フラッグシップ商品の認知を広げる方法とは 取材殺到のケースから探る
フラッグシップとなる商品やサービスを開発しても、知ってもらわなければエンドユーザーには届きません。ビジネスデザイナー・今井裕平さんが、フラッグシップの認知を高めるためのPR(Public Relations)の考え方や手法について、自身が手がけた商品の事例をもとに、詳しく解説します。
フラッグシップとなる商品やサービスを開発しても、知ってもらわなければエンドユーザーには届きません。ビジネスデザイナー・今井裕平さんが、フラッグシップの認知を高めるためのPR(Public Relations)の考え方や手法について、自身が手がけた商品の事例をもとに、詳しく解説します。
前回の連載では、フラッグシップの開発ステップの「3.届ける」について取り上げました。今回はその続きとして、認知獲得手段をテーマとし、筆者がほぼ全ての案件で多用しているPRについてお伝えします。
まず始めに断っておきたいのは、筆者はPRの専門家ではないということです。そのため、定義や言葉の使い方が正しくない可能性があります。筆者としては、正しいかどうかよりも、成果が得られるかどうかを重視しており、そのスタンスでお伝えします。
それではまず、顧客プロセスのおさらいです。前回は顧客視点で購入や契約のプロセスを記述し、全体像を理解すること、そして注力すべき点を明らかにする重要性をお伝えしました。その中で、販路についてはよく議論されているのに比べて[認知]への注力が足りないことを指摘しました。
それはなぜか。顧客プロセスを見れば一目瞭然ですが、どのような事業でも始めにくるプロセスだからです。知ってもらわなければ何も始まらない、極々当たり前のことですが、なぜか軽く取り扱われている内容です。新規事業を検討するにあたっては、どのように認知を獲得するか、企画段階から検討することを肝に銘じてください。
少し前置きが長くなりましたが、いよいよ本題のPRについてです。唐突な質問になりますが、読者の皆様はPRと広告の違いを説明できますか。共通点は目的です。TVや新聞、ウェブなどのメディアへの露出を目的としています。違いについては、露出への「コスト」と「確実性」の二つがポイントです(※メディア側の視点では、広告記事を「PR」と表現するのが一般的ですが、本稿は企業側の視点で、対価を支払わない露出アプローチをPR=Public Relations=と定義します)。
広告はメディアに必要な費用を支払えば、確実に露出することができます。そのため、「広告枠を買う」といった表現がよく出てきます。次にPRですが、こちらは費用を支払って露出されるのではなく、メディアが自らの編集判断で取材し、メディアの責任で取り上げられます。そのため、CMやバナーといった広告枠ではなく、通常の番組や記事として扱われます。ビジネスデザイン視点で見ると、下図のようなイメージです。
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なぜ筆者がPRを推すのか理解頂けたでしょうか。中小企業の多くは、潤沢に広告費を用意することができません。また、広告はある一定以上の予算をかけなければ効果が出ないという特徴があります。
それに対して、PRは予算の大小で露出は決まりません。大事なのは、製品やサービスの情報の質です。メディアによって判断軸は異なりますが、基本的にはそのメディアの趣旨に合致し、視聴者や読者に有益な情報であることが重要です。つまり、お金がなくても努力によって露出が狙えることを意味します。
先にお伝えしておくと、掲載のハードルはとても高いです。ただし、リスクはほぼなく掲載されれば多くの人に認知してもらえる可能性があり、筆者はローリスク・ハイリターンのアクションと理解しています。別名「広告費0円ソリューション」です。
例えば、連載第3回で取り上げた「朝ボトル」は、地元名古屋の情報バラエティー番組を中心に、TVだけでも十数番組で取り上げられています。広告換算するとざっくり数千万円前半ほどでしょうか。また、TBSの老舗番組「がっちりマンデー」にも取り上げられ、放映翌日に1カ月分のEC売り上げがありました。
第6回で取り上げた「STTA」でも同様に、日本テレビ「スッキリ」、TBS「がっちりマンデー」、テレビ東京「WBS」などキー局のTV番組を中心に、約20番組で取り上げられました。広告換算費は数千万円後半にものぼります。この露出をきっかけに多くのユーザーに知ってもらえ、今日のヒットに至っています。
本連載のメインテーマであるフラッグシップは、PRと相性がとても合います。なぜなら、メディアが取り上げるかどうかの判断軸のひとつに「業界初」「日本初」といったユニークな情報が好まれる傾向にあるからです。
第6回で取り上げたように、フラッグシップではまず「独自性」「ユニークさ」を重視してアイデアを考える必要があることを解説しました。また、第7回ではそのユニークさをつくるために「新常識」を考えることが大事であることも解説しました。つまり、フラッグシップはPRを意識せずとも、PR視点が入っています。
