目次

  1. 考課(こうか)とは
    1. 考課の目的
    2. 考課と評価の違い
  2. 考課の評価基準・項目
    1. 情意考課ー意欲や過程が基準ー
    2. 成績考課ー成果や達成値が基準ー
    3. 能力考課ースキルが基準ー
    4. 項目作りに役立つ職業能力評価シート
  3. 考課のメリット
    1. 処遇の差に公正さが生まれる
    2. 従業員の労働意欲向上に繋がる
  4. 考課のデメリット
    1. 失敗を恐れてチャレンジしなくなるケースがある
    2. 形骸化された制度運用は従業員の意欲低下につながる
  5. 考課の注意点
  6. 考課の運用方法
    1. 評価基準・項目の策定
    2. 考課に対する処遇の策定
    3. 考課表の作成
    4. 従業員への説明・評価者(考課者)への研修・教育
    5. 導入、運用・フィードバック
  7. 考課表の書き方・作成方法|例文付き
    1. 総務事務(人事、労務管理)
    2. 営業
    3. マーケティング・マーケター
  8. 考課(人事考課)は項目の定期的な見直しが大切

 考課とは、業務態度や成績、能力を見て対象者の処遇を決定することです。主に企業や組織内の人事の場面で使われ、人事考課とも呼ばれます。考課により、対象者である従業員の賃金・賞与・昇進の有無・配置異動などが決定されます。

 今回は、考課の目的や評価との違い、考課のメリット・デメリット、運用方法をわかりやすく解説します。

 考課の目的は大きくわけて二つあります。

  1. 賃金や賞与、配置異動などの処遇を決定する
  2. 企業が従業員に求める姿勢を伝える

 まず、考課は対象者である従業員の賃金や賞与などの処遇を決定するためにおこないます。考課という評価の仕組みに則って公正に従業員を評価します。考課の基準や項目を企業理念に沿って作ることで、企業が従業員に求める社員像や姿勢を伝えることも可能です。

 考課と評価はほとんど同義ですが、あえて違いを挙げるならば評価制度のうちの一種が考課だといえるでしょう。

 評価には、筆記試験・自己申告・面談・面接・360度評価(立場の異なる関係者らが評価をおこなうこと)・コンピテンシー評価(仕事ができる人の行動特性をもとにして評価をおこなうこと)といった制度があります。考課もさまざまな評価制度を内包する一種の評価制度であり、評価はさらに広義を指すイメージです。

考課と評価のイメージ
考課と評価のイメージ・著者作成

 本章では次の代表的な考課基準を三つ紹介します。

  1. 情意考課
  2. 成績考課
  3. 能力考課

 三つの基準をバランスよく用いて考課をすることにより、従業員の適切かつ公正な査定が期待できます。これらの基準・項目の内容を解説します。

 情意考課では、従業員の業務に対する意欲や姿勢、業務過程を重視して評価します。結果だけでなく、業務過程を評価することで、従業員は「会社は成果以外の部分も見てくれる」と仕事に対するモチベーションが高まります。

 ほか二つの基準と比べて具体的な項目の策定が難しいとされますが、次の観点から項目を考えてみるとよいでしょう。

基準 項目
向上心 現状に甘んじず、よりよくしようと取り組んでいたか
責任感 自分の役割を認識し、最後まで取り組んでいたか
協調性 チームのメンバーや関係部署と協力して取り組んでいたか

 協調性のように、情意考課の項目は1人の評価者では測りきれない点があります。360度評価など複数の評価者がいる状態で用いるとよいでしょう。

 成績考課では、従業員の業務成果や成績を中心に評価します。基準と項目としては次のようなものが挙げられます。

基準 項目
売り上げ 査定期間中の売り上げ金額、成約件数など
アプローチ数 営業件数、企画の数、問い合わせ件数など
その他KPI※ データの処理件数、削減した作業時間数など

 ※KPI…Key Performance Indicatorを略したもので目標の達成度合いを測る定量的な指標

 数値で査定するため、わかりやすく従業員も納得しやすいのが成績考課です。しかし、総務など数値で表現されにくい業務に取り組む従業員もいます。そのため、成績考課のみを用いるのではなく、ほかの考課基準と組み合わせて使うようにしましょう。

 能力考課では、従業員が業務や自己啓発を通じて身に付けた知識や技術を見ます。

項目
業務に必要な技術、パソコン操作、接客、リーダーシップ、後輩育成、トラブル対応など

 ポテンシャル(顕在化していない能力)を見る場合もありますが、ポテンシャルは不確定な要素が多く平等な評価が困難です。そのため、評価するとしても賃金や賞与などには反映させず、配置異動の参考とするくらいがよいでしょう。

