目次

  1. 働き方改革を進めた京都の老舗
  2. 「1泊2食」に依存しない経営
  3. サイゼリヤの経験をピンチで生かす
  4. ビジネスホテルをアプリ開発で再建
  5. 「ガルパン」の力を震災復興に

 京都市中心部で190年以上の歴史を誇る綿善旅館のおかみ・小野雅世さんは、大手銀行から家業に入った後、非効率な業務や働き方に違和感を持ち、改善に乗り出しました。観光庁の「生産性向上モデル事業」に選ばれ、外部のコンサルタントの手も借りながら、タブレット端末を使った業務の効率化や1人のスタッフが複数の業務を担うマルチタスク化などを推し進めます。その結果、83日だった年間休日を105日に広げるなど、旅館業界ではハードルが高いとされる働き方改革につなげました。

綿善旅館おかみの小野雅世さんはコロナ禍を機に、客室の稼働率をあえて低くして、丁寧な接客をより重視しました

 佐賀県嬉野温泉の和多屋別荘は、2万坪(6万6千平方メートル)の土地と客室数100室以上の老舗旅館です。3代目社長の小原嘉元さんは、一度は「放蕩息子」という断を下され家業を放り出されながら、旅館再生事業の経験を積み、36歳で社長に就任。経営危機だった家業を立て直し、茶農家を巻き込んだティーツーリズムやサテライトオフィスの誘致、文学賞の創設など「1泊2食」という収益スタイルに依存しない経営を進めています。

和多屋別荘3代目の小原嘉元さんは文学賞の創設など、旅館経営の枠を打ち破っています

 神奈川県箱根町の温泉旅館「一の湯」16代目社長の小川尊也(たかや)さんは大手外食チェーン・サイゼリヤでの経験を生かし、マニュアル構築など数々の組織改革を実行。箱根で宿泊施設10カ所を運営する老舗を引っ張っています。コロナ禍で2カ月休業に追い込まれながらも、大胆な経費削減と魅力的な宿泊プランで回復の道筋をつけました。

「一の湯」16代目社長の小川尊也さん(写真はすべて同社提供)

 名古屋市のビジネスホテル「エクセルイン名古屋熱田」の2代目社長・苅谷治輝さんは2013年、赤字に陥っていた家業に入りました。委託業者の総取り換えや、従業員の意識啓発などで業務を改善。ウェブマーケティング会社を起業した経験を生かし、宿泊施設の設備・備品管理を効率化するアプリも開発して、再建にこぎつけました。

家業のホテルを一から立て直した2代目の苅谷治輝さん(※撮影時のみマスクを外しています)

 茨城県大洗町で1887(明治20)年から続く割烹旅館・肴屋本店は、同町が舞台の人気アニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)で、「戦車に突っ込まれた宿」として知られています。先代の父が亡くなり31歳で経営を引き継いだ7代目・大里明さん(46)は東日本大震災の影響で開店休業状態に陥りながらも、ガルパンを追い風に、アニメファン向け宿泊プランやキャラクターの等身大パネルを制作。ファンと地域経済との結びつきを深めました。コロナ禍でも、観光協会長として地元店舗の支援企画を成功させました。

肴屋本店7代目の大里明さんは人気アニメをきっかけに、町全体を潤すアイデアを繰り出しました