PRですべきは、メディアに情報を届け、いかにその情報が取り上げるに値するかを伝えることです。プレスリリースというワードを耳にしたことはあるでしょうか。基本的には、プレスリリースを作成することがファーストステップとなります。
下記は、朝ボトルのプレスリリースです。言葉だけ聞くと専門性の高い制作物に聞こえますが、それほど難しいものではありません。タイトル、画像、テキストがあれば基本的には問題ありません。
次のアクションは、メディアの担当者に届けることです。プレスリリースを各メディアに一括配信できるサービスがありますので、まずはそれを使うと良いでしょう。ただし、そこから取り上げられる可能性はとても低いです。メディアには1日何百ものリリースが届いていて、目に触れられないことが多いのも事実です。
ではどうするのか、筆者のプロジェクトではフリーのPRプランナーに入ってもらっています。なぜなら、PRプランナーはそれぞれ独自にメディア担当者とのパイプを持っており、「このプランナーからのリリースであれば一読しよう」となるからです。また、メディアにどの様な情報を提供すれば取材を検討してもらえるかも当然ながら熟知しており、質の高いプレスリリースを作成してもらえます。
また、筆者のプロジェクトでは製品・サービスが完成してからではなく、企画段階から参画してもらうことも多いです。それは、PRの確度を高めたいので、アイデア段階でPRプランナーに評価をしてもらいます。これだけで事業アイデアを決めることはありませんが、事業性の重要な評価指標のひとつです。更には、企画の内容にPR視点を入れ込む努力をしています。
リリースの作成だけなら10万円からでも相談できるかと思いますので、興味を持たれた方はまずはPRプランナーにコンタクトすることをお勧めします。
第5回で取り上げ、筆者もデザインに関わった東京都立川市のメーカー「コスモテック」のリストバンド型ウェアラブルメモ「wemo」を例に、PRの成功事例をお話しします。
コスモテックの主力事業は、テープや液晶モニターなどに使う機能性フィルムの開発です。そのコア技術であるコーティングをもとに開発したフラッグシップがwemoになります。
メモを腕に巻くことができるため医療現場などで愛用され、同社を代表するヒット商品となりました。
wemoは、2017年の発売から5年で累計販売本数が100万本を突破。全社の売り上げの15%以上を占めています。デザイン賞などのアワードもいくつも受賞し、海外からの問い合わせは20カ国以上。メディアの掲載も100件以上にのぼりました。
今では年間1億円以上を売り上げるヒット商品となっていますが、開発当時はコネも文具業界での知名度もなく、立ち上げには相当の工夫が必要でした。そのため、当初はBtoCではなく、医療や介護施設向けにBtoBへの展開を想定していたぐらいです。
その考えを180度変える出来事がありました。それが今回のテーマであるPRでした。
時はさかのぼり、17年7月、wemoの発売を秋に控え、文具・紙製品展(ISOT)に出展しました。ここでいきなりテレビ局の取材が決まったのです。しかも1社だけでなく、キー局の朝の情報バラエティー番組や夜のニュース番組、NHKの海外向け番組などからもオファーがあったのです。
これによる反響は想像をはるかに超えるものでした。展示会終了後も雑誌やウェブなどからの取材の打診、大手量販店や大手ECのバイヤーからは取引の連絡、エンドユーザーからは「いつ、どこで、買えるのか」の問い合わせ。BtoBからBtoC領域に展開を変更するには十分の反響でした。
ここで話はPRに戻ります。この当時、PR活動をしていたか、というとそれはNOです。今は偉そうにPRについて語っていますが、当時はうっすら概念を理解している程度でした。そのため、プレスリリースを打つ発想もなく、こちらからのアクションはゼロでした。
ではなぜたくさんのメディアから取り上げられたのでしょうか。その答えは、展示会主催者が出した下記のプレスリリースでした。
どこに掲載されているか分かりましたか? 2ページ目の上段で、wemoのスペースはなんとリリースの5分の1程度。たったこれだけの情報で、テレビの取材につながりました。
運が良かったといえば、それに尽きるのですが、運を引き寄せる努力はその当時もしていました。それは、ワーディングと画像です。
ひと目で理解できる名称やコピー、説明文。サムネイルサイズでもひと目で分かり、印象に残る画像をつくりこんでいました(下記の画像がバンドタイプではなくシールタイプなのは、当時複数タイプの商品を展示していたためです)。
この経験がPRに対する私の考えを大きく変えます。知名度や実績がなくても、企画と画像と言葉の作り込みでいくらでもチャンスがあることを学びました。さらには、フラッグシップとPRの相性が最高に良く、フラッグシップを作り込めば作り込むほど、PRにもポジティブに働くことも理解しました。
wemo についても、発売のタイミングでプレスリリースを配信し、これまでに100メディア以上の取材を頂くようになり今に至ります。
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