みなし配当の課税とは 計算方法・特例・注意点を税理士がわかりやすく解説
通常は利益の分け前が「配当」ですが、自己株式の取得など、少し特殊な場合に課税される「みなし配当」と呼ばれるものがあります。みなし配当は会計と税務の考え方が違うために発生します。みなし配当の計算方法や課税される条件、特例、個人・法人の税務処理について税理士がわかりやすく解説します。
通常は利益の分け前が「配当」ですが、自己株式の取得など、少し特殊な場合に課税される「みなし配当」と呼ばれるものがあります。みなし配当は会計と税務の考え方が違うために発生します。みなし配当の計算方法や課税される条件、特例、個人・法人の税務処理について税理士がわかりやすく解説します。
目次
みなし配当の課税とは、配当以外の行為に対して、税務上は配当と同じとみなして課税を行うことです。自己株式の取得や(非適格)合併といった行為は配当ではありませんが、税の世界では配当と同じ扱いとしたほうが都合がよいために、みなし配当の課税が行われます。
みなし配当となった場合、税務上は配当と同じ扱いをされるため、法人であれば受取配当等の益金不算入額の規定が適用され、個人であれば配当所得として取り扱われます。
みなし配当を解説するうえで、まず「配当」について解説します。会計期間の損益を計算し、それがプラスであれば利益であり、利益剰余金となります。配当とは、その利益剰余金を原資として会社が株主へ金銭を支払うことであり、剰余金配当の決議を経て行われます。
一方、自己株式の取得や(非適格)合併などの決議によって、株主へ金銭が支払われる場合があります。これは、配当として決議されたものではなく、会社とその株主間の行為としては配当ではありません。
しかし、税務上は配当とみなされます。このように、会社がその株主に金銭を払った際に、それが配当ではなくとも税務上は配当とみなす取り扱いを、みなし配当と呼びます。
株主へ金銭が支払われた場合、そのうち、資本の払い戻し部分のみであれば、みなし配当は発生しません。しかし、現実には資本の払い戻し部分ではなく、利益剰余金から払い戻されていると考えられる部分があります。その部分は利益剰余金からの払い戻しである以上、配当とみなして取り扱うというものです。
※税務上、利益剰余金に対応するものは「利益積立金」と言いますが、この記事では正確には利益積立金と言うべきところでも、便宜上、利益剰余金の用語を用います。
配当とは、基本的に利益剰余金を株主へ分配することです。みなし配当部分を計算するには、利益剰余金にあたる部分から分配された額がいくらなのかを計算することとなります。
株主への分配(株主にとっては受け取った額)は、資本の払い戻し部分と、利益剰余金の部分とに分けられます。逆にいうと、みなし配当となる部分は、株主が受け取った額から資本の払い戻し額の部分を控除した額となります。
計算式では以下のように表せます。
みなし配当の額=「交付を受けた金銭等の価額」−「資本の払い戻し額」 |
以下、具体例を挙げてみなし配当の計算方法を見ていきます。
何らかの理由で、会社が自ら発行した株式を株主から取得する場合があります。これを自己株式の取得と言います。自己株式の取得は、みなし配当が発生する典型的なパターンであるため、具体例を用いて説明します。
資本金が1,000、利益剰余金の額が2,000、発行済株式数が100であるとします。1株あたり10(=1,000÷100)の出資ですが、その後、会社が順調に発展し、利益剰余金が2,000まで増えました。
ここで、自己株式として10株を取得することとします。自己株式の取得価額は適正な時価とされていますが、出資額である1株あたり10ではいくら何でも株価としては低すぎ(安すぎ)るので、ここでは1株あたり24が適正な時価として算出されたとします。
このとき、240(=24×10株)の自己株式を取得します。240のうち100(=10×10株)は資本金の払い戻しです。240−100=140は、実際のところ、利益剰余金から払い戻されたと見ることができます。そこで、この140は「利益剰余金からの払い戻し=配当と同じ性質=みなし配当」ということとなります。
この例をまとめると、以下のようになります。
交付を受けた金銭等の価額:240(適正な1株あたりの時価24×取得株式数10株) 資本の払い戻し額:100(資本金の額1,000×取得株式数10株/発行済株式数100株) みなし配当の額:140(240−100) |
一般的な式で表すと、以下のようになります。
交付を受けた金銭等の価額−(資本金等の額(※)×取得株式数÷発行済株式等の総数) =みなし配当の額 |
(※)上記具体例では資本金の額だけでしたが、資本準備金といった株主等から拠出された金額のうち、資本金の額には組み入れられずに留保されているものを「資本金等の額」と言います
