目次

  1. ラテラルシンキング(水平思考)とは
    1. ラテラルシンキングは水平方向に発想を広げられる
    2. ラテラルシンキングとロジカルシンキング・クリティカルシンキングの違い
  2. ラテラルシンキングのメリット
    1. 時間とコストの削減につながる
    2. オリジナルの商品、サービスを創り出せる
    3. コミュニケーション力の向上やストレスの軽減が見込める
  3. ラテラルシンキングを活用した例題
    1. ウミガメのスープの問題と答え
    2. 13個のオレンジの問題と答え
    3. 輪ゴムの使い方の問題と答え
  4. ラテラルシンキングをビジネスで活用する方法
    1. 革新的な新商品の開発
    2. 問題、課題解決
    3. 働き方や社内ルールの改革
  5. ラテラルシンキングの鍛え方
    1. 前提を疑う力を養う
    2. 発想法を習得する
    3. セレンディピティを向上させる
  6. 先が読めない時代だからこそラテラルシンキングを

 ラテラルシンキングとは、固定観念や既成概念の枠にとらわれず、物事を水平的(ラテラル:lateral)に見る観点から物事を考える思考法です。

 イギリス人のエドワード・デボノが1967年に提唱した思考法で、直感的で斬新なアイデアを生み出すことに活用されています。

ラテラルシンキングのメリットと活用方法
ラテラルシンキングのメリットと活用方法(デザイン:浦和ゆうすけ)

 ラテラルシンキングは多面的な側面から考えるという意味であり、水平方向に発想を広げることにつながります。

 私たちは普段なにかを考え発想するときには、ひとつの側面から深く考えることが多いでしょう。

 例えば、早朝5時に家を出なければいけないとします。さて、あなたはそのためにどのような行動を起こしますか?

 多くの人は時間を逆算して、◯時に起きよう、そのために目覚ましをかけて……といった考え方をするでしょう。これは「5時に家を出る」という側面から行動を意識する考え方です。しかし、「早起きをする」以外の方法を考えつくことはないでしょうか?

「朝5時まで起きておく」
「思い切って今から家を出る」
「車で寝て、そのまま家の人に送ってもらう」

 「5時に家を出る」という前提を外して物事を考えてみると、さまざまなアイデアが浮かんできます。

 このように、ひとつの側面から物事を考えるのではなく多面的に考えることで、直感的で斬新なアイデアを生みだすことができます。

 「ラテラルシンキング」のほかに、「ロジカルシンキング」や「クリティカルシンキング」と呼ばれる思考方法があります。これらの思考法の違いについて解説していきましょう。

思考法 活用シーン
ラテラルシンキング
(水平思考)
前提を外して物事を広く考え、発想を広げていく思考法 新しいアイデアを導き出すときなど
ロジカルシンキング
(論理的思考)
前提に対して筋道を立てて、深く掘り下げていく思考法 トラブルなどの根本原因を探るときなど
クリティカルシンキング
(批判的思考)
情報に対しての前提を疑い、物事の本質に迫る思考法 解決策の仮定を出して検証しながら正しさを導くときなど

 ロジカルシンキングとクリティカルシンキングは、因果関係を導くための「前提」が必要となり、そこから縦に深堀りしていく「垂直思考」が基本となっています。

 一方、ラテラルシンキングでは「前提」を疑い、それを取り払って可能性を広げていく考え方である「水平思考」である点が大きな違いです。

①ロジカルシンキング(論理的思考)

 ロジカルシンキングは筋道を立てて、深く掘り下げていく思考法のことです。ひとつの事象に対して、さまざまな情報を集めて要素を分解し、それを論理的な道筋を立てて解析をしていきます。

 このときに必ず「因果関係」=「原因と結果」が成り立っていることを意識して考えていきます。ビジネスシーンでは、トラブルなどに対しての根本原因を探るときなどに活用されています。

②クリティカルシンキング(批判的思考)

 クリティカルシンキングは、情報に対して「本当にそうなのか?」と問い続けて、物事の本質に迫る思考法のことです。

 考えるときには「仮説」を立てて、それが本当に成り立つのかを「検証」していきながら、その仮説が正しいことを導き出します。ビジネスシーンでは、初めに解決方法などの仮説を打ち出し、その考えが正しいかを確認したうえで批判的思考で問い続け、解決方法が正しいかを判断するときに活用しています。

