目次

  1. 地政学リスクへの危機管理能力を高めるための情報収集
  2. 外務省の2サイト、緊急情報で使い分け
  3. 深いテロ情報なら公安調査庁
  4. 筆者オススメの「NEWS25NOW」 海外ニュースを集約
  5. 国際情勢の深い分析が必要なら「国際危機グループ」
  6. 海外安全情報、他国と比較も有益
  7. 海外の情報サイトも活用して地政学リスクの情報収集を

 地政学リスクが注目されるなか、多くの専門家が新聞やメディアで解説し、そういった企業の悩みに答えるコンサルティング企業が近年増えています。そういった企業を活用する中小企業も少なからず増えているのではないでしょうか。

 そういった仕事に従事する筆者として最近感じるのは、確かに地政学リスクに関連する専門家の意見を参考にし、コンサルティング企業を活用することは重要です。

 しかし、最も重要なのは、企業自身が率先して地政学リスクに関する情報を入手し、それを十分に理解し、社内でそれを共有して危機管理能力を高めることです。

 欧米や中国、韓国やオーストラリアなど日本にとって身近な国々の情報は比較的入手しやすい一方、アフリカや中南米などではそもそも現地情報が取りにくい国々もあります。そういった際、メディア報道やコンサルティング会社の利用にも限界があり、企業自身が率先して情報収集、情報共有に努めなければなりません。

 では、そういった地政学リスクに関係する情報はどこで入手すればいいのでしょうか。

 まず、最も基本になるのが外務省の海外安全ホームページです。

外務省の海外安全ホームページ(https://www.anzen.mofa.go.jp/)

 海外安全ホームページにはアクセスすれば世界のマップが表れ、それぞれ情報を知りたい国をクリックすれば、その国・地域の危険レベルがすぐに分かり、治安情勢の現状、対策・注意喚起などが記載されています。

 ここでは、各国の治安概要、一般犯罪やテロ、抗議デモなどの動向、そして安全対策など普段から役立つ情報が記されており、海外に社員を派遣する中小企業には極めて重要なサイトです。

 しかし、常に最新の情勢がアップデートされているとは限らず、緊急情報の多くはここに記載されていません。

 一方で、外務省の「たびレジ」は、緊急的に重要な情報を提供してくれます。これに登録しておけば、世界各地の日本大使館・領事館から毎日のようにテロやデモに関する情報、邦人が犯罪に巻き込まれた情報などが届きます。

外務省のたびレジ(https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/index.html)

 おそらくここほど瞬時に治安情報が届くサイトはなく、各大使館・領事館から届く多くの情報は新聞やテレビで取り上げられないので、情報は極めて貴重です。

 また、たびレジにメールアドレスを登録すれば、世界各国の日本大使館・領事館から毎日のように、デモやテロに注意して下さいなどのお知らせが届きます。当然日本語で案内が来るので、翻訳する必要もありません。

 公安調査庁も同様に世界のテロ情勢、また最近では企業の関心も強まる経済安全保障に関する情報を提供しています。公安調査庁の特集ページ「世界のテロ等発生状況」については、各国、各月ごとに起こったテロ事件について個別具体的に記載し、駐在員を海外に派遣する中小企業は治安面から重要な情報を入手できます。

公安調査庁の世界のテロ情勢(https://www.moj.go.jp/psia/terrorism/index.html)

 この公安調査庁のサイトは、外務省のたびレジほど瞬時に情報が届くわけではないので、情報のアップデートを重視する人には向かないかも知れません。

 しかし、テロ情勢については外務省の海外安全ホームページやたびレジよりも深い情報(テロ組織の背景や目的など)が掲載されています。社内で国際危機管理体制を強化しようという企業には有益なサイトです。

 また、公安調査庁の「経済安全保障特集ページ」についても、企業の重要な情報、技術やデータの流出を防止するため、関連情報の発信を強化しています。

公安調査庁の経済安全保障特集ページ(https://www.moj.go.jp/psia/keizaianpo.top.html)

 近年、経済安全保障の重要性が強く指摘されていますが、海外進出企業は駐在員の安全という“ヒトの安全”だけでなく、原材料や調達先などサプライチェーンの安定、先端技術の流出防止など“モノの安全”にも十分配慮することが求められています。

 地政学リスクの中でも経済安全保障の重要性は高まっており、このサイトは経済安全保障に関するアップデートな情報を提供するわけではありませんが、その基本について説明しています。

 しかし、日本語で得られる情報では限界があるのも事実です。海外進出企業の地政学コンサルティングに従事する筆者は近年、世界各国の主要メディアが報道したニュースを集約した英語のポータルサイト「NEWS25NOW」を活用するよう企業担当者たちに促しています。

 NEWS25NOWは、各国の政治動向や戦争、テロや暴動、経済安全保障、貿易、金融などに関する各国主要メディアが報道したニュースをいち早く集約しています。

 ここでは、日本の各メディアが取り上げないような情報に辿り着くことができ、特にアフリカや中南米などに駐在員を派遣する、取引がある企業にとっては重要な情報入手先となるでしょう。

 タイやインドネシア、ベトナムなどASEANには多くの日本企業が進出していますが、NEWS25NOWからは現地の主要メディアが報道した政治、経済に関するニュースを常時入手することができます。NEWS25NOWのサイトの上には検索できる箇所があり、調べたいものがあればすぐに辿り着くことができます。

 今日、日本企業の脱中国の動きが以前より広がっていますが、今後はアジアやアフリカ、中南米などこれまで注目していなかった国々へ進出を強化する企業もあるでしょう。そのような国の現地情報を瞬時に取るのは簡単ではなく、時間を要します。このポータルサイトを利用すれば必要な情報に辿り着ける可能性が高まります。

 また、もっと深い分析が必要となれば、国際危機グループの情報が有益になります。

 国際危機グループは国際情勢に関する専門家たちからも高い評価を得ていますが、アジアやアフリカ、中南米など各国に専門家を配置し、現地の政治、治安、経済情勢などを詳しく分析したレポートをまとめ、情報発信しています。

 たとえば、私も過去国際会議に参加する際、その会議がインドのジャイプールという都市で開催されるとのことで、事前にICGのホームページから必要な情報を入手しました。

 これまで行ったことがなかった都市ですが、政治情勢や治安情勢などが分かりやすく記載されており、大変役に立ったのを覚えています。

 一方、海外安全情報という視点では、日本の外務省だけでなく米国政府や英国政府が発信する海外安全情報も有益です。

 たとえば、米国政府の「Travel Advisories」がありますが、ここでは米当局が集約した情報をもとにリスクレベルなどが記されています。同様に英国政府の「Foreign travel advice」も発信しており、いくつかの政府が出すリスク情報を比較し、より客観的な判断ができると思われます。

 米国や英国のサイトとも、基本的には外務省の海外安全ホームページの情報と似ており、大きな違いがあるというわけではありません。しかし、米国や英国など諸外国政府が発信する情報も把握しておけば、より安心感が増すと思います。

 海外に進出する中小企業にも役立つ情報源をいくつか提示しましたが、当然ながら他に有益な情報源はあります。

 しかし、ここで重要なのは冒頭でも言及したように企業が率先して地政学リスクに対処することです。そして、日本語の情報サイトでは不十分なケースも出てきますので、ここで紹介したような海外の情報サイトを有効活用することが望まれます。