目次

  1. 健康保険資格喪失証明書とは?
    1. 会社発行は義務ではない どこで発行できる?
  2. 健康保険資格喪失証明書が必要な場面は?
    1. 国民健康保険への切り替え
    2. 配偶者の扶養に入る手続き
    3. 新しい就職先への提出
  3. 健康保険資格喪失証明書の発行手順を解説
    1. 依頼者から発行の依頼を受ける
    2. 証明書のフォーマットを確認する
    3. 証明書に必要事項を記入する
    4. 依頼者に原本を渡し、会社にも控えを残す
  4. 健康保険資格喪失証明書のフォーマットは?
  5. 健康保険資格喪失証明書の書き方【記入例付き】
    1. 事業所に関する情報
    2. 被保険者に関する情報
    3. 被扶養者に関する情報
  6. 健康保険資格喪失証明書を発行する際に知っておきたいポイント
    1. 退職しない場合でも必要なことがある
    2. 厚生年金保険の資格喪失証明書と兼ねることができる
  7. 健康保険の資格喪失手続きと合わせて資格喪失証明書も交付しよう

 健康保険資格喪失証明書とは、健康保険に加入していた社員が、退職などにより健康保険の加入資格を失った場合に、その事実を証明する書類のことです。

 会社に正社員として雇用していたり、非正規でも週所定労働時間が30時間を超える時間で契約したりしている社員の場合、健康保険に加入しています。しかし、退職したり、在職中でも健康保険に加入できる条件を下回る契約に変更したりした場合は、健康保険の加入資格を失います。

 日本は国民皆保険制度を採用しているため、退職者など健康保険の加入資格を失った社員は何らかの医療保険制度を選択して加入しなければなりません。その手続きの際に必要となるのが健康保険資格喪失証明書です(以降、当証明書を必要とする人を「依頼者」とします)。

健康保険資格喪失証明書の概要と発行の流れ
健康保険資格喪失証明書の概要と発行の流れ(デザイン:吉澤風香)

 健康保険資格喪失証明書は、会社側が作成する義務はありません。しかし、スムーズな手続きのため、健康保険の資格喪失の手続きと合わせて会社側で作成・交付するのが望ましいといえます。

 依頼者が全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた場合は、依頼者が直接証明の発行を協会に依頼することも可能です(参照:国民健康保険等に加入するため、健康保険の資格喪失証明等が必要になったとき|全国健康保険協会)。また、依頼者が健康保険組合に加入していた場合でも、組合によっては証明書を発行してくれることがあります。どうしても会社で発行することが難しい場合は、依頼者が加入していた協会・組合を案内しましょう。

 健康保険資格喪失証明書は「いつ・誰が健康保険の資格を喪失したのか」「被扶養者は誰か」といった情報を提供する書類です。当証明書は主に以下の場面で必要となります。

  • 国民健康保険への切り替え
  • 配偶者の扶養に入る手続き
  • 新しい就職先への提出

 それぞれ解説していきます。

 健康保険資格喪失証明書は、居住する自治体が行う国民健康保険へ加入する際に必要です。健康保険制度の資格を喪失した場合に、次に加入する医療保険制度に対して「いつ資格を喪失したか」という情報を証明するために証明書を提出します。これにより、新制度への切替日や被扶養者の構成の引き継ぎが可能です。

 また、契約変更などで「会社には引き続き在職しているが健康保険制度の加入資格を失った」場合でも同様の手続きが必要となります。

 配偶者が会社員の場合、依頼者は配偶者の扶養に入れます。扶養に入る場合、配偶者の会社では手続き上「いつから被扶養者になったのか」という情報が必要になります。被扶養者になった日付を証明するために、当証明書を提出します。

 会社によっては、健康保険の二重加入を防ぐなどの目的で、新しく入社する人に証明書の提出を要求する場合があります。もし自社を退職した社員が、次の就職先として選んだ会社がそうだった場合、退職した社員から後日会社に対して発行の依頼が来ます。発行の依頼が来たら、後述する手順に従って対応するようにしましょう。

 ここでは、実際に健康保険資格喪失証明書を発行する手順について説明します。当証明書の発行依頼があったときは、以下の手順で対応しましょう。

  1. 依頼者から発行の依頼を受ける
  2. 証明書のフォーマット(様式)を確認する
  3. 証明書に必要事項を記入する
  4. 依頼者に原本を渡し、会社にも控えを残す

 それぞれ解説していきます。

 まず、依頼者から証明書発行の依頼を受けます。なお、発行の依頼がなくてもあらかじめ交付の準備をしておくと、退職の手続きがスムーズに進むのでおすすめです。

 次に、証明書のフォーマット(様式)を確認しましょう。依頼者の提出先でフォーマットが指定されている場合があるので、指定のフォーマットがあるかどうかを確認します。ある場合はフォーマットの提出を求めましょう。ない場合は会社で任意の様式を作成しても問題ありません。

 健康保険に加入していた際の情報をもとに、2で確認した証明書のフォーマットに必要事項を記載します。法人印や代表者印の押印は原則不要ですが、2において依頼者側から提出されたフォーマットに押印表示がある場合は押印するようにしましょう。

 記入が済んだ書類を依頼者へ交付します。交付方法は手渡しまたは郵送が一般的です。押印のない書式の場合はPDFでの送付も認められます。また、後日問い合わせが来た際に対応できるように、会社にも控えを残しておくと安心です。

