目次

  1. 危機管理能力とは
    1. 危機管理能力とリスク管理能力の違い
    2. 危機管理能力が重要視されている背景
    3. 危機管理能力が高い人の特徴
    4. 危機管理能力が低い人の特徴
  2. 組織にとって危機管理能力が大切な理由
    1. 災害からの復旧
    2. 環境変化への対応
    3. 競争力の強化
  3. 従業員の危機意識が低下しやすいケース
    1. トップ層の危機意識の低下
    2. 危機的状況によるリスクの周知不足
  4. 従業員の危機管理能力を高める方法
    1. 危機管理専門の部署をつくる
    2. 危機に対しての教育や訓練を行う
    3. 過去の失敗を振り返る習慣をつける
    4. 危機的状況の情報を伝える
  5. 従業員の危機管理能力を高めるときの注意点
    1. 余裕を持ったスケジュールで取り組む
    2. 常に新しい情報を入手する
    3. 固定観念を持たないようにする
  6. 危機管理能力はこれからの組織の要

 私たちの身の回りには、災害やミス、お客様とのトラブルなどなどさまざまな危機が訪れるものです。その危機が訪れたときに、どのように対処すればよいのかを的確かつ迅速に判断して行動できる能力、これが「危機管理能力」です。

 この能力を身につけると、起こり得る被害を最小限に抑えることができます。ビジネスにおいては、とても大切な能力といえるでしょう。

 「危機管理能力」と似たような言葉として「リスク管理能力」があります。この二つの違いを説明しましょう。

 危機管理能力は、起きたことに対して被害を最小限に抑え、いち早く危機からの脱出を図り回復させるかを考えて行動するスキルをいいます。これは「対処法」を考える能力です。

 一方、リスク管理能力は想定される災害やトラブルが起こらないように、事前に想定して対策を行うことをいいます。これは「防止策」を考える能力のことです。

 例えば、クレームが発生したときにどのように対応すればよいかを考えるのが「危機管理能力」、クレームが発生しないようにするためにはどうすればよいかを考えるのが「リスク管理能力」です。

危機管理能力 リスク管理能力
対処法を考える能力 防止策を考える能力
起きたことに対して被害を最小限に抑え、いち早く危機からの脱出を図り回復させる 想定される災害やトラブルが起こらないように、事前に想定して対策をおこなう
クレームが発生したときにどのように対応すればよいかを考える クレームが発生しないようにするためにはどうすればよいかを考える

 近年、危機管理能力が重要視されている理由に、大きな災害での体験から、危機管理を行う人が増えてきたという背景が挙げられます。実際、防災士をはじめとする危機管理をする人たちも増加傾向にあります。

 企業においても、大規模な自然災害だけでなく不祥事によるインターネットでの炎上など、企業活動を脅かす事態がいくつも想定されています。こういったなかで、危機的状況からの復旧、そして通常の業務に戻すための危機管理が必要とされてきたのです。

 危機管理能力が高い人には、次のような特徴が見られます。

  • 先のことを予測して行動する
  • 準備を怠らない
  • コミュニケーション能力が高い

 それぞれ詳しく解説します。

①先のことを予測して行動をする

 次に何が起こるのかを想定することで、突発的な出来事にも動じずに行動でき、次に起こるリスクを避けることができます。

②準備を怠らない

 想定されるリスクに対して、どのような準備を行っておけばよいかを考えられるため、いざというときにすぐに対処することができます。

 震災に備えて避難グッズなどをそろえたり、ネットで炎上したときの対応をマニュアル化したり、などがこれにあたります。

③コミュニケーション能力が高い

 いくら危機管理ができたとしても、一人で全てに対応できるわけではありません。災害時には周りとのコミュニケーションを意識し、正しい情報を得て、指示などを的確に行う能力が必要です。

 逆に、危機管理能力が低い人は次のような特徴が見られます。

  • 観察力に欠けている
  • 経験や情報が不足している
  • 学習意欲、学習能力がなく人任せ

 詳しく解説します。

①観察力に欠けている

 観察力が欠けていると、なにか起きたときに一つのことしか見えなくなり、周りの状況を無視して思い込みの行動に走る傾向があります。その結果、適切な危機管理を行えなくなります。

②経験や情報が不足している

 いざというときに、どのような行動を起こせばよいのか。経験や情報がないと、危機的状況を目の前にしたときに動けなくなってしまいます。

 避難訓練はこういった経験をあらかじめ体験することで、いざというときに行動を起こせるようにするものです。

③学習意欲、学習能力がなく人任せ

 どんなミスも、そこから学び取るものがあります。しかし、ミスを見過ごしたり、人のせいにしたりする「学ぶ意欲」が足りない人は、危機的状況に陥ったときに、何も行動できずに人任せになってしまいます。

 組織は存続し、成長していくことが必要です。これを阻害する要因が、危機的状況といえます。危機的状況にいち早く対処するためには、危機管理をおこなう能力が不可欠です。

 危機管理能力が求められる危機的状況を、詳しく解説します。

 大きな自然災害やインターネット上のトラブルなどの災害により、通常業務が止まり、利益を得ることができずに組織が崩壊してしまうケースがあります。

 特に今は、過度なクレームの電話による通常業務妨害なども起きています。こういった場合の対処法をあらかじめ考えておくことも必要です。

 いち早く災害から復旧し、通常業務を行える体制を整えるのかが、組織にとっては大きな課題といえるでしょう。

 今の時代は環境の変化がとても激しくなっています。直接的な被害はなくても、海外でのできごとや、為替相場の変動、また人口減少なども考えて対処法を考えておく必要があります。

