付加価値を高めるには 業界ごとの具体例や必要な手順を簡単に紹介
さまざまな製品・サービスが市場にあふれるなかで、自社のものを他社と差別化することが求められています。そのためには、付加価値を高めることが不可欠といえるでしょう。そこで、付加価値を高める方法や、その方法を見つけるための3ステップ、成功した事例について中小企業診断士が解説します。
さまざまな製品・サービスが市場にあふれるなかで、自社のものを他社と差別化することが求められています。そのためには、付加価値を高めることが不可欠といえるでしょう。そこで、付加価値を高める方法や、その方法を見つけるための3ステップ、成功した事例について中小企業診断士が解説します。
目次
付加価値を高めるとは、製品やサービスがすでに持っている価値にさらに加わった、特別な価値を向上させることです。
世のなかには多種多様な製品・サービスがあり、一見するとどこに違いがあるのかわかりにくい製品・サービスも存在します。
そこで、同じ市場のなかで他の製品・サービスと差別化を図り顧客にアピールすることを目的に、付加価値は製品・サービスに加えられることが多くなります。例えば、デザイン性や高い安全性といったものが付加価値になるケースがあります。
また、生産過程において、付加価値は粗利益(商品の売上高から外部購入費や諸経費を差し引いたもの)を意味するものとしても使われています。つまり、付加価値を高めるということは労働生産性の向上にもつながるともいえるのです。
付加価値とは、製品やサービスがすでに持っている価値に、さらに特別な価値を付け加えることです。ただし、ビジネスの場で付加価値という言葉を使う際には少し意味が異なります。例えば、財務分析をする際には、生産性を測る指標として付加価値を使うことがあるのです。この場合の付加価値とは、労働によって付け足された価値を数値化したものです。
ここで着目したいのは、付加価値と労働との関係です。労働力あたりの付加価値についても、数値で表すことができます。この数値を付加価値生産性、または労働生産性とも呼びます。
労働生産性を求める際の計算式は次のとおりです。
労働生産性=付加価値額/従業員数 |
同じ従業員数だったとしても、付加価値が高まると労働生産性も高くなるという関係なのです。
付加価値の算出方法には、売上高から他社の価値(原材料費や外部へ注文した費用など)を差し引いて計算する控除法と、人件費や減価償却費などを足し算する加算法がありますが、控除法を使うのが一般的です。
例えば、年間の売上高が400万円、原材料費や外注費が200万円だった場合、付加価値の額としては、200万円(400万円-200万円)ということになります。
控除法の計算式(付加価値=売上高-他社の価値)からもわかるとおり、算出された付加価値は、会社がどれだけの価値を生み出しているかを測る指標にもなります。
付加価値を高くするには、どうすればよいのでしょう。
付加価値を高める方法は業種によって異なりますので、以下に業界の具体例をあげながらご紹介します。
飲食店における付加価値を高める方法として着目したいのは、顧客体験です。
例えば、他店では体験できないような演出の料理法をしたり、料理を提供する際の料理説明やおいしそうに見える写真の撮り方のアドバイスを取り入れたりする方法があります。
こうすることで、他店よりも高い値付けが可能になり、付加価値(=売上高-他社の価値)も高めることができます。
不動産業における付加価値を高める方法として着目したいのは、顧客層です。
例えば、こだわりのある女性の顧客層にターゲットを絞り、内装のカスタマイズ対応をできるようにするのです。そうすることで、こだわりのある女性による口コミを誘発できるうえ、カスタマイズ対応ができる分、販売価格を高めに設定することも可能となります。結果として、付加価値(=売上高-他社の価値)も高めることができるでしょう。
宿泊業における付加価値を高める方法として着目したいのは、接客サービスの質です。
例えば、特別なルームサービスや特別なアクティビティなど、その宿でしか体験できないことは非日常感とともに、顧客の「また体験したい」という思いと結びつきやすくなります。
質の高い接客サービスを行うことで、他社よりも高い値付けが可能になり、付加価値(=売上高-他社の価値)も高めることができます。
製造業については、付加価値そのものを高めるというよりも、労働生産性を高める必要があるため、今まで説明をした業界例とは対応内容に違いが出てきます。
最初に取り組みやすいものは、業務効率化です。業務効率化をすることで、従業員1人あたりが生み出す付加価値を最大化させます。
次に取り組みやすいものは外注費の見直しです。何年も同じ価格で取引しているのであれば、複数の企業から相見積もりを取り直してコストカットにつなげるという方法も取れるでしょう。
