく必要があります。そのため、QMSそのものを継続的に改善していくPDCAが根幹に組み込まれているのです。

 では実際にQMSを作るにはどのようにしたら良いのでしょうか。QMSにはガイドラインとなる規格があるため、以下でいくつかご紹介します。

 品質マネジメントシステム規格として、国際標準化機構(ISO)が規定している規格です。要求事項として10個の箇条でまとめられています。

 世界標準として英文で書かれたISO9001の和訳版です。一般社団法人日本規格協会から品質マネジメントシステム-要求事項として発行されています。

 SQFとは、Safe Quality Food(安全で高品質な食品)の頭文字です。食品製造の管理手法であるHACCPを活用してオーストラリアで策定された、食品の安全と品質を確保するための国際的なマネジメントシステム規格です。

 上記で紹介したようなガイドラインには、一定の要求事項があり、これを満たすと認証を取得できます。これを規格の認証取得と言います。

 例えば、ISO9001認証取得の場合、「御社のQMS(仕組み)はISO9001に書かれた要求事項を満たしていますよ」という証明を受けたことを示します。

 ただ、QMSのために規格認証取得が必要かどうかは組織の目的・方針によるため、必ずしも規格認証が必要になるとは限りません。

 以下では規格認証取得の要否の参考になるメリット・デメリットについて紹介します。

規格認証取得のメリット

 規格認証取得をすると、主に2つの側面からメリットがあります。

 1つ目は、認証取得した組織自身のメリットです。国際規格に則って自社のQMSを構築し、定期的に審査を受けることができれば、良い品質のモノやサービスの提供を比較的早く行うことができます。また、「あの会社はしっかりしたQMSを運用しているので安心だ」という信頼を取引先や顧客などから得られます。

 2つ目は、一般消費者や取引先のメリットです。取引先が認証取得を受けていれば、こちらが監査などしなくても問題ありません。そのため取引における監査手順を簡略化することができます。

規格認証取得のデメリット

 一方で、規格認証取得にはデメリットもあります。

 1つ目のデメリットは、書類作成や管理のコストがかかることです。規格認証を受けると、QMS運用を支援するためのマニュアル整備や実行段階での記録が必要になるため、それら書類の作成をしたり、管理の工数がかかったりします。

 2つ目のデメリットは、規格そのものが改訂された際にその都度対応しなければならないことです。ISO9001の場合、1987年に初版が発行され、1994年、2000年、2008年、2015年にそれぞれ改訂があり、認証を受けているQMSにも改訂が求められました。こうした改訂が行われた場合、その都度対応するコストが生じます。

 このように認証取得をした場合は認証維持に関する注意点があることも押さえておきたいです。

 それでは、QMSを構築するための手順を4段階に分けて紹介します。

 まず、経営層が「当社はQMSを構築します!」と宣言し、その責任を負うことを表明します。

 そして、この記事の前半でも書いたような「QMSの意味や価値」を教育し、従業員に浸透させます。

 現在行っている業務の手順やルールなどを文書化(この文書を下位文書と呼びます)し、その文書に従って業務を行います。

 この際、実際にそのとおりに作業をするような下位文書をつくることが重要です。なぜなら理想の業務手順を書いてしまった場合、実態と文書が異なってしまい、PDCAサイクルが回らなくなるためです。

 続いて上位文書を作成します。

 下位文書には手順などの具体的な作業を記載しましたが、上位文書には、手順などの具体的作業より一段上にある業務上のルールを記載するイメージです。

 上位文書はマネジメントシステム規格を参考にして作成します。

 具体的な作業内容は下位文書を参照し、業務上のルールは上位文書を参照するように指定して記述します。

 なお、中小企業では、管理コストの低さから下位文書と上位文書の2階層くらいで構築する場合が多いですが、大企業では3階層になっている場合がほとんどです。

飲食店のQMS文書イメージ・筆者作成
飲食店のQMS文書イメージ・筆者作成

 下位文書と上位文書の作成が終わったら、実際に業務を運用していきます。その際、改善点があるたびに文書も修正していきます。

 例えば、クレームが発生した場合、文書に書かれている作業方法やルール、あるいは記録の残し方に問題はなかったかを検証し、作業手順やルールを変更して文書を修正・改善します。

 Plan(計画)で文書を作成し、Do(実行)で実際の業務を行い、Check(評価)で検証し、Act(改善)で文書を改訂していく。QMSの構築はこのPDCAサイクルの繰り返しなのです。

QMSにおけるPDCAイメージ・筆者作成
QMSにおけるPDCAイメージ・筆者作成

 QMSは、あくまでもその組織の目的や戦略的な方向性を達成するために必要な、品質を維持・向上させる仕組みであり手段です。

 規格認証を受ける際は、マネジメントシステム規格要求事項を過剰に遵守するなど、規格に振り回されることがないようにしましょう。自社の目的を達成するための参考書としてマネジメントシステム規格を活用し、QMSを有効に運用してほしいと思います。