 厚生労働省は業種・職種・レベルごとに「キャリアマップ」「職業能力評価シート」「導入・活用マニュアル」をまとめ公開しています。自社にあった考課項目を1から策定するのは時間を要するので、これを参考にするのもよいでしょう。

 以下のリンクからダウンロード可能です。

 キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省

 考課の概要や評価基準・項目について説明しました。ここからは考課を適切におこなうことで得られる企業のメリットを紹介します。

 考課基準や項目に従って適切に決定された処遇には公正さ・公平さがあります。例えば同期間で昇給幅に差があることを知った場合、その査定根拠が曖昧なものであれば企業や上司に不信感を覚えるでしょう。

 しかし、フィードバックなどで根拠となった考課項目を伝えると納得感も生じやすく、企業が求める水準・スキルがわかり自分を省みて成長することも期待できます。

 従業員にとって、自身の処遇が適正な考課によっておこなわれたものだとわかれば、「評価基準や項目をクリアすれば査定があがり賃金などの処遇が良くなる」と考え、正しい方向への努力ができます。

 努力が報われると労働に対する意欲の向上につながるでしょう。

 一方で、どのようなデメリットがあるか二つ紹介します。それぞれ回避策も説明しているのでぜひ参考にしてみてください。

 考課では、業務態度や成績などが評価されます。このとき、失敗を恐れて試行回数を減らしてしまう場合もあります。

 実際にあったのは、新入社員に対して「電話対応を間違えない」ことを目標にしたところ、間違いを恐れるあまり、電話を取らなくなってしまったというケースです。

 このような場合は、人事考課の評価基準や項目について再度説明しましょう。そのうえで、評価者に対しても結果や数値のみに捉われることなく、過程も評価するように制度の説明をするとよいでしょう。

 考課制度の運用については、定期的に評価項目の見直しをしましょう。形骸化された制度は従業員の成績や情意について適正な考課を妨げ、従業員の労働意欲を低下させます。

 評価項目は次の観点から内容を見直すとよいでしょう。

  • 企業の経営目標に沿ったものであるか…従業員に向かうべき努力の方向を示すため
  • 技術やサービスの進歩に沿ったものであるか…評価項目の難易度を適切なものにするため

 考課の前提として、従業員にあらかじめ「労働条件が変更となる可能性」について就業規則や雇用契約書などで示しておくことが必要です。

 考課によって処遇を決定することは、「労働条件の変更」に該当します。労働契約法第8条により、労働条件の変更には企業と従業員との間で合意が必要です。考課によって賃金や配置異動が決定されることを就業規則などに定めておくようにしましょう。

就業規則の規定例

(人事異動)
第〇条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

(基本給)
第〇条 基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。

 考課は、運用方法や手順を誤ると期待したメリットが得られません。考課の運用方法は大きく五つのステップでおこないます。

  1. 評価基準・項目の策定
  2. 評価に対する処遇の策定
  3. 考課表の作成
  4. 従業員への説明・評価者への研修・教育
  5. 導入、運用・フィードバック

 各ステップの詳細を説明していきます。

 まずは、考課の評価基準と項目を策定しましょう。気を付けたいポイントは従業員側が公正さを感じ、納得できる項目にすることです。

 基準・項目に具体性をもたせるには、職種・レベル別に定めていくのがよいでしょう。これらの評価基準と項目は従業員に説明するため、不明瞭な評価基準・項目は避け、極力言語化しましょう。

 次に、考課に対する処遇を決めます。処遇に関しては、40年程度の長期的な制度運用を仮定して設計しましょう。

 また、考課によって賃金の等級を定めるには、就業規則や賃金規定の改定が必要な場合があります。所轄の労働基準監督署へ提出する準備も平行して進めましょう。

 人事考課表は、「1.評価基準・項目の策定」で定めた項目を職種・レベル別にシートにまとめて作成します。ほかには、企業理念や目標・部署名・評価者名・考課対象期間などを記載します。

 自己評価欄は任意ですが、上司などの評価者が記載する欄は必ず入れておきましょう。

 従業員への評価基準・項目の説明や、評価者の研修・教育は、少なくとも3年に一度、できれば1年に一度おこなうのが理想的です。定期的な説明により、企業が求める人物像や考課の透明性を伝えられます。

 また、評価者の教育に関しては、評価者同士が集まって話し合える機会を設けるとよいでしょう。評価者同士が話し合うことによって、自身の「主観」を把握できたり、他者の評価者としての取り組みを知れたりして、マネジメント力向上にもつながります。

