「失敗はチャレンジした結果」コロナ禍で経営破綻 37歳起業家は再挑戦へ
コロナ禍で多くの企業が打撃を受けました。2022年3月に経営破綻した旅行系スタートアップ「Cansell(キャンセル)」もその一つ。元CEOの山下恭平さん(37)は、自身の意思決定において「あのとき、こうしておけば」と思う点が多いと振り返ります。山下さんは今、この失敗経験を生かし新たな事業に再挑戦しています。
コロナ禍で多くの企業が打撃を受けました。2022年3月に経営破綻した旅行系スタートアップ「Cansell(キャンセル)」もその一つ。元CEOの山下恭平さん(37)は、自身の意思決定において「あのとき、こうしておけば」と思う点が多いと振り返ります。山下さんは今、この失敗経験を生かし新たな事業に再挑戦しています。
「コロナが要因の一つではあるが、経営者としての見通しの甘さが招いた結果です」。山下さんはこう振り返ります。
Cansell は2016年1月に創業。ヤフー出身のメンバー3人でスタートしました。
起業当初はインバウンド向けの飲食店予約サービスの展開を予定していましたが、「スケールさせるのが難しい」との判断から事業転換を決定します。ここから新たな旅行系サービスを模索することになります。
当時、フリマアプリやオークションサイトなどの二次流通市場が活況を帯びる中、山下さんが着目したのが“宿泊予約の二次流通”です。急用や病気などでホテルの予約をキャンセルせざるを得ない場合、規定のキャンセル料を支払うのは負担が大きい……。
そんな顧客課題を解決するために2016年9月に立ち上げたのが、宿泊予約の売買サービス「Cansell(キャンセル)」です。
キャンセルしたい宿泊予約を泊まりたい人に販売できる仕組みを構築。出品者と購入希望者のやりとりや名義変更に伴う手続きを代行し、手数料収入を得るビジネスモデルでした。
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営利目的の転売を防ぐため、予約時の料金より高い価格の出品を禁止。売買成立時には、出品者のキャンセル料が軽減され、購入者も出品者が予約した価格よりも安く宿泊できるメリットが見込めることから、多くのメディアで話題となりました。
VC(ベンチャーキャピタル)からも高い評価を得て、2018年に2億円の資金を調達します。2019年からは海外のホテル予約を出品できるサービスを開始し、事業は順調に伸びていました。
メンバーも20人まで増え、本格的な海外展開に向けて動いていた矢先、コロナによって状況が一変します。
「当初は半年か1年ほどで落ち着くだろう」と楽観的に考えていたという山下さん。最悪の事態に備えて人員を半分以下に削減しました。
一方、コロナ後を見据えた事業展開に向けて一定数の人員が必要との考えから、数人のメンバーを残しました。山下さんは次のように振り返ります。
「当時はベストな判断だと思っていましたが、この時点で思い切って必要最小限の人数まで人員削減しておけば、人件費が軽減されることで生き残れたかもしれません。そもそもパンデミックを想定していなかったため適切な対応ができませんでした」
2020年10月から、コロナ後を見据えた新事業として長期滞在向け宿泊予約サービスを始めました。
「コロナ禍で旅行業界を取り巻く環境が大きく変わりました。今後はキャンセル事情も変わり、『Cansell』というサービスが必要なくなるかもしれない。もし、コロナ収束後に旅行・宿泊業界の需要が回復したとしても、当社のサービスの需要が戻るには、さらに時間がかかるとの考えから立ち上げたサービスです」
2020年7月に「GoToトラベル」がスタートしたこともあり、宿泊需要増加への期待もあったといいます。
しかし、2020年12月に「GoToトラベル」が一時停止。翌年1月には2度目の緊急事態宣言が出され、その後も対象エリアや期限の延長が相次ぎました。
出口が見えない状況が続くなか、自ら辞めていくメンバーもいました。
「2021年の4月ごろが最もつらい時期でした」
その後、予想に反してコロナが長期化したことから、新事業は1年ほどで終了することになりました。
「今振り返ると、“選択と集中”を行うべきだったと思います。新事業の開発に人的・時間的コストをかけるのではなく、Cansell事業の足元を固めることに注力していれば別の結果になったかもしれないと思いますね」
この状況を打開するには、「旅行事業以外の打ち手を見つけるしかない」と考えた山下さんは事業転換を決断します。
しかし、このときコロナ融資や社会保険料等の猶予分の返済が始まり、既に運営資金も尽きようとしていました。タイムリミットが迫るなか、新たな資金調達に向けて懸命に動きましたが、最終的に出資が決まらず会社をたたむ決断をします。
「やるだけのことはやったという思いです」
事業は失敗に終わった山下さんですが、「失敗はチャレンジした結果。今回の経験を糧に次に活かしたい」と前向きな決意を語ります。続けて、山下さんはこれまで支援してくれた人たちへの思いを口にしました。
「会社をたたむことになってしまったにも関わらず、『うちに来ないか』『次も出資するよ』と言って応援してくれたVCや投資家の方々には感謝しかありません。今回は結果を残せませんでしたが、また別の機会で恩返しできればと思っています」
山下さんの次なる挑戦は、ホテルやレストランの請求業務のデジタル化です。
2022年10月に新たなVCから総額9000万円の資金を集め、キャンセル料請求の自動化ツール「Payn(ペイン)」をリリースしました。「Cansellの事業で得た知見を活かし、消費者と事業者の関係をフェアにしていきたい」といいます。
「生涯、起業家であり続けたい」という山下さん。支えてくれる人達の思いを力に変えて、これからも挑戦を続けます。
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