ブレイクスルーとは? 意味や事業発展を促す思考の身につけ方を解説
個人や企業が直面している課題を乗り越えて、成長や発展のきっかけをつかんだ際に「ブレイクスルーが起きた」と表現することがあるでしょう。この記事では、ブレイクスルーの概要やブレイクスルー思考を身につけるトレーニング方法、事例について専門家がわかりやすく解説します。
個人や企業が直面している課題を乗り越えて、成長や発展のきっかけをつかんだ際に「ブレイクスルーが起きた」と表現することがあるでしょう。この記事では、ブレイクスルーの概要やブレイクスルー思考を身につけるトレーニング方法、事例について専門家がわかりやすく解説します。
目次
ブレイクスルーとは、「破壊する」という意味の「ブレイク(break)」と「通り抜ける」という意味の「スルー(through)」が合わさったもので、突破や打開という意味を持つ言葉です。具体的には、科学の大発見や発明、飛躍的進歩などを指します。
ブレイクスルーをビジネスで用いる際には、ビジネスの躍進、人の急成長という意味になります。例えば、ビジネスの場面でブレイクスルーは以下のように使われます。
ブレイクスルーと似た言葉にイノベーションがあります。イノベーションとは、新しい価値を生み出して社会や経済に変化を起こすという意味を持つ言葉です。
ブレイクスルーとイノベーションは、困難や課題を打破することを意味するのか、それとも新しいものを生み出すことを意味するのかという点に違いがあります。
ブレイクスルーは、困難や課題を打破して結果にたどり着くことであり、その結果には新しいものを生み出すことも含まれますが、人の成長、企業の売上増加などさまざまな変化が含まれます。
イノベーションは、新しいものを生み出すということ自体を表した言葉です。ブレイクスルーの結果としてイノベーションが起きることもありますが、イノベーションという言葉には困難や課題を打破するという意味は含まれていません。
ブレイクスルーには下表が示すとおり、4つのタイプがあります。ブレイクスルーを起こしたい目的によって、どのタイプに当てはまるのかも違ってきます。
タイプ | 概要 |
---|---|
タイプ0 |
既存の技術を改善、改良することで困難や課題を乗り越えるというもの。改善、改良による変化が小さい場合は、困難や課題を乗り越えられないこともある。 野球に例えるなら、フォークボールを投げられる投手が、握り方を変えてさらに落ちるボールを投げようとすること。 |
タイプ1 |
既存の技術を可能な限り掘り下げることによってブレイクスルーの可能性を見いだすという方法。 例えば、自分が投げるフォークボールの落ち幅、バッターからの見え方などを確認して、より効果的な使い方を見つけ出すこと。 |
タイプ2 |
既存の技術を見つめ直し、新たにその技術の優位性や強みを見つけ出して困難や課題を乗り越える方法。 例えば、フォークボールの特性を再認識して、どの球種と組み合わせると空振りを狙えるか、どのようなバッターに有効かなどを研究すること。 |
タイプ3 | タイプ1とタイプ2を同時に進める方法。既存の技術の可能性を深掘りしつつ、新たな優位性や強みを見いだそうとすること。 |
ブレイクスルー思考とは、「ワークデザイン」という思考法が進化して生まれたものです。「ワークデザイン」は、南カリフォルニア大学の名誉教授ジェラルド・ナドラー氏が提唱した思考方法で、企業の製造現場で製造システムを設計するために活用されています。その研究に中京大学名誉教授の日比野省三氏が加わり、新たに「ブレイクスルー思考」として提唱されました。
ブレイクスルー思考の大きな特徴は、視点を未来に置いて現状の改善を考えるという点です。
一般的な現状改善の思考は、現状に起きていることを把握して、その原因の分析から対策を見いだし実行することで改善につなげるというものです。あくまで現在直面している問題を解決するために思考を働かせている状態です。
これに対してブレイクスルー思考は、企業が実現したい目的に視点を向け、そこに近づくためにどのように現状を改善するかを考える思考方法です。ブレイクスルー思考では、現状の改善すべき問題だけにとらわれているのではなく、理想とする目的に意識を向けて取り組むべきことが何かを見いだし、現実と理想との間にある壁を突破することに意識を向けます。
