【エクセルで作成可能】資金繰り表の作り方を専門家が解説
事業を進めていくうえで、お金(=資金)の増減を把握し予測することは、損益を把握する以上に重要です。資金繰り表は、その資金の増減を予測するために作成します。本記事では、資金繰り表とは何かや作り方について、一般事業会社で経理財務としての経験もある税理士が解説します。
事業を進めていくうえで、お金(=資金)の増減を把握し予測することは、損益を把握する以上に重要です。資金繰り表は、その資金の増減を予測するために作成します。本記事では、資金繰り表とは何かや作り方について、一般事業会社で経理財務としての経験もある税理士が解説します。
目次
資金繰り表とは、将来の資金の流入(収入)と流出(支出)を予測し、資金残高を把握するために作成する表のことです。実際にどれだけ現預金が入ってきて、そして出ていくかを見て把握することが重要であるため、「期首資金残高+収入−支出=期末資金残高」という計算式となっていれば、書式は自由です。
一方、似たようなものに、キャッシュ・フロー計算書があります。キャッシュ・フロー計算書も期首の資金(現金及び現金同等物)と期末の資金の増減を示しているものですが、資金繰り表が将来の資金の動きを予測するのに対し、キャッシュ・フロー計算書は過去の資金の動きを示すものです。
また、資金繰り表はどちらかといえば収入と支出そのものを重視するのに対し、キャッシュ・フロー計算書は資金が動いた要因(営業活動・投資活動・財務活動など)を重視するという点で相違があります。
資金繰り表の構成要素は、①資金の期首残高、②収入、③支出、そしてその計算結果としての期末残高です。したがって、それぞれ①②③を把握・予測するための資料が必要となります。
例えば、①資金の期首残高を確認するために、現金出納帳と預金通帳(入出金明細表)が必要です。②収入を把握するために、売上債権がいつ資金化されるかを知る必要があり、そのために受注や売上の管理台帳、手形帳が役立ちます。③支出を把握するため、月次試算表を手掛かりにして固定的な支出を確認し、また、支出の大きな部分を占める借入返済額には借入金返済予定表を用います。
必要資料の例をまとめると、以下のとおりです。
・現金出納帳
・預金通帳(入出金明細表)
・受注や売上の管理台帳
・手形帳
・月次試算表
・借入金返済予定表
実際に資金繰り表をどのように作っていくかを解説します。
資金繰り表の書式はさまざまです。わかりやすければエクセルなど、どういったものでも問題ありません。例えば、各地の信用金庫のWeb上には誰でもダウンロードできる書式があります。それを参考に作成していくのがおすすめです。
以下、資金繰り表の中でも比較的簡単な書式のものをエクセルを用いて解説します。
資金繰り表の期間としては、1週間単位や、四半期単位としてもよいのですが、月単位とするのが一般的です。
資金繰り表の項目は、以下のように記載しています。
・前月繰越高
・経常収支
・設備投資支出
・財務収支
・次月繰越高
最上段が前月繰越高、最下段が次月繰越高となるのは、どの資金繰り表でも同様です。
この資金繰り表では、経常収支と設備投資支出、財務収支と分けてそれぞれ収支を計算しています(設備投資は支出のみと仮定しています)。資金の流れをつかむことが目的なので、収入と支出をすべてまとめるという書式にしてもよいのですが、ある程度どういった要因で収支が成り立っているのかは把握しておきたいため、このような書式となることが一般的です。
なお、上記の表は項目をまとめていますが、もう少し細かく分けても問題ありません。例えば、人件費支出を給与支払・賞与支払・社会保険料支払・源泉所得税支払のように、項目を増やしてもよいでしょう。
手形取引をしていないというのであれば当然、手形の行は削除して作成します。
また、金額単位は一円単位にする必要はなく、たいていは千円単位になるはずです。まれに万円単位で作成する会社がありますが、自社で管理する帳票であれば、エクセル上と世間一般では千円、百万円単位なので、できれば万円単位は避けた方がよいでしょう。
手順2では、下表のように数式を入力していきます。数式を入れているセルをわかりやすくするために色を付けています。
この書式では、支出項目はマイナスで入力することを想定しているため、すべて足し算となっています。ただしマイナスの数値が多いと、かえって見づらいこともあるため、すべて絶対値入力とし、計算式でプラス・マイナスとする方式を採用してもよいでしょう。