付加価値を高めることで他社と差別化を図ることができ、結果的には企業の利益最大化へとつながっていきます。
ただ、付加価値を高めるには、先に自社の製品やサービスにどのような付加価値が求められているかを見つけることが重要です。
そのためには、次の3ステップを経るとよいでしょう。
①顧客が抱える課題を考える ②顧客が得たい恩恵を考える ③自社の製品・サービスが顧客の課題を解決し、顧客に恩恵を与えられるか考える |
特に、①と②は、企業としての視点ではなく、顧客としての視点に立って考えることが重要です。また、①と②については、企業内で考えることも大切ですが、対象顧客にヒアリングすることで得られる気付きもあります。そのため、可能であれば、企業内で考えることと顧客ヒアリングをセットで実施できるようにしてみてください。
続いて、①〜③のステップをそれぞれ詳しく解説していきます。
ここでは、顧客が何に困っているのかを考えるところから始めます。
例えば、宿泊業において33歳独身女性を顧客として想定した場合、顧客の課題としては以下のようなものがあげられます。
・1人で泊まると寂しいと感じるかもしれない
・1人での宿泊は2人以上の宿泊よりも割高になる
・1人での宿泊は困ったときに誰に相談したらよいかわからない
次に、顧客が「どうなると嬉しく思うのか」を考えていきます。
例えば、①の例で想定した場合、顧客は以下のような状態になれば嬉しく思うはずです。
・1人で宿泊しても自分ひとりの時間と周りと楽しめる時間の両方を味わえる
・1人で宿泊しても宿泊代金が割高にならない
・1人で宿泊したときに頼りになる年齢の近い人がいる
最後に、②で想定した“顧客がどうなると嬉しく思うのか”に、自社の製品サービスがマッチしているかどうかを確認します。
例えば、宿泊業において、宿泊者1人にコンシェルジュ1人を付ける宿泊サービスを開発したとしましょう。このサービスは、宿泊者の年齢に近いスタッフをコンシェルジュとして配置し、どこかに観光に行きたいというリクエストが宿泊者からあれば、コンシェルジュが案内役として同伴することも可能である内容だとします。
すると、「1人で宿泊しても自分ひとりの時間と周りと楽しめる時間の両方を味わえる」「1人で宿泊したときに頼りになる年齢の近い人がいる」という点については、“顧客がどうなると嬉しく思うのか”を満たしていることになります。
ただし、“宿泊者1人にコンシェルジュ1人を付ける宿泊サービス”は人件費がかかることもあり、宿泊代金は割高なままです。この課題を解決するのか、割高なままでも利用してもらえるような付加価値をさらにプラスするのかは、想定顧客へのヒアリングを実施しつつ、“①顧客が抱える課題を考える”に戻って、さらに考えることを繰り返していきます。
最後に、筆者が支援した企業のなかから、付加価値を高めることに成功した具体例を2社、紹介します。
筆者が改善支援に入ったばかりの頃のA社は、業務が属人化しており、業務が本当に効率的なのかわからない状況でした。
そこで、A社の社長がリーダーシップを取り、1人いなくても残りの2人が居れば業務が止まらないような仕組みを作りました。その結果、業務が属人化していたときには見えてこなかった業務の重複や無駄が発見され、業務の単純化に向けたヒントとなりました。特定の人が居なければわからない仕事が減っていくたびに業務が効率化していき、従業員1人あたりが生み出す付加価値は最大化していきました。
ワインが大好きで学生時代から世界中を飛び歩いてワインを飲み歩いていた男性が通販業から独立し、酒屋をオープンしました。
その際、社長となった男性が決めていた目標は街で一番のワイン屋になるということでした。
実際、商品の仕入れは社長の好みが反映されていますが、それと同時に、街にあるイタリア料理店やフランス料理店には足しげく通い、店内の客層チェックや飲食店のオーナーとのコミュニケーションも重ねたそうです。
そうすることで、店に食べに来る顧客が喜ぶワインの情報はもちろん、飲食店のオーナーの悩みを解決できるようなワイン情報提供の重要性にも気づけて、酒屋の付加価値を高めることに成功しています。
現在、街一番であることはもちろん、少し離れた隣町からも自転車やスクーターを利用してワインを仕入れに来る飲食店オーナーが増えているそうです。
製品やサービスの付加価値を高めるために必要なことは、決して特別なことばかりではありません。どちらかというと、顧客の声に耳を傾けたり不要なコストを意識し続けたりなど、日頃からできそうなことこそ、付加価値を高めるヒントになります。
まずは自分の周りに無駄はないか、顧客からの「困った」情報はないかを探してみるところから始めてみてください。
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