キャリアオーナーシップとは?企業に求められる教育法を専門家が解説
他人が用意したレールに沿って自分の生き方や働き方を決める時代は、終わりを迎えつつあります。終身雇用や年功序列の崩壊も叫ばれており、働き方やキャリアを自分の価値観に沿って考えることが大切です。本記事では、キャリアオーナーシップの意味や背景、メリット、導入方法、具体的事例を解説します。
他人が用意したレールに沿って自分の生き方や働き方を決める時代は、終わりを迎えつつあります。終身雇用や年功序列の崩壊も叫ばれており、働き方やキャリアを自分の価値観に沿って考えることが大切です。本記事では、キャリアオーナーシップの意味や背景、メリット、導入方法、具体的事例を解説します。
目次
キャリアオーナーシップとは、自分のキャリアと主体的に向き合うことです。オーナーシップという言葉からもわかるように、自身のキャリアを自分ごととして捉え、前向きに行動する取り組みを指します。
変化が激しく予測困難な時代においては、他人が用意したレールに沿って自分の生き方や働き方を決めるだけが正解ではありません。自律したキャリア意識を持ち、自分の価値観に沿った行動も必要となります。そこで、キャリアオーナーシップの大切さが注目を集めています。
キャリアオーナーシップを導入すべく、以下の教育や制度導入に取り組むと効果的です。
それぞれの内容を詳しく説明します。
キャリア研修を実施することで、従業員自身が自分のキャリアについて向き合うきっかけとなります。これまでの人生や仕事について振り返り、自分の強みや弱み、価値観、職業に対する考え方などを明確にし、従業員が理想とする働き方や将来像を設定します。
キャリア研修をおこなうタイミングは、早くとも30代向けに実施したほうが賢明です。若手のうちに自身のキャリアを考えることで、仕事への意欲が高まりスキルアップが促進されるためです。現状を打破しようと前向きな気持ちが醸成されるとともに、定着率にも良い影響を与えます。
社内でのヒアリングを実施し、従業員の生の声を聞く場を設けることも大切です。この場では、以下のような内容を聞くとよいでしょう。
精神的な不安が軽減され、自己理解が深まったり、今後の人生設計への意識が高まったりする効果が期待できます。
ただし、あくまでも今後のキャリアに対するヒアリングであるため、従業員個人の発言を尊重し、理解する姿勢で対話に臨みましょう。社内的な思惑や希望などを押し付けると、従業員は話したくても話せなくなってしまい、会社への不信感につながるケースも考えられます。そのため、相手を否定せずに共感の姿勢で傾聴することが大切です。
キャリアオーナーシップは、自律的なキャリアの描き方を指します。しかし、組織として従業員にどのように育って欲しいのかを会社から示すことも必要です。そこで、このキャリアパスが重要な役割を担います。
キャリアパスとは、企業のなかで従業員がどのような道筋で成長していくのかを示したものです。従業員の立場から見れば、将来自分が目指す方向を認識したうえで、身につけたい経験やスキルを理解する指針となります。
キャリアオーナーシップに取り組むことで良い効果を発揮している事例を3つ紹介します。
それぞれの内容を詳しく説明します。
医療機器の製造・輸入・販売をおこなうボストン・サイエンティフィック ジャパンでは、社内の活性化と公平な「挑戦」への機会提供に取り組みました。その意思表明の場として、オープンポジション(特定の職種に限定しない採用方法)を2018年から月次で社内共有し、社員からの他部署への移動希望の応募を継続的に受け付けるとともに、管理職登用を2019年から原則公募制としています。
この公募制度の導入は、社内公募がキャリアシフトや管理職登用の機会として活用され、各社員の自発的な能力開発を促し、さらに公募が活用されるという好循環を生み出しました。結果、2019年〜2020年の2年間における社内公募数は、のべ230ポジション・応募者数188人にのぼります。
また、エンゲージメントも高まり、「上司と頻繁にキャリアや能力開発について話し合えている」「仕事がキャリア目標達成に役立っている」と回答した社員が9割を超えました。
この取り組みにより、グッドキャリア企業アワード2020で厚生労働省人材開発統括官表彰のイノベーション賞を受賞しています(参照:グッドキャリア企業アワード2020 イノベーション賞受賞 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社|厚生労働省)。
国内大手システムインテグレーターのTISでは、1on1ミーティングを導入しています。会社の方向性に対して、社員一人ひとりがどのような考えを持っているのかをマネジメント層が理解するためです。
数週間あるいは数カ月に1度、上司と部下で15分~20分のミーティングをおこない、プライベートな話も含めて悩みを共有します。そのなかで、キャリアや今後の能力形成についても触れるそうです。
具体的な助言はせず、会社としての考えを伝え、従業員個人としての考えにも耳を傾けます。1on1の対話をおこなうことで、双方の理解を深め安心して働ける職場づくりと従業員個人の成長促進に寄与しているようです(参照:1対1の対話で、少しでも現場の目線を知っておきたい。関係性重視のマネジメントを支える1on1ミーティング|TIS株式会社)。
富士通では、国内営業職8,000人のビジネスプロデューサーに対し、リスキリング(新たなスキルを身につけること)研修を実施しました(参照:富士通総合レポート2022|富士通株式会社)。