適格合併ではない非適格合併の場合、被合併法人(合併され、消滅する法人)は最後事業年度に、資産負債を時価により譲渡したものとして、譲渡損益を課税所得に加減算して申告します。一方、合併法人(合併し、存続する法人)は、被合併法人の最後事業年度の資産・負債を時価で受け入れるとともに、受け入れ資産・負債の時価純資産は、すべて資本金等の額で受け入れることになります。
被合併法人の株主からすると、合併時において、いったん被合併会社への投資が清算されたこととなります。そして、被合併法人の資本金等の額にあたる部分に加えて、利益剰余金にあたる部分を含めいったん払い戻しを受けたうえで、合併法人へ資本金等の額として払い込むということとなります。
ここで、被合併法人をA社、A社の株主をX、合併法人をB社とします。
Xの視点から見ると、A社の株式を持っていたわけですが、A社は合併されて消滅してしまうので、A社の株式の代わりとなる何らかの対価を得る必要があります。その対価はB社の株式や金銭となりますが、すべて金銭で得たものとします。この金銭を合併交付金と言います。
非適格合併の場合、合併に際してXはA社から金銭を受け取る形となります。その金銭の原資のなかには、資本金等の額のほか、利益剰余金部分も含まれるため、みなし配当が発生します。
A社から交付を受けた金銭のうち資本の払い戻し部分は、A社が合併する直前の資本金等の額におけるXの持ち株割合分となります。資本の払い戻し部分を除いた額の利益剰余金部分が原資と考えられ、みなし配当となります。
この場合のみなし配当の額の計算式を、一般的な式で表すと以下のようになります。
交付を受けた金銭等の価額-(合併直前の資本金等の額÷発行済株式等の総数×株主が保有する株式数)=みなし配当の額 |
みなし配当の課税が発生するのは、主に以下のような場合です。基本的に、株主に対して金銭等が支払われたときに、その原資が実質的に利益剰余金であると考えられる場合にみなし配当の課税が発生します。
「②合併(適格合併を除く)をした場合」の計算例で説明したように、適格合併を除く合併は、被合併法人の株主にとっては投資の清算が行われ、利益剰余金部分も含めた払い戻しをいったん受ける形となります。
また、適格分割型分割を除く分割型分割においても、利益剰余金部分が株主に払い戻される形となる場合があります。
いずれも利益剰余金部分を原資として株主に金銭を交付していると考えられるため、みなし配当の課税が発生します。
「①自己株式の取得」の計算例で説明したように、会社が自己株式を取得するのに際して、利益剰余金の部分も含めて株主に対価を支払います。そのため、みなし配当が発生します。
なお、金融商品取引所の市場を通じた取引で自己株式を取得した場合など、配当課税の手続き面での困難性や配当課税を行うことの必要性といった観点から、自己株式の取得であっても、みなし配当の課税が行われない場合もあります。
資本剰余金は、基本的には株主から拠出された払込資本のうち、資本金とされなかった部分です。そのため、通常であれば配当ではなく、出資の払い戻しとして取り扱われます。
一方、貸借対照表上は資本剰余金となっていても、その原資が利益剰余金となっている場合もありえます。この場合、利益剰余金部分があることから、みなし配当が発生します。
残余財産は法人を解散して清算する場合、最終的に株主に分配されるものです。その際には、利益剰余金の部分も含めて分配されることから、みなし配当が発生します。
ここでは、みなし配当の税務処理をみなし配当を行う法人、みなし配当を受ける株主(個人・法人)に分けて解説します。
法人が通常の配当を行った場合、配当額に対して源泉徴収を行い、その徴収額を配当を行った翌10日までに税務署に納付します。そして、「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」を1ヵ月以内に税務署に提出します。
この流れは、みなし配当を行った場合も基本的に同様です。みなし配当部分に源泉徴収を行い、支払調書を提出します(ただし、みなし配当の場合、支払調書の名称は「配当等とみなす金額に関する支払調書」となります)。したがって、法人が株主に金銭を支払った際に、みなし配当部分を法人が計算する必要があります。
また、株主に対して、法人税法の根拠条文、事由の生じた日、1株あたりのみなし配当の額、資本の払い戻し等に係る割合を通知しなければならないとされています。実際には、上記の「配当等とみなす金額に関する支払調書」を株主にも交付します。
みなし配当部分については、配当所得となります。ここで、配当所得は上場株式等の配当等と、上場株式等以外の配当等(非上場株式の配当等)とで課税関係が分かれますが、非上場株式等の配当の場合、原則的に総合課税で確定申告をします。給与所得や事業所得などと合わせて所得が計算され、超過累進課税制度の下で最高45%の所得税率(住民税と合わせて55%。さらに所得税額の2.1%の復興特別所得税)となります。
