製造業における再発防止策とは 具体例や作り方、徹底させる方法を解説
製造業における再発防止策は、生産効率の向上によるコスト削減、品質保証の遵守、従業員が労働災害に見舞われるリスクの低減など、さまざまな場面で必要とされます。この記事では、再発防止の意味や具体例、再発防止策の作成手順や社内で徹底させるポイントについて、製造業界の専門家が解説します。
製造業における再発防止策は、生産効率の向上によるコスト削減、品質保証の遵守、従業員が労働災害に見舞われるリスクの低減など、さまざまな場面で必要とされます。この記事では、再発防止の意味や具体例、再発防止策の作成手順や社内で徹底させるポイントについて、製造業界の専門家が解説します。
目次
再発防止とは、製造業における製造工程や品質保証上でのトラブル、労働災害などが二度と起こらないための具体的な取り組みを指します。
再発防止は、品質管理の一部として製造プロセスで発生した問題やエラーの原因を追究し、修正・改善する、あるいは同じ労働災害が二度と起こらないように作業手順を見直すなど、対象によって取り組み内容が異なります。
再発防止のプロセスは、問題の発見、原因の特定、解決策の立案と実施、そして実施結果の評価と改善の「PDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)」から構成されます。
製造業における再発防止の取り組みは非常に重要であり、再発防止策を適切に実施することで、品質の高い製品を効率的かつ安全に生産できます。
製造業で再発防止に取り組む必要性は、以下の三つの要素に大きく影響します。
品質問題が発生したのにもかかわらず、その原因を特定できずにトラブルが解消されなければ、同じ問題が再発する可能性があります。結果的に製品の品質が低下し、不良品の流出などによって顧客の信頼を損なう恐れがあります。
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製品の品質を高いレベルで維持することは、企業のブランドイメージや顧客満足度に直結します。
再発防止をすることで、品質保証が正常に機能し、顧客への安定的な製品供給につながります。
製造工程上のトラブルに対して再発防止をおこなうことで、生産効率の向上が見込めます。
製造工程で問題が再発すると、その都度対応に時間や人的リソースが必要になり、生産延長による原材料や光熱費などの浪費につながる恐れがあります。結果的に生産効率を低下させて、製造コストの増加や納期遅延を引き起こし、収益を悪化させてしまうでしょう。
労働災害の再発防止をおこなうことで、従業員が安心して働ける職場を確保できます。
製造現場や職場で、安全上の重大な問題が再発すると、従業員の安全が脅かされ、安全配慮義務が足りない職場と判断されてしまいます。たとえ不休災害だったとしても、労働災害の再発防止ができなければ、今後休業災害や死亡災害などの重大事故を引き起こす可能性があります。
労働災害の再発防止は安全配慮義務を負う経営者側の義務であり、従業員の安全はもちろん、社外からの信頼性を高めるために欠かせません。
再発防止策は、発生したトラブルの内容や作業環境、会社の業態などによっても異なりますが、起こりやすいトラブルとして品質トラブルとヒューマンエラー、労働災害の三つの面から具体例を紹介します。
<トラブル内容> |
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顧客のA社から、「製品Bの光学特性が、納入仕様書に記載されていた規格の上限値を外れている」というクレームを受け、対象製品の返品を要求された。 |
<発生原因> |
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検査機の検査条件が変更されていて、検査員が変更に気づかないまま測定を実施した。しかし、検査条件を従来条件に戻しても、品質保証の企画上限から外れていることがわかった。検査機を共有している開発部のメンバーが、試作品の検査で品質検査用の条件を変更して上書き保存をしてしまっていた。 |
<再発防止策> |
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・量産品の品質検査では最初に標準サンプルの測定をおこない、検査機の条件などに異常がないことを確認するとした。 ・品質検査の条件と開発部が使用する検査条件の読み出し先を別管理とし、検査条件名の作成ルールを別途作成することで、混同しないようにした。 |
<トラブル内容> |
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製品の乾燥工程の温度条件が製造指示書の上限より高く設定されていて、機械物性値が品質管理規格を外れて不良品となった。 |
<発生原因> |
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製造指示書の条件設定項目が「設定値±◯◯」で記載されていたため、作業者が都度具体的な上下限値を確認する必要があり、計算を間違えてしまった。 |
<再発防止策> |
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・製造指示書のフォーマットを修正し、機械条件の設定値は「設定値」「下限値」「上限値」と三つの欄を設けて、具体的な数値を記入することとした。 ・暫定処置として、条件設定は他の作業員とのダブルチェック体制とし、作業者の負担を考慮して随時修正をおこなうこととした。 |
<トラブル内容> |