 健康保険資格喪失証明書のフォーマットには規定がありません。一般的な項目を網羅したフォーマットの例は下記のとおりです。

健康保険資格喪失証明書の例
健康保険資格喪失証明書の例・筆者作成

 ここでは、健康保険資格喪失証明書の具体的な書き方について説明します。証明書に記入するのは、大きく分けて以下の3つに関する情報です。

  • 事業所に関する事項
  • 被保険者に関する事項
  • 被扶養者に関する事項

 以下、依頼者が全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している場合を例に説明していきます。自社が健康保険組合や国民健康保険組合などに加入している場合は、この例に従って記入しましょう。

 まず、事業所に関する情報を記載します。ここでいう事業所とは、依頼者が雇用されていた法人(自社)のことを指します。なお、書式によってはこの情報を末尾に書く場合もありますが、どちらでも問題はありません。

 また、前述のとおり押印も必須ではありません。しかし、自治体により押印のある書類を求める場合もあるので、依頼者側から依頼があれば押印するようにしましょう。

事務所に関する情報の記載例
事務所に関する情報の記載例・筆者作成
記載項目 記入内容
証明日 この証明書を作成した日付を記入します。証明書の性格上、退職日の翌日以降など、健康保険の資格を喪失した日の翌日以降の日付です。
事業主住所・氏名 事業主住所・氏名として、会社の住所と法人名、代表者の肩書及び氏名を記入します。個人事業の場合は会社名に代えて屋号を書く場合もあります。
担当者氏名 この証明書の記載内容に対して第三者が問い合わせたいときの窓口となる担当者名、部署がある場合はその部署名を記入します。任意項目ですが、書いておくと対応がスムーズになるためおすすめです。
連絡先番号 担当者に繋がる連絡先の電話番号を書いておきます。部署の個別番号がある場合は、個別番号・法人の代表番号どちらでも問題はありません。

 ここでいう被保険者とは、この証明書を必要とする依頼者のことです。依頼者に関する情報をこのブロックで記載していきます。

被保険者に関する情報の記載例
被保険者に関する情報の記載例
記載項目 記入内容
氏名 依頼者の氏名をフルネームで記入します。カタカナ・ひらがなは問いませんが、読み仮名を付記すると手続きがスムーズになるので親切です。
生年月日 依頼者の生年月日を記入します。
資格取得日 依頼者が健康保険の資格を取得した日を記載します。任意項目なので必ずしも必須ではありませんが、勤務期間の証明を兼ねられるため、提出先によっては記載を求めてくる場合があります。
資格喪失日 健康保険の資格喪失日を記入します。なお、退職の場合は退職日の翌日(3月31日付退職の場合は4月1日)が資格喪失日になります。
健康保険被保険者 健康保険証に「保険者名称」として記載のある健康保険の保険者を記載します。協会けんぽの場合は「全国健康保険協会」に続けて、事業所の所在地の都道府県の支部名が入ります。
記号・番号 健康保険証に記載のある記号・番号を記載します。協会けんぽの場合は保険証上部、氏名欄の上に記載があります。

 なお、参考までに健康保険証の例を下記に示しておきます。保険者によってはこのレイアウトではありませんが、同様の内容が記載されていますので、ご参考ください(参照:健康保険証〈被保険者証〉の交付|全国健康保険協会)。

健康保険証(被保険者証)の交付丨全国健康保険協会
出典:健康保険証(被保険者証)の交付丨全国健康保険協会

 被扶養者とは、依頼者の扶養に入っていた人のことです。配偶者や子どもなど、本人の所得が一定額以下で、依頼者の健康保険の扶養に入っていた場合、この被扶養者たちも依頼者の健康保険の資格喪失に伴い、健康保険の被扶養者の資格を失います。そのため、被扶養者に関する情報を新たに加入する医療保険でも引き継ぐ場合は、必要な情報を記載する必要があります。

 なお、この欄は被扶養者の人数に応じて増減させてください。例では妻と子が被扶養者であった場合を想定しています。被扶養者がいない場合は、空欄のままで問題ありません。

被扶養者に関する情報の記載例
被扶養者に関する情報の記載例・筆者作成
記載項目 記入内容
氏名 被扶養者の氏名をフルネームで記入します。カタカナ・ひらがなは問いませんが、読み仮名を付記すると手続きがスムーズになるので親切です。
続柄 依頼者と、その被扶養者の続柄を記入します。子どもが複数いる場合もすべて「子」と書きましょう。
生年月日 被扶養者の生年月日を記入します。

 健康保険資格喪失証明書は、あくまでも健康保険の資格を喪失した場合に必要となるものです。したがって、在職している社員でも契約変更によって健康保険の資格を喪失する場合は、証明書の交付手続きが必要になります。例えば「フルタイム就労から短時間での就労になる場合」「正社員からアルバイトに変更になる場合」が該当します。

 一般に、健康保険の資格を喪失する場合は、同時に厚生年金保険の資格を喪失することとなります。そのため健康保険の資格喪失証明書に厚生年金保険の情報を併記することで、1枚の書類で厚生年金保険の資格喪失証明書を兼ねられます。

 健康保険資格喪失証明書は必ずしも交付することが義務付けられている書類ではありませんが、依頼者にとってはスムーズに次の医療保険制度に加入するために重要な書類です。退職後に申し出があってから交付手続きをすると事務処理の手間が掛かることも多くなります。資格喪失手続きに合わせて、本記事を参考にしながら資格喪失証明書を交付しましょう。