手順3では、作成時点ですでにわかっている数値を入力していきます。
まずは一番左上の前月繰越高を、預金通帳等をもとに入力します。ここでの前月繰越高に、定期預金などがある場合にそれも含めるかという点は、資金繰り表の対象資金は手元流動性のある資金であるべきなので、含めないで作成します。定期積金をしている場合、別途財務収支のところに支出の項目を設けましょう。
次に、借入金の返済予定もすでにわかっているはずなので、返済予定表をもとに、利息とともに入力します。
そして、一般に固定的支出となる人件費とその他支出も、試算表といった資料をもとに、この時点で入力していきます。
さらに、売上、仕入に関わる債権債務の支払期日でわかっているものを、受注や売上の管理台帳や手形帳をもとに入力していきます。
手順3で入力した数値は、作成時点でほぼ決まっているものです。手順4では、将来的に予測できる数値を入力します。
まずは前年同期比や受注見込をもとに、取引先ごとの売上予測を立てます。取引先がすべて同じ入金条件だったらよいのですが、手形取引があったり、入金条件が違ったりすると、それぞれで管理しなければなりません。
そして、同様に取引先ごとの仕入予測を立てます。
エクセルの別シートに、売上・仕入予測を立てると以下のようになります。
この数値をそのまま資金繰り表に反映させます。
手順5では、数値を入力した結果によって今後の対策を検討します。例えば、X+3月の次月繰越高がマイナスとなっており、このままでは資金ショートとなってしまうので、対策を考えます。この例だと、X+2月に短期借入の返済をしたうえで、X+3月にボーナスを支給する予定としているため、人件費支出が多くなっています。つまり、ボーナスの支給原資が不足しています。この対策として、借入を行うか、ボーナスの支給水準を下げる必要があります。
また、この例ではそこまででもないですが、場合によっては長期借入金の返済が重く資金繰りを圧迫していることも考えられます。そのようなときは、金融機関と応相談となるでしょう。
ここでは、資金繰り表を見て検討すべきことを紹介します。
これまで解説してきたように本記事では、資金繰り表の作り方として、まず支出ありきというアプローチを取っています。会社を経営するうえで、必要な固定費的支出をまずは抑える必要があると考えているためです。
そのうえで、売上がいくらあれば資金繰りが回るかを把握することが大切です。売上に伴って仕入といった変動費が発生することから、そこも加味します。
いわば、損益分岐点売上高ならぬ、資金繰り分岐点売上高を把握するわけです。
「手順5:資金不足となったら対策を考える」でも説明していますが、資金が足りない場合には借入を考える必要があります。金融機関から借入を行う際には、資金繰り表の提出を求められることが多いでしょう。資金繰り表を作成すればわかるとおり、なぜ資金が不足するのかが一目瞭然なためです。不足理由が明らかであれば、融資を受けやすくなります。
売上は上がっているはずなのに資金繰りが厳しいというときは、売上の入金サイクルが長くなっているためであることが考えられます。人件費を中心として固定的支出は毎月発生しますが、業種によっては売上計上後、実際の入金が数カ月後というところもあります。その間、仕入先行となると、受注が増えて売上が増えるごとに資金繰りはどんどん厳しくなっていきます。
取引先の決済条件を見直すことは難しいかもしれませんが、少しでも自社に有利な条件にしておきたいところです。
ちなみに筆者のような税理士も、普段は顧問料が入ってくるものの、決算・申告をして初めてまとまった入金となることが通例です。仕入こそありませんが、仮に人を雇っていれば毎月、支出が発生するので、独立すると運転資金という存在を実感します。
本記事では、資金繰り表の作り方を解説してきました。エクセルを日常的に利用している人であれば、作成するのはそれほど難しいことではないはずです。最初は簡単な表からはじめ、試行錯誤しつつ資金繰り表を充実させ、次第にさまざまなシミュレーションができるようになるとよいでしょう。
さらに会計への理解が深まると、資金繰り表と貸借対照表、損益計算書との関係がわかってきます。そうなると、ずいぶん楽しくなってくると思います。
資金繰り表は会社経営の要諦です。ぜひ、作り方をマスターしてください。
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