コンビニの来店頻度を上げるには 顧客接点はデジタルで拡大 接客で深化
コンビニが自店商圏において新規客を増やすことは容易ではありません。人口減少と高齢化が否応なく進み、ドラッグストアやミニスーパーなどの競合店も増えています。そこでコンビニが今、注力しているのは「来店頻度」です。週1回を週2~3回、そして毎日、なんなら朝昼晩に来店してもらいたいと思っています。そこで店舗への来店頻度の向上の取り組みを「顧客接点(タッチポイント)」をキーワードにコンビニの戦略を紹介します。
コンビニが自店商圏において新規客を増やすことは容易ではありません。人口減少と高齢化が否応なく進み、ドラッグストアやミニスーパーなどの競合店も増えています。そこでコンビニが今、注力しているのは「来店頻度」です。週1回を週2~3回、そして毎日、なんなら朝昼晩に来店してもらいたいと思っています。そこで店舗への来店頻度の向上の取り組みを「顧客接点(タッチポイント)」をキーワードにコンビニの戦略を紹介します。
目次
「対象のスイーツを一度に2個買うと〇〇円引き」
コンビニのアプリを開くとたくさんのクーポンが届いています。各チェーンは自社のアプリをダウンロードさせようと、店頭のポスターや精算時の声掛け、ネット上で会員獲得を図っています。
ひとたびアプリ会員になると四六時中、新しい情報がスマホに届きます。店頭以外でも顧客とつながる手段を得たわけです。
それは時間も場所も問わず、顧客と常につながる環境を意味します。店舗の中でも外でも、顧客とつながり、有益な情報を発信したり、フィードバックを得たりしていきます。店舗で商品を販売するプラットフォームをデジタルで創出していくのです。
「新しく有益な情報が発信される拠点として、お客様の生活導線の中でファミマに立ち寄っていただくようなつながりを強化していきます。ファミマは約1万6500店舗のリアルなアセット(資産)を強みとしています。そこにデジタルの新しいアセットを組み合わせて、小売業の価値を再定義するのです」(ファミリーマート デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)
ファミマは、こうした取り組みを「リテールメディア戦略」と名付けて、新規に来店したお客、そして従来からの既存客のロイヤル化を推進しています。
具体的には、リテールメディアを2つの(マーケティング)ファネルとして捉えて、各段階においてタッチポイントを創出、商品やサ―ビスの購入に結び付けていこうと考えています(図表)。
「ファネル」とは、顧客が商品を認知してから、実際に購入するまでの一連の流れを意味し、図表中の黒塗りの部分がタッチポイントになります。
従来のファネルとは、図表の左半分のように、主に来店前、あるいは来店後に商品やサ―ビスを新しいお客に「認知」させ、「興味・関心」を持たせ、「比較・検討」させて「購入」を促すものでした。
例えば、「おでん〇〇円セール」や「中華まん増量セール」といったキャンペーンを、マス媒体の主にテレビCMにより広く認知させます。さらに道を歩く人に、店頭ではためく「のぼり」や入り口に張り付けた「ポスター」を使って、お得な商品があることに興味・関心を持たせ、店内に引き込みます。
そこで、店内のカウンターで湯気を立てているおでんや中華まんを実際に見せて、お客に比較・検討させ、購入を決断させてきたのです。
SNSやアプリ、デジタル広告がなかった時代、購入を促す機会は、おおよそこうした手法でした(もちろん、現在でも有効な販促として継続しています)。
一方のリテールメディアは、図表の右半分のようにファネルを超えたマーケティング(新しいファネル)を加えたもので、一度購入した顧客に対して、再度の購入(リピート)から関連購買(クロスセル)、ロイヤル化(優良顧客化)、発信・拡散を促していきます。
4段階の施策について詳細を記します。
第1に「リピート」。ある炭酸飲料を販促による値引きの効果で購入したお客に、2回目、3回目のリピート購入を促します。最初と同様に値引きクーポンの送付なのか、アプリ上で他のユーザーの感想を伝える情報なのか、リピートを促す施策を実施します。
第2に「クロスセル」。購入を検討する商品と別の商品を一緒に提案します。例えばカウンターで売る「揚げ物」とビールの組み合わせ、あるいはコーヒーとスイーツの組み合わせなどを、商品の購買データを活用して、嗜好の似ている顧客にアプリ上で販促します。来店する顧客には効果が高く、顧客のロイヤル化につなげていきます。
第3の「ロイヤル化」。例えば、一定期間内にカウンターの「揚げ物」10個を購入すれば1個を無料にするスタンプ施策のようなプログラムをつくります。こうしたロイヤルプログラムをアプリの中で展開することにより、店に対するロイヤルティを増していくようにします。
第4の「発信・拡散」。主にSNS上で発信と拡散は、企業や店側がコントロールできるものではなく、あくまでも利用者の自由意志に掛かっています。売り手がファンづくりの取り組むことで成果が期待できます。
こうした既存のファネル(左半分)と新しいファネル(右半分)の横軸に対して、次に縦軸に示す5つのメディアを組み合わせることにより「縦横無尽」にタッチポイントを創出していきます。