 考課の後は必ずフィードバックをします。フィードバックは、考課の対象期間に少なくとも1回は必要です。フィードバックが無いと従業員は自身の処遇の根拠が不明確なものとなり、不信感や不満の要因となります。

 制度運用においては、定期的に項目を見直すようにしましょう。項目が企業目標や社会情勢に沿ったものであれば、従業員の努力を正しい方向に導き適正に考課できます。

 考課には考課表(人事考課表)が使われます。考課表の書き方は部署・職種・入社年数・業務水準にあわせて具体的に評価することが重要です。

 いずれのケースでも評価者は「具体性」「定量性」「客観性」を念頭に書くことが求められます。今回は三つの職種の書き方を例文付きで紹介します。

 総務職や事務職は営業職に比べて定量性がとりづらい職種です。新入社員を想定して三つの考課の評価基準・項目を例示すると次の表のようになります。

情意考課 ・会社の事業領域や政治経済動向、一般常識などのビジネス分野の知識の習得に励んでいる
・周囲とコミュニケーションをとっている
成績考課 ・設定されたスケジュールを予定通りに完了できる
・コスト意識をもって仕事をおこない効率化や改善を試みている
能力考課 ・PCの基本的な操作ができる
・セキュリティに留意したインターネットが利用できる
例文
会社の事業についてニュース等で情報収集をしており、取引先との雑談でも良好なコミュニケーションをとれていた。
担当の労務管理業務では、期日までに完了できたが、残業時間が〇時間発生した。
基本的なPC操作は問題なく、担当業務のクラウドサービスツールも難なく利用できる。メールのやりとりにおいても必要に応じてパスワードを設定している。
来期は情意考課と能力考課の評価項目を一つ上位のレベルとしたい。

 営業は数値を重視しがちですが、結果までの過程(情意)も評価してほかの職種との公平・公正さを保つようにしましょう。入社5年目から10年目のシニアスタッフを想定して三つの考課の評価基準・項目を例示すると次の表のようになります。

情意考課 ・社会経済情勢や企業内での自身の役割を鑑みて適切な目標設定ができる
・仕事の優先順位を的確に判断し、自身の仕事を確実に実施できる
成績考課 ・目標の成約件数に到達した
・取引先等の人的ネットワークの拡大に努め関係協力先を増加させた
能力考課 ・後輩に仕事手順を一通り教えることができる
・取引先やお客さまからの要望を新たなサービスや商品に生かそうとしている
例文
今期から2名の後輩育成を担当しているが、自身の業務も確実にこなしながら手順を指導できていた。
新規の顧客開拓は目標どおりの〇件を達成したが、売り上げは目標設定がやや高めだったこともあり〇円と目標金額を下回ることとなった。しかし、安易に妥協することなく、最後まで業務に懸命に取り組んでいた。
また、顧客からの要望をまとめており、資料は完成間近だったようだが報告はまだ受けていない。

 マーケティング職は社外での業務も多い職種です。入社15年目以降のスペシャリスト・マネージャを想定して三つの考課の評価基準・項目を例示すると次の表のようになります。

情意考課 ・プロ意識や社会的責任感、職業倫理をもち、周囲の模範となる行動をとっている
・高い向上心や意欲を周囲に示しグループ内での士気を高めることができる
成績考課 ・中長期的視野で利害を考慮することができ、取引先から適切な条件を引き出せる
・顧客満足度が目標数値に達している
能力考課 ・担当業務の社内外への影響を把握しており、リスク回避ができる
・事故や不祥事の発生時に、冷静な現状分析と判断をおこない問題解決策を講じることができる
例文
グループのリーダーとして周囲から慕われており、後輩の目標設定にも的確なアドバイスと指導をおこなっている。また、取扱商品分野の情報収集も日々欠かさず、週に一度まとめたペーパーをグループ内に配布しておりグループ全体の知識向上に取り組んでいる。
取引先のA社について、現在の取引価格を〇年まで有効にすることに成功した。これによって〇年間で〇円の売り上げ増の見込みとなる。
B部での情報漏洩疑惑の件においては、事実にもとづいた案内文・経過文を作成し、法務部の確認をとりながら必要関係先に対し迅速に説明したことは高く評価したい。

 考課は評価制度の一種であり、大きく「情意考課」「成績考課」「能力考課」の三つの基準があるとお伝えしました。

 考課で最も重要なのは職種・レベル別に項目を作りこみ、それを古くならないよう定期的に見直すことです。職種・レベル別に項目を策定するのは大変な作業ですが、これをきちんとおこなうことにより、評価者も評価をしやすくなり、従業員にも根拠を説明しやすくなります。

 企業目標や社会情勢に沿った項目を保ち、適正な考課制度を運用していきましょう。