「位置ずれ社員」が生まれる理由 経営者や管理職が取るべき行動を解説
なれなれしい態度を取る部下や指示に従おうとしない社員など、組織内で自分の「位置」を勘違いする社員はどこにでもいます。上司と部下の適切な位置関係とはどのようなものでしょうか。組織コンサルティング会社・識学の上席コンサルタント・吉原将之さんが中小企業の経営者らに向けて、こうした「位置ずれ社員」を生まないために取るべき行動を解説します。
なれなれしい態度を取る部下や指示に従おうとしない社員など、組織内で自分の「位置」を勘違いする社員はどこにでもいます。上司と部下の適切な位置関係とはどのようなものでしょうか。組織コンサルティング会社・識学の上席コンサルタント・吉原将之さんが中小企業の経営者らに向けて、こうした「位置ずれ社員」を生まないために取るべき行動を解説します。
組織マネジメントにおける「位置」には二つの意味があると考えています。一つ目は「組織の一員である」という意識です。この位置認識がない人は「組織は組織、私は私」という発言をします。「会社の言いなりになってはいけない」「個人を尊重することは大切」という考えが流行し、先の発言は何となく正しく聞こえるかもしれません。しかし、私たちはチーム戦をしているはずです。チームが負ければ社員も全滅することを理解しなければなりません。
組織の一員としての自覚がなく、自分勝手な行動を取る「位置ずれ社員」は極めて厄介な存在です。こういう社員がいるときは、あいさつする、ユニホームを着用するといった誰でも守れるルールを用意し、順守させることから始めてみてください。
もう一つの位置が「組織内の役割」です。これは、経理や総務、営業など与えられた自分の持ち場を守ろうとする意識のことになります。この位置がずれていると、自分が意思決定できないはずのことをできる、逆に意思決定できるのにできないと思ってしまいます。
また、上司になれなれしい態度を取る部下や、指示を無視する社員もこの位置がずれている状態です。人間として偉い、能力が優れているという話ではなく、組織のなかで上司は重い責任を持つ存在です。部下はしかるべき態度で接するべきでしょう。
部下に位置認識がない状態というのは、サッカーで例えるなら監督が戦術を決めたのに選手が「こんな作戦には同意していない」と言って勝手な行動を取るようなものです。ゴールキーパーが最前線で得点を狙うなんておかしいですよね。それぞれが自分の役割に集中できず、社内の意思決定が遅くなるので、組織の生産性も下がってしまいます。
なぜ、こうした「位置ずれ」が起こってしまうのでしょうか。
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それはルールと権限が不明確だからです。そこで、まずはこれらを明確に設定することから始めましょう。
明確というのは、誰から見ても認識がずれない形にするという意味です。一例を挙げると、「机の上は常に整理整頓しておく」というルールでは整理整頓の基準が人によってバラバラのため、部下が実行したつもりでも上司からはそう見えないという事態が起こり得ます。
これが「退勤時には机の上に何もない状態にする」であれば全員の認識が一致します。
ルールや権限の設定は経営者にしかできません。もし、これらをあいまいにしているなら、すぐに改めるようにしてください。
現場の成績が悪いとき、上司と部下の位置関係が適切でないと、現場は「自分たちは悪くない」と考え、問題意識を持とうとしません。
マネジメントする側の上司は、何もしなければ自分の評価が下がるため、アドバイスしたり一緒にやったりしてしまいたくなりますが、そうすると部下は自分から考えなくなります。「上司の言うことを聞けばいいや」という思考に陥り、常に指示を待つようになってしまうのです。
ルールと権限が明確になった後は、部下が自発的に動くように社員一人ひとりに、定量的な数字や承認者が認める品質など客観的な事実に基づく明確な目標設定をしましょう。その上で、あとは部下の自由にさせます。
位置を明確に決めることで社員の独創性を奪ってしまうのではないか、という心配は杞憂です。むしろ、このようにマネジメントすることで部下は自由になれます。