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顧客に提出するサンプル採取のためにカッターを使っていたところ、勢いづいて添えていた左手の親指を切ってしまった。 |
<発生原因> |
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カッター作業用のケブラー手袋は備え付けられていたが、カッターの進行方向に指を置いて作業をしてしまった。また、手袋の親指部分にほつれがあり、カッターの先端が隙間を突き破った。 |
<再発防止策> |
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・対象作業はカッターでなければできない作業ではないため、安全を考慮して作業用具をハサミに変更した。 ・類似作業も抽出し、カッターでなければ実施できない作業を除き、計◯件の作業をハサミでの作業に変更した。 ・カッター作業に使用しているケブラー手袋を新品に交換し、改めてカッターの進行方向に手を置かないことを作業標準書で注意書きした。 |
製造業における再発防止策の作成には、一般的に以下の手順が用いられます。
何らかのトラブルの発生を認識することが、再発防止のファーストステップです。問題を特定することで、その解決に向けた適切な再発防止策への取り組みを始められます。
何が問題になっているのか、結果的にどういった事態を引き起こしているのかを明確に理解するために、情報を収集します。なお、同じトラブルが発生しそうな作業や製品などの特定もおこないます。
問題が発生したことを認識したら、その原因を調査するために関連するデータを収集・分析します。量的データ(数値化できるデータ:製品の不良率やエラー発生率、不具合発生の頻度や時間など)や質的データ(数値化できないデータ:作業員へのヒアリングや録画画像の確認など)を活用し、問題の背後にあるパターンや傾向を明らかにします。
このステップでは、以下のようなさまざまなフレームワークが用いられます。
フレームワーク | 概要 |
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5W1H分析 | 現象を5W1H(When:いつ、Where:どこで、Who:だれが、What:なにを、Why:なぜ、How:どのように)の視点で分析する方法 |
なぜなぜ分析 | 「なぜ?」を繰り返して原因を深掘りしていく方法で、トヨタ生産方式でも知られる原因分析手法 |
フィッシュボーンダイアグラム(特性要因図) | 「なぜなぜ分析」などで深掘りした項目を、フィッシュボーンチャートにまとめ、より関連性の深い事象を特定する方法 |
収集したデータと分析結果を参考にして、具体的な再発防止策を立案します。
再発防止策は対象によって異なりますが、主に以下があります。
策定した再発防止策を実施します。実施後は定期的に結果をモニタリングし、状況を見ながら改善策を追加または修正していきます。
また、再発防止に関わる従業員全員が防止策を理解して適切に実施できるように、資料や作業標準書などを使用しながら説明やトレーニングなどをおこないます。
トラブルが発生していない類似作業については、暫定的な対処法として適用するなど、同様の問題の拡散防止にも取り組みます。
再発防止策を一定期間適用した後は防止効果を評価し、必要に応じて改善します。再発防止策は一度設定すれば完了するとは限らず、定期的な見直しと改善が必要です。
また、改善効果の高さを見定めたうえで、暫定的な対処を進めている類似作業などへの正式適用などもおこないます。
製造業における再発防止策を社内で徹底させるためには、三つのポイントがあります。
再発防止に取り組むためには、まず経営者や役員層などの経営陣がリーダーシップを発揮する姿勢が欠かせません。
経営陣が再発防止策の重要性を理解し、社内で積極的に伝えて実践することが大切です。マネジメント層や従業員を集めた集会を開催し、発生したトラブルの内容や発生原因、具体的な再発防止策を説明し、取り組みの目的や目標を従業員に周知させることで、再発防止策を徹底する意識を共有できます。
再発防止策の効果を高めるには従業員の理解と適切な実施が欠かせないため、再発防止策を具体的に明文化し、誰もが内容を容易に確認できるようにする必要があります。
また、防止策を言葉や文章で伝えるだけでなく、誰もが同じように実施できるようにするために、教育とトレーニングが欠かせません。再発防止策が新しく導入されるたび、または既存の手順が改定されるたびに改訂履歴を残し、教育やトレーニングの機会を提供することが重要です。
再発防止策の有効性を評価して必要に応じて改善するためには、定期的なレビューとフィードバックが必要です。これにより、再発防止策の実施状況やその効果を確認でき、定着へとつながっていきます。
同じ問題が他部署で発生すれば、再発防止をおこなった意味がありません。実施状況やレビュー結果は関係部署だけで共有するのではなく、情報共有掲示板などで会社全体で確認できるようにしておき、自社でのノウハウとして蓄積しましょう。
製造業の中小企業は再発防止を徹底することで、労働災害の未然防止、生産効率の向上、品質保証の徹底などにつながり、自社の信用を長期的に維持できます。
たとえ小さなトラブルであっても、発生原因を突き止めて再発防止に取り組まなければ、重大事故の発生につながって信頼を一瞬で失ってしまう恐れがあります。
まずは、経営者が率先して再発防止に取り組む姿勢を持ち、従業員全員がさまざまな危険に目を向けられるような社内風土を醸成させていきましょう。
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