 いつまでも同じ状況が続くと思わず、常に環境変化に目を向けて、考えられる危機的状況を予測し、いざというときの対応を準備しておきましょう。

 突然、隣に同業者が店を出した。これも危機的状況の一つです。そうなると、同業他社との差別化などを図り、競争力を強化する必要も出てきます。

 危機管理能力を高めておくことで、突然のライバルの出現にも対応できるように競争力を高めることができ、組織としての利益を確保できます。

 頭では危機管理能力が必要だとわかっていても、肝心の当事者である従業員の意識が不足してしまうこともあります。

 どのような場合に従業員の危機管理意識が低下するのかを、具体的にご紹介しましょう。

 トップ層が危機管理意識を持たなければ、現場にいる従業員が危機管理意識を持つことはありません。

 「これは危険では?」「こんなときどうすればいいの?」と疑問が湧いても、トップがそれに対応できなければ、従業員は「じゃあ、何もしなくても大丈夫なんだ」という気持ちになるものです。これが従業員の危機意識を低下させてしまいます。

 私たちには危機的状況が起きても「まだ大丈夫だろう」という「正常性バイアス」が働きます。これは日常生活では平静を保つためには必要なことですが、いざというときに逃げたり対処したりするのが遅れる原因にもなります。

 例えば、工事現場で「今まで事故が起きていないから大丈夫だろうと思い、ヘルメットや保護具などをつけずに作業をしてしまう」というのがこれにあたります。

 いざというときに起こるであろうリスクを従業員が知らなければ、この正常性バイアスがかかり、危機意識が低下してしまう危険性があるのです。

 従業員の危機意識を高めるためには、以下の方法が有効です。

  • 危機管理専門の部署をつくる
  • 危機に対しての教育や訓練を行う
  • 過去の失敗を振り返る習慣をつける
  • 危機的状況の情報を伝える

 具体的にどうすればよいのか、その方法をご紹介しましょう。

 組織で危機管理能力を高めたければ、まずはこれを司る専門の部署をつくることをおすすめします。それにより、教育訓練の計画を立てたり、さまざまな危機的状況を想定したり、必要となる情報を集めやすくなったりします。

 従業員も、専門の部署からのアドバイスであれば素直に従ってくれるでしょう。そうすることで、組織全体での危機管理能力を高めることが可能になります。

 危機管理能力に限らず、どんなことに対しても教育、訓練は必要不可欠です。

 特に、大型の災害(地震や台風、火事など)については、どのように行動すれば危機的状況を避け、人命を守ることができるかの訓練を必ず行ってください。

 また、クレームやインターネットの炎上なども想定してシミュレーションしておきましょう。

 従業員個人の危機管理能力を高めるには、過去の失敗事例から学ぶ習慣をつけてもらうことが大切になります。なぜミスしたのか、次にどうすればよいのかを常に考えることで、先を読んで行動できる能力もついていきます。

 具体的には、PDCAサイクルを意識した業務の進行・管理を徹底しましょう。振り返りからの改善意識がつき、危機管理能力も自ずと高まっていきます。

 他で発生した災害や、その他危機的状況についての情報も従業員に知らせるようにしましょう。他人事ではなく、自分にも同様の危機的状況が起きたときにどう対処すればよいかを考えてもらうきっかけにするのです。

 例えば、工場などで起きた災害の情報や、交通事故の事故などの事例を社員に知ってもらうことで、災害に対しての意識を高めてもらうというものがこれにあたります。

 従業員の危機管理能力は、一朝一夕に高まるものではありません。そのため、次の点に注意をして教育、訓練を行うようにしましょう。

 危機管理能力を高めるには、想定される各々の危機に対しての対処を事前に考え、その準備を行う必要があります。そのうえで、何度も訓練を繰り返すことで、ようやくその能力が身につくものです。

 教育、訓練には時間がかかります。その準備にはさらに時間がかかります。焦らず、余裕を持ったスケジュールで取り組むようにしましょう。

 一昔前の常識は、今や非常識といわれることもあります。昔の防災食といえば、缶詰や乾パンといったものが主流でしたが、今はそれでは栄養不足となるため、栄養価の高い防災食が主流となっています。

 このように、危機管理における対処の常識は、昔と今では変化しているものも多いものです。昔の常識にとらわれず、常に新しい情報に更新し、そのための準備を怠らないようにしましょう。

 危機的状況に陥ると、視野が狭くなり、固定観念で解決策を一方向からしか考えられなくなるものです。常に広く視野を持ち、必要となる情報を集め、人の意見にも耳を傾けて、適切な対応策を考えることが必要です。

 自分とは違う意見や考え方を受け止め、自分の考えとかけあわせていく思考を、業務のなかでも意識してもらうように促しましょう。

 危機管理能力を高めることは、これからの時代を生き残る組織には必要不可欠です。

 今の時代、いつ何が起こるかわかりません。そのための準備を組織ぐるみで行い、多くの知恵と力で対応していく。この危機管理能力を高めることが組織活動の要となることは間違いありません。

 気づいたら即行動、今すぐ危機管理能力を高める準備を起こしてみましょう。