行動範囲など権限やルールが不明確であれば、できなかった時に言い訳しやすい環境になります。明確な環境で、明確な目標を宣言して仕事をさせると、免責になりやすい環境が排除されるので、目標をクリアするための発想に集中でき、イノベーションや独創性が出てくるという考え方になります。
自分の役割、そして役割を果たすためのルールと権限が明確になっていれば、組織における役割の位置認識はずれにくくなり、社員は自分が意思決定するべきことだけに迷いなく取り組めるはずです。
社員が自分で意思決定できないときは、社員から上司に「権限をください」あるいは「ルールを変えてください」と要求させましょう。難易度は高いですが、あくまで仕事をするのは部下なので、それくらい主体的になってもらわなければ困ります。このように指導するのも経営者の役目です。
直属の上司が、その申し出を妥当と判断したなら変えさせればよし。駄目ならば却下することになります。いずれにせよ全体の責任は上司が負います。
私自身、自分の部下に対し「私への相談はルールの確認と権限の上申のいずれかにしてください」と伝えています。もちろん、何の問題もなく楽にマネジメントできています。
部下の立場から上司の指示が支離滅裂なものに見えたとします。ただ、このとき、上司がなぜその指示を出したかを部下に説明したとして、部下が上司と同じ認識を持てるでしょうか。
部下に背景を説明することは否定しませんが、立場も違えば責任の重さも違います。部下は理解できず、納得いかないということもあるかもしれません。
部下には指示に対して腹落ちや納得を求めるのではなく、「指示が不明確なら確認しに来なさい」と伝えましょう。上司は部下を迷わせないような明確な指示を出すことにこだわっていればよいのです。
上司も間違った指示を出すことはあるでしょう。しかし、正解など誰にも分からないものです。決めるのが上司の役割だから、手に入っている情報のなかで覚悟を持って意思決定しているに過ぎません。
上司はチーム全体の全責任を取る立場です。その責任を果たすために意思決定する権限を持っています。部下には部下の果たすべき責任があるはずです。リーダーが決めた全体戦略のなかで、目標を達成するために(部下側に)必要な権限やルールがあれば事前に申し出てもらいましょう。それぞれが自分の責任を果たすために集中するというマネジメントになります。
ただし、パワーハラスメントは論外です。感情的に接することだけは控えてください。
「位置ずれ」はルールを守らなくても良い、守らなくても許されるという環境にいることで発生します。その環境を作っている上司の責任です。
では経営者はどうするかというと、ルール設定と管理しか答えがありません。姿勢のルールを設定し、評価項目を明確に定量的なものにします。そして人間関係を作ろうとすると位置がずれる(上司を好きか、嫌いかなどで仕事をする)リスクがあるので、上司は感情を出さずルールという言葉で事実設定と管理をすることが大切です。
本稿で紹介した二つの位置を勘違いしやすい人は、採用の段階で見抜く必要があります。簡単ではありませんが、方法の一つが適性検査の活用でしょう。我々も独自の適性検査を作成し、実施しています。
また、筆者は面接で過去の失敗を自分の視点で捉えているかどうかを見るようにしています。上司や部下、会社の批判を繰り広げる人には気を付けます。腹に据えかねる思いはあると思うのですが、わざわざ面接で言うことではないはずです。
それと、世の中にどういう価値を提供したいと思っているかを語ることができる人が来てくれると安心します。外部との関係のなかで仕事を捉えられているわけですから。もちろん、自分がどうなりたいかを話すことも大事ですが、そればかりだと少し心配になります。
識学上席コンサルタント・事業戦略本部本部長
米セントラルミズーリ州立大学大学院で英語教授法修士を取得後、米国でキャリアをスタート。28歳のときに日本に帰国すると、教育系の上場企業でインバウンド・アウトバンド留学事業・日本語学校事業部長や、英国政府外郭団体のBritish Council のPRマーケティング&セールス部長、英国国立ウェールズ大学経営大学院MBAプログラムでマネージングディレクターなどを歴任。
(※構成・平沢元嗣)
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