酒のあてだった珍味を「脱おじ」 クラフトパッケージで販路開拓
山形市で50年以上珍味の卸・小売業を営む「東北珍味」は販路を拡大しつつも価格競争に陥らない新商品開発を模索していました。体によい珍味を女性にもお勧めしたいという思いを実現するなかで見いだしたのが、珍味の新開発ではなく、女性に寄り添った届け方でした。商品のシリーズ名は「脱おじ」。コンビニの一部店舗でも新たに取り扱われるようになりました。商品開発に伴走した山形市売上増進支援センターY-bizから紹介します。
山形市で50年以上珍味の卸・小売業を営む「東北珍味」は販路を拡大しつつも価格競争に陥らない新商品開発を模索していました。体によい珍味を女性にもお勧めしたいという思いを実現するなかで見いだしたのが、珍味の新開発ではなく、女性に寄り添った届け方でした。商品のシリーズ名は「脱おじ」。コンビニの一部店舗でも新たに取り扱われるようになりました。商品開発に伴走した山形市売上増進支援センターY-bizから紹介します。
目次
東北珍味は製造元や一次卸など50社ほどの仕入先をもち、卸先は地域に100店以上あり、スーパーや酒屋、産直、道の駅、居酒屋や宿泊施設など多岐に渡ります。製造しないものの加工はでき、つまみや珍味を仕入れ、必要に応じて加工し、パック詰めをして商品に仕上げて販売しています。
東北珍味の岩月薫さんがY-bizを訪れたのは2020年7月。販路維持や販路拡大において価格競争に陥らないための新商品を開発したいという相談でした。
商品によっては他社も同じ珍味やつまみを扱うことができ、また類似製品も多いことから商品に特徴がないと、価格競争に陥りやすいという課題がありました。そのため、味のついていない銀杏に県産の“酒田の塩”をまぶすなど、独自の加工を施す工夫を続けてきました。
新たにオリジナリティのある商品を開発したいが、加工の範囲で打開策となる商品が作れるのか、製造を外注して新たな商品を開発するほうがいいのか、そもそもどういった商品をつくればいいのか、岩月さんは方向性を悩んでいました。
製造を外注して商品を開発・製造する場合、製造の最小ロットが大きくなりがちなことから在庫リスクや製造原価増が考えられます。自社での開発に比べてトライアンドエラーを繰り返しにくいという課題もあります。味やターゲット、シーンの方向性が定まっていないなかで新しい珍味を外注して開発することは課題が大きいと感じました。
東北珍味の商品ラインナップを確認したところ、主力商品はB5からA4サイズ程の大きさの、アルミと透明なビニールでできた袋にパック詰めされた商品。どういった人がどういう場所で購入しているか聞いたところ、客層として想定しているのは男性で、小売先ではつまみ類のコーナーに置かれているとのことでした。
↓ここから続き
話を聞くなかで、岩月さんが、つまみや珍味はカルシウムやミネラルが多いなど体にいい食材も多いのでもっと女性にも食べて欲しいと思っていることや、商品に関する知識が豊富なことがわかってきました。
卸業として東北珍味が自社で出来ること、自社で担っていること、これまでの取り組みとその効果について聞きました。
そのなかで、東北珍味の一番の強みはニーズやシーンに合わせてつまみや珍味を加工し、組み合わせ、袋詰する、または盛籠や詰め合わせにするという、「お客様にとって使い勝手がよい形や手に取りやすい形で商品をお届けする力」と「つまみや珍味に対する豊富な知識」だと捉えました。
そして、Y-bizは、その力を活かした商品開発の検討を提案しました。
具体的に提案したのは、女性向けの商品の企画です。
女性にお勧めしたい珍味がある一方、パッケージや売り方は女性の購入に寄り添ったものになっていませんでした。提案してみると、実は岩月さんの娘さんや社内の女性スタッフから女性向けの商品があってもいいのではないかとの声があったそうです。
中身の珍味を開発するのではなく、届け方を女性に寄り添ったものにするという方針です。パッケージのデザインから製造、袋詰めまで自社で小ロットから対応できるため、サンプルを作って営業し、在庫を抱えることなく注文があった数だけ作って納品することができるという東北珍味の強みを生かして市場投入できることが決め手になりました。
お客様の声と女性スタッフの声を集め、既存商品の女性にとって購入ハードルになっている点を整理し、その点を改善して生まれたのがクラフトパックに入ったつまみ「脱おじ」シリーズです。
「脱おじ」は、「脱おじさん感」を略した造語で、女性が手に取りやすいことを大切にするつまみシリーズの名前として社内で検討されたそうです。容量は食べきりサイズにし、中身が見えず洋菓子が入っていそうな印象のクラフト製チャック付きパッケージが採用されました。
「脱おじ」シリーズのつまみの品揃えは、数ある珍味のなかからこれまで女性に好まれてきたもののほか、女性スタッフが「実は美味しいから食べてほしい」とお勧めしたい珍味から厳選し、ユーモアあふれる商品名で紹介されています。クラフト製のパッケージに印刷されているデザインも社内でデザインした東北珍味オリジナルです。
店舗ではどんな珍味が入っているのか、美味しさや特徴がお客様に伝わるようにPOPなどで陳列に工夫をしました。
新商品の発売に合わせてプレスリリースも出し、既存の営業先のほかギフトショップなど女性向け商品に関心をもちそうな企業や店舗にも新たに営業を行いました。同時にインスタグラムでの情報発信も強化しました。
このような取り組みを重ねた結果、既存の営業先で新商品として取り扱いが決まったほか、新規の取引先との商談が決まり新たな販路開拓につながりました。加えて、新商品がもたらした効果として大きかったことは、これまで接点のなかった県内外の企業や店舗から「仕入れたい」と問い合わせが来るようになったことでした。
県内でこだわりの商品を置くことで知られる店舗での販売が決まったほか、2021年の夏には関東地区の「ファミマ‼」31店舗で販売され、その後、セブンイレブンの東北エリアの一部店舗での取り扱いも決まりました。2022年の父の日には江別蔦屋書店で父の日フェアの商品として販売されるなど北海道にも初進出しました。
新型コロナウィルスによる飲食店での珍味・つまみの需要が減る中、卸・小売業としての強みを活かし、これまでは特化した商品がなかった女性のニーズに寄り添ったおつまみシリーズをつくることで既存の店舗への魅力ある商品の供給と新たな販路開拓につながりました。
その後も東北珍味では、つまみや珍味の魅力に加えて地域の魅力も届けたいと、地域の素材を使った商品や季節に合わせたギフトセットなど脱おじシリーズの新商品を次々と生みだしています。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。