一方、配当所得なので、配当控除として一定額を税額から控除することができます。
なお、みなし配当とならない部分は、株式譲渡所得であり、その所得が多いか少ないかに関わらず所得税は15%(住民税5%と復興特別所得税合わせて20.15%)の税率となります。
みなし配当部分は、受取配当等の益金不算入の規定の適用を受けます。以下の金額が法人税の所得の計算上、益金として算入されません。
(1)完全子法人株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の合計額 (2)関連法人株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の合計額から当該関連法人株式等に係る負債利子の額を控除した金額 (3)完全子法人株式等、関連法人株式等及び非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の50%相当額 (4)非支配目的株式等につき受ける配当等の額 当該配当等の額の20%相当額 |
これは、みなし配当の部分だけ特別に適用されるわけではなく、他の配当と合わせての適用となります。たとえば、ある法人(非支配目的株式等)から、みなし配当として100、また、別の法人(非支配目的株式等)から通常の配当として200を受けた場合、合計300(100+200)に対して、20%の60が益金不算入となります。
なお、みなし配当とならない部分は、有価証券売買損益の計算になります。
上記のように、非上場株式等のみなし配当となれば、個人では配当所得となり、最高45%の所得税率(住民税と合わせて55%。さらに所得税額の2.1%の復興特別所得税)となります。
しかし、相続税の課税の対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合(会社にとっては自社株を取得した場合)においては、配当所得ではなく、株式譲渡所得として取り扱う特例があります。
この特例を適用するためには、以下の条件を満たさなければなりません。
相続または遺贈により財産を取得して相続税を課税された人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日(つまり相続開始日から3年10カ月)までの間に、発行会社に譲渡する必要がある |
また、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を、その非上場株式を発行会社に譲渡するときまでに、発行会社を経由して、発行会社の本店、または主たる事務所の所在地の所轄税務署長に提出することが必要です。
株式譲渡所得は申告分離課税であり、その所得が多いか少ないかに関わらず所得税は15%(住民税5%と復興特別所得税合わせて20.15%)の税率となります。
典型的には会社の後継者が相続財産として、先代である被相続人からその会社の株式を取得したときに、相続税の納税資金を確保するために株式をその会社に売却した場合に、みなし配当課税が発生しないという特例です。
自社株の相続対策として、念頭に置いたほうがよいでしょう。
最後に、みなし配当の課税における注意点を解説します。
みなし配当は、会社が株主へ金銭等を交付する際に、それが配当ではないものでも税務上は配当と取り扱うものです。配当ではなく、会社が株主へ金銭等を交付する場面には、上記で挙げた自己株式の取得や、合併(適格合併を除く)といったものがあります。このような場合には、みなし配当としての課税が発生する可能性があります。
会社が株主に対して金銭等のやり取りをする際には、みなし配当が発生しないかということを考慮しなければなりません。
みなし配当となった場合に最も懸念されるのが、個人が受けた非上場企業の配当は配当所得として原則的に総合課税所得となるという点です。株式を譲渡した場合は分離課税所得で税率が一定(住民税含め20.315%)ですが、配当所得の場合は超過累進税率のもと、住民税含め最高55%強の税率となります。多額のみなし配当が発生すると思わぬ税負担となるため、十分に気を付ける必要があります。
みなし配当の課税はオーナー企業の株主にとって、ときに大きな脅威となります。最適な課税対応策を考えるうえでは避けては通れない論点ですが、少し立ち止まって考えないと把握しがたい概念です。
また、通常とは違った取引をする際に発生するものです。そのため、みなし配当が発生しそうな取引をする場合は、詳しい税理士によく相談して実行することをおすすめします。
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