 ラテラルシンキングを行うことで、企業にどのようなメリットがあるのかをご紹介します。

  1. 時間とコストの削減につながる
  2. オリジナルの商品、サービスを創り出せる
  3. コミュニケーション力の向上やストレスの軽減が見込める

 ラテラルシンキングは、直感的な発想からアイデアを創出する思考法ですが、基本的には「集まったアイデアを採用するかの判断は、あとから行えばいい」という考え方で進めます。

 アイデアのなかには現実離れしたものもあり、多くがボツになるかもしれません。しかし、一見すると採用が難しいアイデアでも、別のアイデアと組み合わせることで、一気にビジネスチャンスにつながるものになるときもあります。

 そのため、物事に対する前提を考えずに、まずはアイデアをどんどん出していくラテラルシンキングは、結論を出す時間とコストの削減につながりやすいのです。

 ラテラルシンキングでは、固定観念や既成事実、常識を一旦度外視して物事を考えます。そのため、従来の思考などに捉われる必要がなく、自由で斬新なアイデアを多く出せるようになります。

 斬新なアイデアが多く集まることで、ほかでは真似できない独自の商品やサービスを開発することができ、企業にとってオリジナルの商品を創り出すことも可能です。

 眉間にシワを寄せて会議室でウンウンうなっていても、自由で斬新な新しいアイデアは浮かびません。みんなで笑いながら、お互いの意見を承認し、楽しい雰囲気で話し合うことが、これまでの固定概念に捉われない商品を創るうえで大切です。

 その結果、ラテラルシンキングを用いた議論の場はとても雰囲気が良くなり、社内のコミュニケーション力の向上やストレスの軽減が見込めます。

 よりラテラルシンキングを理解するために、例題を3つ紹介します。

 この例題は、ラテラルシンキングではよく引用される問題です(参考:『ウミガメのスープ』p.7 Q1「ウミガメのスープ」)。

ウミガメのスープ
【問題】
ある男が、とある海の見えるレストランで「ウミガメのスープ」を注文しました。スープを一口飲んだ男は、それが本物の「ウミガメのスープ」であることを確認し、帰宅した後、自殺しました。一体、なぜでしょう?

【答え】
男はかつて数人の仲間と海で遭難し、仲間たちは生き残るために死んだ人の肉を食べていました。しかし、男はかたくなに人の肉を食べることを拒否していました。見かねた仲間の一人が「これはウミガメのスープだから」と嘘をついて、その男に人肉のスープを飲ませたのです。
そしてレストランで飲んだスープとかつて飲んだスープの味が違うことから真相を悟り、絶望のあまり自殺をしました。

 こちらもラテラルシンキングではよく用いられる例題です(参考:『ずるい考え方』p.32 ラテラルシンキングの例題「13個のオレンジを3人で分けるには?」)。

13個のオレンジ

【問題】
13個のオレンジを3人に公平に分けるにはどうすればいいでしょうか?

【答え】
回答例としては
・ジュースにして等分に分ける
・オレンジの種を植えて、増やしてから等分する
などが考えられます。

 ロジカルシンキングでは「数」や「重さ」に着目しがちですが、ラテラルシンキングは前提に捉われない発想をします。

 最後は前提を取り払い、考える必要がある例題です。

輪ゴムの使い方
【問題】
「物を縛る」以外の輪ゴムの使い方を20個考えてください。
【答え】
 回答例としては、
・つなげて縄跳びにする
・縦横につなげてトランポリンにする
・溶かしてタイヤにする
などが考えられます。

 考えるときに、「輪ゴムは1つしかない」「輪っかである」という前提を取り払うことで、より多くの使い方が湧いてきます。さて、あなたは突拍子もないアイデアをいくつ思い浮かべることができましたか?

 ラテラルシンキングはビジネス上の問題や課題を解決するのに、大いに役立ちます。そこで、ビジネスで活用できる場面とその方法をご紹介しましょう。

 新しい商品やサービスを開発するときはラテラルシンキングを活用し、既存のものに対して「前提を外した別の使い方はないか?」という発想で考えてみましょう。

 この発想で生まれた成功事例として、「接着剤=ものをくっつける」という前提を取り払った3Mのポスト・イットがあります。あるとき、3Mでは強力な接着剤を開発するはずが、誤って粘着性の弱い製品をつくってしまいました。

 粘着性の弱いポスト・イットは、接着はするが簡単に剥がれることに気づいたことで、別の研究員が「本の栞として使える」とひらめき、3Mのポストイットが生み出されました。

