目次

  1. 「圧倒的な自分事」を出発点に
  2. 「住まいのサービス業」と宣言
  3. コンセプトを一言で説明できない
  4. 施設のファーストビューを意識
  5. コンセプトは「プロトタイプする暮らし」
  6. 着工と同時にリリースを発表
  7. 内覧なしでも伝わったコンセプト
  8. 限られた情報で求められる意思決定
  9. 入居者に生まれた共感
  10. とがったコンセプトに必要な実体
  11. 「奇をてらった」と言われても

「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」

 コクヨが運営する地上5階、地下1階建ての集合住宅(全39戸)。いずれも賃貸物件(賃料7.7万円~14.85万円 ※賃料は変更の可能性あり。水光熱・通信費、管理費は別途)で、広さは10平方メートル~25平方メートル。トイレ、シャワーの有無で五つのタイプに分かれ、室内にはいずれも家具を備え付けている。施設内には、入居者や地域住民がいつかやりたかったことを実現するため、フィットネスや飲食業許可を得たスナックなどに使える八つのスタジオ、街との接点としてバゲットピザなどを販売するフードスタンドも設けている。

 今井裕平さん(以下、今井):今回のテーマは「妄想」です。少しネガティブなイメージもありますが、僕の中ではポジティブなワードです。今回、「フラッツ戸越」を担当したコクヨ経営企画本部イノベーションセンターの鷲尾有美さんと荒川千晶さんにお話を伺います。まず、自己紹介をお願いします。

 鷲尾有美さん(以下、鷲尾):入社前は建築を勉強し、コクヨではお客様向けにオフィスの設計などを手がけていました。そんな中、クライアントワークから一度離れ、コクヨの課題を探り、新規事業に挑むプロジェクトに参画しました。

 荒川千晶さん(以下、荒川):私も大学で建築を学び、入社後は学校の図書館や職員室、児童相談所の設計などを担当しました。最終的には家具の販売につなげるのが目的でしたが、物を売るだけではない仕事にも関わりたいと、新規事業に名乗りを上げました。

(左から)筆者の今井さん、コクヨの鷲尾さん、荒川さん

 今井:「フラッツ戸越」の構想は、どのように生まれたのでしょうか。

 鷲尾:最初は2021年7月です。ものづくりやオフィス構築から一歩離れたライフスタイル領域で新しい柱を作ろうと、4人によるチームが発足しました。ノートを買う人が減り、オフィス以外でも仕事ができるようになり、私たちの既存事業が行き詰まっている面がありました。会社からのミッションは、未来の暮らしを考え、そこから生まれるニーズをもとにした事業創出です。未来の暮らしを、客観的視点だけではなく「圧倒的な自分事」として考えながら、半年ほどリサーチや事業企画、経営層も含めた議論を繰り返しました。

 今井:「圧倒的な自分事」とは何でしたか。

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