ブレイクスルー思考を活用するためには、その土台となっている思考法と物事を見る視点を身につけることが必要です。その思考法と物事を見る視点が、3つの基礎原理と4つのフェーズです。それらを総称したものを非凡ブレイクスルー思考と言います。
下表で、3つの基礎原理と4つのフェーズについて解説します。
【3つの基礎原理】 | |
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目的情報 | 目的達成のために必要な情報を指す。ブレイクスルー思考では、情報は目的達成のために必要な最小限のものを収集するという方法が取られている。 |
ユニーク | ユニークとは、特異性や特徴のことだが、ブレイクスルー思考では「すべての物事にはそれぞれユニークな差がある」と考え、物事の特異性や特徴の違いを柔軟に受け入れる姿勢が求められる。 |
システム | ブレイクスルー思考では「すべてのものはシステムである」と考える。1つの物事は、他の物事と影響・関係し合っているという視点を持つことが重要だという原理である。 |
【4つのフェーズ】 | |
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人間フェーズ |
生じている物事は、どのような人が関わっているかによって問題の在り方や解決策が違うという捉え方。 関係している人、関係性などを見極めることが重要だという思考を持つことが必要である。 |
目的フェーズ | 目的を見失わないことが重要だという考え方。目的を支点に議論、検討することが適切な答えにたどり着くために必要だという認識を持つことが求められる。 |
未来解フェーズ |
未来に目を向け、「目的を達成した状態」をイメージすることが大切だという発想である。 目的を達成している状態になり、それを維持することが目的達成に近づくことである。 |
生解フェーズ | 「生解」とは、解決策は変化するという意味である。状況や環境が変わることで解決策も変わるため、変化に合わせて対応することの必要性が求められるということである。 |
ブレイクスルー思考は、筆者が行っているカウンセリングや、コーチングにも必要な発想であり、カウンセラーの能力開発とブレイクスルー思考が身につく原理はとても似ていると感じています。
そのためカウンセラーの思考力向上のために行っている方法を土台にして、ブレイクスルー思考の特徴などを交えて考案した、ブレイクスルー思考を身につけるためのトレーニング方法を提案します。
この方法は、前述した3つの基礎原理に基づく思考法と、4つのフェーズに基づく物事を見る視点をそれぞれ磨くための有効な方法です。これらを実行することで、ブレイクスルー思考の質も向上する可能性が高くなります。
3つの基礎原理の1つである「目的情報」に関する思考を鍛えるためのトレーニングです。達成したい目的と達成に必要な課題を目標として紙に書き、その内容に沿って取り組みを継続します。この方法は、目的を支点として議論・検討することが大切だという「目的フェーズ」で求められる思考法のトレーニングにもなります。
このトレーニングで大切なのは、目的と目標を設定するときに、複数の目標をクリアすることで目的達成に近づく内容にすることです。
目的を達成するために最小限必要な目標を設定して、それらをクリアしていくために必要な情報の収集、目的に沿った議論や検討、取り組みを繰り返していくことで、目的達成のために理にかなった効率的な行動を選択できるようになっていきます。
3つの基礎原理の1つである「ユニーク」に関する思考を鍛えることを目的にしたトレーニングです。「人間フェーズ」と「生解フェーズ」の思考法を身につけるトレーニングでもあります。
このトレーニングは、複数人で何かの違いについて議論するとよいでしょう。例えば、筆者が提供しているワークショップには、社会見学の行き先を議論するというものがあります。複数の行き先からコンセンサスによって1つを選択します。安易に多数決を取るのではなく、自分の意見を主張しつつも他人の意見に耳を傾け、現実的な違いを把握して、よりよい選択をするために思考することが目的です。
複数の選択肢に直面した際に、特徴や背景、効果、影響を与える対象や範囲などの違いを分析して選択するという脳の使い方を繰り返すことで、違いがあることを対立と考えるのではなく、複数のユニークな可能性として考える思考法を身につけることにつながります。