産業構造の変化やデジタル化の推進により、既存の知識やスキルの陳腐化がとても速い時代になりました。そのため、現在の業務に必要なスキルや知識だけでなく、将来的な業務に必要なスキルや知識を先んじて身につけることが重要です。
リスキリングを支援することで、自己成長やキャリアアップの機会を創出し、より自律的に自身のキャリアを考える機会を後押しします。
世間は、なぜキャリアオーナーシップを重視しているのでしょうか。キャリアオーナーシップが注目される理由について解説します。
終身雇用や年功序列が崩壊しつつあり、今まで以上に柔軟なキャリア選択、柔軟な働き方が求められるようになりました。この流れは、時代の変化の速さにも大きく影響を受けています。終身雇用で時間をかけて育てるスタイルでのキャリア教育では、変化に取り残されてしまうからです。
そのため、年齢や経験年数ではなく、発揮された能力・出された成果・保有している知識や技術などのスキルを今後は評価する必要があります。このように評価しなければ、組織および個人の成長を妨げてしまうためです。
そこで、個人が自らスキルを磨き、自身の能力開発を主体的におこない、キャリアを作るという意識を持たなければなりません。この考え方がキャリアオーナーシップです。
従業員一人ひとりが主体的にキャリアを考えることは、日頃の仕事に対して前向きに取り組む人材を生みます。また、この積極性が組織のパフォーマンス向上やイノベーション創出にも大きく貢献します。
特に、リスキリングなどによる新しいスキルの獲得やブラッシュアップは、新たな事業の創出や現在の業務の改革を推進できる点で重要です。これらの取り組みは、変化に強い組織を作ることにもつながり、競争力の向上が期待できます。
キャリアオーナーシップを実施すると、従業員個人のみならず企業全体にも良い影響を与えます。キャリアオーナーシップの特徴を3点紹介します。
キャリアオーナーシップには、従業員に仕事への意欲を持たせる効果があります。人生100年時代において、いきいきと働いて人生を充実させるためには、環境変化に合わせて自らキャリアを開発することが大切です。
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉も、現在では「ワーク・ライフ・シナジー」や「ワーク・ライフ・インテグレーション」という言葉に変化しつつあります。世間では仕事のみならず、プライベートもあわせて充実させる考え方に変わっているためです。
キャリア意識が高まることで、人生のなかの仕事という存在を意識するようになります。組織に依存するのではなく自らキャリアを切り開こうとする気持ちが高まり、仕事に対する意欲が高まります。
キャリアオーナーシップを持たせると、人材流出が激しくなるのではと懸念される人もいるでしょう。しかし、実際は仕事の取り組み姿勢を見直したり、自身の役割を意識したりするようになります。
仕事や会社への理解が深まり、定着率の向上も期待できます。また、仕事に対する積極的かつ主体的な姿勢が組織に生まれることでチームワークも強化されやすくなるのが特徴です。
キャリアオーナーシップを持つことで、仕事における責任感が強化され、新たなスキルの獲得が実現できます。これらの効果により、仕事のパフォーマンスが高まったり、業務改革が前向きに進んだりするためです。その結果、生産性の向上につなげられます。
キャリアオーナーシップはさまざまなメリットがあるものの、実行するうえでは気をつけなければならないポイントもあります。ここでは、取り組む際の注意点を紹介しましょう。
終身雇用・年功序列という雇用慣習に慣れている従業員のなかには、主体的にキャリアを意識することに抵抗がある人もいるでしょう。これまでは、会社からの指示を実行していればよく、レールの上に沿った働き方や生き方でも問題ありませんでした。
それにもかかわらず、急に自分でキャリアを考えて欲しいと言われたら、抵抗感が出るのは無理もないでしょう。そのため、まずはキャリアオーナーシップの重要性や時代の変化に対する理解を促進することが大切です。
また、キャリアオーナーシップへの取り組みが従業員の不信感や不満につながってしまうのは望ましくありません。自分自身でキャリアを考えるようにと丸投げするのではなく、あくまで会社が従業員の将来について支援するスタンスを丁寧に示すことも大切です。
一人ひとりが主体的にキャリアを選び取る時代では、働き方や人生のありかたもそれぞれ異なります。時代の流れを理解してキャリアオーナーシップに臨まないと、会社が希望する人材を画一的に押し付けることとなり、方向性に合わない人材は職場を去ってしまいます。
もちろん、主体的なキャリアを選択することによって、転職を決意する人もいるでしょう。しかし、基本的には会社のなかで個人の希望するキャリアを実現できるように支援すれば、離脱の防止も可能です。人それぞれのキャリアを支援するスタンスでキャリアオーナーシップを推進することが大切です。
キャリアオーナーシップを推進すると、個人の仕事への前向きさを強化し、組織のパフォーマンスに好影響をもたらします。しかし、推進するためには、個人も組織もキャリアや働き方に関する古い常識を覆さなければいけません。
一人ひとりが自分の価値観と向き合い方を組織に対して発信し、会社は会社で方向性を社内外に示しましょう。このように向き合うことで初めて個人と組織の対話につながり、時代に合わせた成長ができるのではないでしょうか。そのためにも、キャリアオーナーシップを推進する企業が1社でも多く現れることを筆者は祈っています。
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