 現在抱えている問題や課題の解決策を導き出すときに、ラテラルシンキングを活用できます。

 私たちはある問題の解決策を考えるときに、「実現可能であるか」と「効果が出るか」を意識してしまいます。そこで、この2つの前提を取り外して、多くのアイデアを出すことで、多面から見た効果的な対策が見つかりやすくなります。

 筆者が課題解決のファシリテーターをした際、どのような意見でもOK、とにかく多くのアイデアを出しましょうと促したところ、わずか10分で20以上のアイデアが出ました。出たアイデアをグループに分けてラベルを付けると、簡単に実現可能な5つのアイデアに絞り込むことができたのです。

 最初から良い解決案を出そうとせず、枠から外れたアイデアを出すことで、視点の枠が外れて、出たアイデアをさらに良いものへと進化させることが可能になります。

 従来の働き方や社内ルールを撤廃して、新しい働き方を模索したことで「リモートワーク」「フレックスタイム」「フリーアドレス」などの革新的な働き方が生まれました。

 働き方改革の推進にともない、従来の働き方の前提である「会社で仕事をする」「定時に来て定時に帰る」「自分の机で仕事をする」などを見直した結果、これまで普通だった勤務形態がなくなりつつあります。

 このような革新的な働き方は、これからも生まれ続けると予想されます。そのためにも、仕事がしやすい働き方や社内ルールを検討する際には、ラテラルシンキングを活用し、前提を取り払った意見を集めるようにしましょう。

 ラテラルシンキングを鍛えるには、さまざまな方法があります。そのなかでも、ビジネスで活用できる力を向上させるために3つの鍛え方を紹介します。

 ラテラルシンキングでは、前提に縛られない思考が大切になるため、「なぜそうなのか?」という前提を疑う力を養いましょう。そこで、繰り返し問題を解くのをおすすめします。以下の書籍の問題を解くことで、前提を疑う力が身に付けられ、ラテラルシンキングが鍛えられます。

  • 『ずるい考え方』木村 尚義 著 あさ出版
  • 『ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣』ポール・スローン 著, 黒輪 篤嗣 訳 二見書房
  • 『世界一やさしい右脳型問題解決の授業』渡辺 健介 著 ダイヤモンド社

 ラテラルシンキングでは、柔軟な発想が求められます。発想力を鍛える方法も多くありますが、そのなかでもおすすめなのが「9マス発想法」です。

 9マス発想法とは、真ん中に解決したい課題を置き、その回りの8通りの解決案を考える方法です。8通りの方法を考えたら、さらに8つを外側の9マスの真ん中に書いて、それぞれに対してさらに8通りの解決案を考えます。

 そうすることで、合計64通りの具体的な解決案をラテラルシンキングで導くことができます。

 この9マス発想法で作成するシートはマンダラチャートとも呼ばれていて、メジャーリーガーの大谷翔平投手が高校時代に作成したものが有名です。

 ラテラルシンキングでは、日常に潜んでいる、一見すると抱えている課題とは無関係のものから「ひらめき」としてヒントを得て、これらを上手に活用することが必要とされます。

 そこで、日常のなかにあるひらめきを見つけるためには、セレンディピティ(serendipity)を向上させるのが有効的です。

 セレンディピティとは、「偶然を引き寄せる力」という意味の言葉であり、鍛えるにはたくさんのことに興味を持ち行動量を増やす、さまざまな価値観を持った人と多く出会う、物事をポジティブに受け止める必要があります。

 そのため、部屋の中に閉じこもって考えるのではなく、外に出てたくさんの人と会話をしながら、全てを肯定的に受け止めるようにしてみましょう。そうすると、ふとした言葉や、何気なく見たものなどからヒントを得て、解決に結びつくひらめきを得やすくなります。

 ラテラルシンキングは、先が読めない今の時代だからこそ必要とされている力です。

 ひとつの側面にとらわれず、柔軟で多くの発想を生み出し、そのなかから前例のない新しい価値を創り出すことで、自分から新しい時代の波を起こすことが可能になります。

 かつての大ヒット商品として、「音楽を外で聴く」という新しい価値を生み出したソニーのウォークマン、「タッチパネルだけで操作を行う」スマートフォンを生み出したアップルのiPhone、羽根のないことで注目されたダイソンの扇風機などがあります。これらは全て、今までの前提を壊して、新しい価値を生み出したものばかりです。

 先の読めない今の時代だからこそ、ラテラルシンキングを活用して新しい時代を切り拓いていきましょう。