目次

  1. 旅館主体で文学賞を創設
  2. 経営危機の家業から放り出される
  3. 「道を踏み外しているかも」と悟る
  4. 旅館再生事業を立ち上げ
  5. 再度の経営危機で社長就任
  6. 嬉野茶を前面にティーツーリズム
  7. 温泉入り放題のオフィスを提供
  8. ネオ旅館の姿を追い求めて

 2022年秋、和多屋別荘の壁一面に「三服文学賞」と書かれた巨大なタペストリーが掲げられました。温泉、お茶、焼き物などをテーマに、エッセー・小説・詩・短歌といった文芸作品を募集したのです(応募受付は終了)。

 地域発の文学賞は数あれど旅館主体のものはほぼ無く、発表当時から話題になりました。大賞は1年間のアーティストインレジデンス権、つまり1部屋を1年間自由に執筆に使える権利が与えられます。

旅館内にオープンした書店「BOOKS&TEA三服」(同社提供)

 文学賞創設のきっかけは、21年11月に和多屋別荘内に作った書店「BOOKS&TEA三服」でした。この時、館内にはフランスの世界的パティシエ、ピエール・エルメとコラボした物販施設など7店を開業。「泊まる旅館」から「通う旅館」へと進化させるプロジェクトを始めました。

ピエール・エルメとコラボした販売施設(同社提供)

 その指揮を執ったのが3代目の小原さんです。しかし、3代目の事業承継は順当といえるものではありませんでした。

 1950年創業で、有名温泉街を代表する旅館の3代目は何不自由なく育ち、18歳で嬉野を離れました。しかし、進学した大学を中退してしまいます。その身をおもんばかってか、会社は福岡市にIT事業を生業とするオフィスを開きました。小原さんは本体の旅館業とは距離を置きつつ、社会人としてのスタートを切ります。

 ところが和多屋別荘は同族企業のテーマパークの不振やバブル崩壊などの影響を受けて、2001年、経営危機に陥ります。福岡オフィスは閉鎖され、小原さんが住んでいたマンションも取り上げられました。

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