目次

  1. 泉質だけじゃない魅力探る鳴子温泉 温泉街全体の活性化に奮闘
  2. 三谷温泉の平野屋は既存の設備を使ったアイデアで黒字に転換
  3. コロナ禍が契機 箱根・一の湯は経費削減と働き方改革
  4. 龍名館はインバウンド向けに「お茶」をテーマにしたブランディング
  5. 旅館・ホテル市場はコロナ禍から回復傾向 帝国データバンクが予測

 宮城県大崎市鳴子温泉の温泉宿「東多賀の湯」2代目は、妻の家業を担い、東日本大震災以降に減っていた利用客を呼び戻そうと、時代に合った設備投資を進めました。

 温泉街の後継ぎ仲間らと再生プロジェクトを立ち上げ、イルミネーションの企画や空き家の活用など、協業の輪を広げて温泉街全体の活性化に奮闘しています。

プロジェクトで企画した鳴子峡大深沢橋のライトアップ(東多賀の湯提供)

 愛知県中南部、蒲郡市の三谷(みや)温泉にある旅館・平野屋は1932年に創業 。バブル期には団体客で賑わいましたが 、社員旅行の減少などで2009年に民事再生法の手続きをしました。直後に継いだ4代目は、既存の設備を使ったアイデアで黒字に転換し、利益率を上げました。

「懐かしさ」を前面に出した客室

 神奈川県箱根町の温泉旅館「一の湯」16代目は大手外食チェーン・サイゼリヤでの経験を生かして数々の組織改革を実行。箱根で宿泊施設10カ所を運営する老舗を引っ張っています。コロナ禍で2カ月の休業に追い込まれながらも、大胆な経費削減と魅力的な宿泊プランで回復の道筋をつけました。

仙石原品の木一の湯のファミリールーム

 東京都内でホテルやレストランを経営する龍名館6代目は、継ぐ準備のない状態で家業に入りましたが、ITツールを全社に導入するなどして業務を効率化。

 さらに新しく開業するホテルには、あえて龍名館の名前をつけず、外国人観光客向けに全63室の客室は「茶屋をイメージした庵」をテーマにしたデザイナーズルームとなっているホテル「ホテル1899東京」を開業しました。主体性を引き出す社員教育にも力を入れています。

「ホテル1899東京」はフロントや客室、アメニティーまでお茶をコンセプトにブランディングしています(龍名館提供)

 帝国データバンクは2022年10月に旅館・ホテル業界の2022年度業績見通しを公表。それによると、旅館・ホテルの4割超が2022年は増収となり、旅館・ホテルの市場(事業者売上高ベース)は3兆円台回復の見通しだと公表しました。

旅館・ホテル市場、過去20年の推移 (帝国データバンクのプレスリリースから)

 ただし、2022年9月時点の帝国データバンクの調査で旅館・ホテル業界の6割超が正社員・非正規社員ともに「不足している」と回答し、人手不足問題が顕在化しているといいます。これまでの事例で紹介したように旅館・ホテルでの働き方改革を進めつつ、観光人材を育成することが急務になっています。