外国人人材が活躍できる職場にするには 「完全結果」のルールづくりを
人材不足が叫ばれるなか、外国人人材を積極的に採用していこうと考える中小企業の経営者が増えているでしょう。ただ、日本人と異なるバックグラウンドを持つ外国人のマネジメントに苦労するケースは少なくないようです。国籍にとらわれず、優秀な人材に実力を発揮してもらうには何が必要でしょうか。組織コンサルティング会社・識学で上席コンサルタントを務める畠中光成さんが解説します。
人材不足が叫ばれるなか、外国人人材を積極的に採用していこうと考える中小企業の経営者が増えているでしょう。ただ、日本人と異なるバックグラウンドを持つ外国人のマネジメントに苦労するケースは少なくないようです。国籍にとらわれず、優秀な人材に実力を発揮してもらうには何が必要でしょうか。組織コンサルティング会社・識学で上席コンサルタントを務める畠中光成さんが解説します。
外国人は、言語をはじめ育った環境や文化が日本人とは違うため、日本で当たり前とされていることが通用しないとは言えるでしょう。しかし、言葉を除けばバックグラウンドが異なるのは日本人同士でも言えることです。
都会の出身者も地方の出身者もいて、体育会系もいれば芸術面に秀でた人もいます。程度の差こそあれ、異なるバックグラウンドを持った人たちの集まりが会社組織なのです。
この認識を持てば、外国人人材のマネジメントを過度に恐れなくなるのではないでしょうか。相手が日本人でも外国人でもマネジメントのやり方は大して変わらないと言えるでしょう。
マネジメントにおいて大切なものはルールです。特に外国人のマネジメントにおいては、ルール運用に関していくつかポイントがありますので、ご紹介します。
ルールを作るときは、誰の目から見ても認識がずれないものにしてください。仮に「お客さまに対して誠実な対応をしなければならない」というルールがあったとしましょう。しかし、このルールが示す「誠実」とはどういう意味かはっきりしないため、このままでは意味を成しません。
しかし、実際にはこうした価値観をルールにしてしまう経営者が多くいます。「思いやりを持って行動する」や「積極的に仕事に取り組む」など、日本人から見ても判然としない言葉を、外国人が理解するのは到底無理な話です。
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顧客に対して誠実な対応を社員にしてほしいのであれば、「お客さまからの問い合わせには1時間以内に返事をする」とか「お客さまが来社なさったときは立ち止まって『こんにちは』とあいさつをする」といった形にすれば、日本人も外国人も同じ行動を取れます。
このように、期限と状態を明確にして、誰の目からも認識がずれないルールを我々は「完全結果」と呼んでいます。ルールを作るときは「完全結果」にすることを意識してください。
「あいまいなルールや暗黙のルールだけでうまく組織を運営してくることができた」と自負している経営者もいるでしょう。しかし、そういう会社は仲の良いメンバー同士で創業したベンチャーや、地方で地元出身者を多く雇用している企業ではないでしょうか。
お互いが近いバックグラウンドを有するため、「はいはい、言わなくても分かるよ」とあうんの呼吸で仕事を進められています。しかし、外国人社員が入ってきたら、それではうまくいきません。
外国人人材を採用しないにしても、そのままの状態ではこれからマネジメントに苦労する可能性があります。ベンチャーの拡大期には多様な人が集まりますし、地方も人口減少が叫ばれて久しく、地元出身者だけを集め続けるのは難しくなりつつあるためです。
どのような人材が来ても実力を発揮してもらえるよう、ルールの整備を進めることが経営者の役目と言えます。
特定の宗教を信仰している外国人社員から「就業時間中の礼拝を認めてほしい」という要望が出たとします。その場合は、礼拝に関するルールを定めて認めましょう。
子育て中の社員がいる会社で「3歳以下の子を持つ社員は毎朝子供を保育園に送ってから出社できるよう出社時間を1時間遅くできる。朝礼に参加せずともよい」というルールがあったとしても、違和感を持つ人はいないはずです。外国人に対するルールの考え方もこれと同じです。
もちろん、経営者の判断によって全ての要望を受け入れる必要はありません。
ポイントは、暗黙の了解にせず、全社員に向けて明文化することです。ルールがあいまいだと、「あの人ばかり特別扱いされてずるい」などという不必要な疑念が生まれますし、外国人の社員が「私は特別扱いされて当然だ」と勘違いするかもしれません。そうなると、組織の秩序が崩れ、ルールが機能しなくなる恐れがあります。
上記の礼拝の例で考えるならば、「Aさんはその時間帯に礼拝をしていいよ」という口頭の許可で済ませるのではなく、「その宗教を信仰している社員は就業時間中に礼拝の時間を設けてよい」といった社内ルールを作るのです。
もし、入社してきた外国人社員が全然ルールを守らない人だったとしても見過ごしてはいけません。日本人か外国人かに関係なく、社員は組織のルールを順守すべきです。
ルール違反があれば上司がその都度淡々と指摘すべきであり、改善が見られるまで言い続けてください。
組織が個人に合わせるのではなく、個人が組織に合わせるーー。これが大原則です。経営者は、採用面接の段階で社内ルールを外国人に示し、守れるかどうか尋ねたり、適性検査を実施したりしてルールを順守しようとする人か事前に把握しておくとよいでしょう。
ルールを守らない社員に手を焼いているのであれば、違反者が減給あるいは降格になる仕組みを整え、違反回数を定量的に観測することをお勧めします。
ある介護施設では、社内ルールの順守状況を毎週チェックし、違反者とその回数を全社員で共有しています。「これだけの数のルール違反をしている」とその社員に示すことで、改善を促すのです。
当社にも米国出身の社員が1人在籍し、米国のお客さまもいます。お客さまからは「識学のコンサルティング理論を英語に直して伝えてほしい」というご依頼を頂くので、彼はそれにお応えするための業務を担っています。
ただし、何もかも彼に任せているわけではありません。言語能力はネイティブスピーカーである米国人社員の方が高くても、理論を伝える能力は日本人の方が上だからです。
外国人を含め、社員に仕事を任せる際は社内に必要な機能を整理し、組織図を作った上でそこに人を当てはめるという適所適材の考え方をしてください。語学力が堪能でも、そこでパフォーマンスを発揮できる人でなければ仕事を任せてはいけません。語学力や過去にその業務の経験がある人が能力の高い人ではないのです。
最後に、外国人に対して日本語のサポートが必要になるときについての注意点について簡単に触れておきます。
ここでもポイントは、あらかじめ期限とルールを決めた上でサポートに入ることです。いつまでたっても、外国人社員に「会社のフォローがあって当たり前だ」と考えられては困りますし、早い段階での自立を促したいからです。
明確なルールが機能すれば、日本人も外国人も同じ社員として扱うことができるようになります。優秀な外国人社員が本来の実力を発揮できるように、経営者が環境の整備を行ってください。
識学上席コンサルタント・コンサルティング部 課長
関西学院大学法学部を卒業。松下政経塾を経て、衆議院議員を経験。議院運営委員会理事、憲法審査会幹事、国家安全保障に関する特別委員会委員などを歴任。おもに議員の身分に関わるルールや、安全保障政策を策定。民間企業では明治安田生命、リクルートに在籍。会社経営も経験。
(※構成・平沢元嗣)
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