このような物事を多角的な視点から見て考察する思考法は、「ラテラルシンキング(水平思考)」とも呼ばれ、問題解決を進めていくために有効だと言われています。
3つの基礎原理の1つである「システム」に関する思考を鍛えることを目的にしたトレーニングです。個人の力ではなく、システムで物事を進めて成果を生むことを考える力を身につける方法です。
このトレーニングは、社内の小さな物事でも便利さ、効率のよさ、安全性の高さなど、現状よりも向上するアイデアを考えることを社員に求め、その取り組みの習慣化を目指します。そして、よりよいシステムを考える力を身につけさせるというものです。
また、よいアイデアを出した社員にはボーナスを支給するなど、アイデアを生もうとする取り組みを促すようなインセンティブも有効でしょう。
目的を達成した自分、または組織とは、どのようなものなのかを具体的にするイメージトレーニングです。この際には、目的達成時の状態を紙に書くなど、可視化するとより効果的でしょう。
目的達成時の状態がイメージできたら、その日から目的達成時の状態を意識した振る舞いを行っていきます。実際に1つの目的達成をした人は、目的を掲げたときには足りていなかった部分があっても、最初から目的を達成するにふさわしい一面を持っていることがよくあります。
例えば、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手は、高校生のときから目的達成を意識して、野球に関することだけでなく、日常の振る舞いなどから明確な基準を持って行動していたことが知られています。大谷選手はマンダラートという目的設定とそのための行動を記載するシートに、目的達成に対して意識することを書いていました。
筆者が提案しているトレーニングは、脳の神経可塑性の働きに基づいています。神経可塑性のヘブ則という理論では、使った神経は成長し、使わない神経は失われると言われています。上記のトレーニングは必要な思考力を使う機会を習慣化して、能力を高めることを試みるという内容になっています。
ブレイクスルーを起こし、自社のビジネスを発展させた事例を紹介します。
自社の映像制作技術を別のニーズにつなげて、売上と活動範囲を拡大した事例です。
株式会社ファーストストーンは、結婚式、披露宴を中心に撮影していた映像制作会社でしたが、その技術を企業や学校などのPR動画の制作に活かすことで年間の映像制作実績が増加しました。さらに、大阪だけで活動していましたが、PR動画の制作を手掛け始めてから2年で東京進出も果たしました。
女性の顧客増加という目的を立て、女性に注目される商品を生み出した事例です。
JTRRD cafeの店長が、芸術系の大学で学んだ技術を活かして他店にはない独創的なスムージーを開発しました。色をテーマにしたスムージーは、女性の心を引き付け多くの女性が訪れる店舗になり、マスコミからも注目される有名店になりました。
自社の働きやすい環境を生み出しているノウハウを整理して、その環境を生み出せる人財を育成する方法として資格発行という答えを見いだした事例です。
クレア人財育英協会の経営者は、社員には余計なストレスのない環境で活き活きと働いて欲しいという思いがありました。そこで、自社以外でも働きやすい環境を増やしていきたいという目的から、職場の労働トラブルの予防と対処ができる専門家を育成する資格を考案しました。
今後は、より多くの企業で資格取得者が増加するよう、PR活動を展開していく予定です。
この記事では、ブレイクスルー思考について、具体的な内容、トレーニング方法、企業の導入事例を解説しました。
ブレイクスルー思考は決して特別な思考法ではありません。しかし、自分の思考法に自信を持てなければ、考え抜くことをせずに十分な答えが出ないまま、考えることを止めてしまうこともあるでしょう。そのため、一度しっかりとブレイクスルー思考を体系的に理解して意図的に実践することで、思考法を自分のなかに定着させることが必要です。
「ブレイクスルー思考を取り入れるトレーニング」でも触れたように、特定の思考力を高めるためには、それに必要な脳の働きを何度も繰り返さなければなりません。仕事では小さなことから大きなことまで現状の壁を乗り越える必要性に直面するため、それらを乗り越えるためにブレイクスルー思考を意図的に使ってみましょう。
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