第1に「サイネージ」。ファミマはレジカウンターの上部にデジタルサイネージの設置しており、2023年内に1万店舗を目標に進めています。若年世代の視聴するメディアが、テレビからYouTubeなどの動画に流れる中で、セグメントされた広告配信により、偶発的な情報や広告との「出会い」が少なくなっています。
そんななか、サイネージに広告を出すメーカーにしてみれば、これまで興味を示さなかった利用者に商品を試してもらいたいニーズがあります。ファミマはサイネージをテレビと同じマスメディアに位置付けて継続させていくとしています。
第2の「店頭(売場)」については、たとえサイネージやアプリ、デジタル広告やSNSで情報を発信したとしても、売場で対象商品を欠品させたりすれば広告効果も半減します。リアル店舗での発注、陳列、販売、検証のサイクルの中に、リテールメディアの展開をしっかりとつなげれば、効果を高めていけます。
第3の「アプリ」については、例えば「スイーツを買うと100円引きクーポンもらえる!」といった会員だけが100円割引になるキャンペーンの展開により会員数を増やしています。アプリの会員にとっても、そうしたお得が続けば店舗を継続利用する動機につながっていきます。
第4の「デジタル広告」については、ファミマでは関連会社が、実際の購買データをもとにお客の興味関心を分析して、広告配信の最適化に取り組んでいます。
第5の「SNS」については、500万人以上のフォロワーを持つファミマの公式X(ツイッター)を中心に情報を発信、他に公式インスタグラムやティックトック、LINE、フェイスブックなども活用しています。
ファミマは、この5つのメディアを活用して、横軸と縦軸のクロスポイント(黒塗りの部分)を作り込んでいます。
ファミマは最新デジタルを駆使して「顧客接点の拡大」を図っています。それに加えて、販売員の接客による「顧客接点の深化」があれば、顧客のロイヤル化は強みを発揮するはずです。
ここではセブンイレブンが2023年6月に開催した「第1回接客コンテスト全国大会」からコンビニに期待される接客を紹介します。
一定の条件を満たした約3000人の加盟店従業員が2022年10月より地区予選にエントリー、その中から勝ち抜いた22人が全国大会に出場して、お薦めの接客を実演しています。
「お客様想定」は82歳・女性・常連客・一人暮らし・少し足が不自由としました。
以下は神奈川県平塚市の加盟店従業員の実演です。
「いらっしゃいませ、最近、雨が続いて、なかなかお会いできなかったので、どうされたのかなぁ~と思っていました。今日はヘルパーさんと一緒にいらっしゃったのですね」
(お客様役)「そうなの、一緒に来てくれたの」
「お会いできてうれしいです。明日は息子さんのご家族がいらっしゃる日ですよね」
「そうなの、明日は久しぶりに会えるのよ」
「明日は、ご家族分の料理を用意するのがちょっと大変と、おっしゃっていましたが、そんな野口さん(お客様役)にぜひお薦めしたい商品があるのです、いまお時間大丈夫ですか?」
(ここからは、お薦めのカップみそ汁の紹介が続きます)
審査では、各人が選んだ商品の薦め方に重点が置かれていますが、そもそも商品をお薦めできるだけの日頃からの人間関係の構築が大切であり、その一連の自然な流れも審査対象に入っているのでしょう。
次は大会で優勝した新潟県長岡市の加盟店従業員の実演です。身振りや表情、声のトーン、抑揚など、活字で表現できない部分も秀逸でした。
「小林さん(お客様)、こんにちは、そろそろいらっしゃる時間かと思っていたんですよ」
(お客様役)「ありがとう」
「毎週、お華の教室の帰りに寄って下さるから、そろそろかなぁっと私も楽しみにしていたんですよ」
「私も楽しみにしているのよ」
「本当ですか、ありがとうございます、今日は来てくださってうれしいです。小林さんが、いらっしっゃったら、ぜひお薦めしたいなぁ~と思っていた商品がございまして、お時間、大丈夫でしたら今お持ちしてよいですか?」
「ぜひ、お願いしたいわ」
「ありがとうございます。こちらはお弁当の中華丼なんです。召し上がったことはございますか?」
「食べたことないわ」
「そうでしたか、でしたらちょうどよかった~。先日いらっしゃったとき、最近足腰が痛くてとおっしゃっていたので、これから暑くなってくると、ますます台所の家事が大変かなと思って。そこで何か簡単に食べられて、栄養バランスのある商品はないかなと思っていたんですよ。この中華丼でしたら、これ一つでお肉も野菜も取れますし、ご飯ものなので食べごたえもあって、私なんか、これ一つでお腹いっぱいになれんですよ」(続く)
なじみ客の発した「足腰が痛くて」を記憶しており、暑くてつらい台所の家事を省く、お薦め商品のメリットを分かりやすく説明しています。
こうしたやり取りは、あくまで与えられたシーンからの創作です。ただし、日頃からの、より良い接客に目が向いていないと、こうしたシーンからの接客展開は思いつかないでしょう。
接客コンテストは、チェーン全体の接客レベルを向上させる効果があります。地方予選から含めると、出場者、見学者を合わせて1万人以上がリアルで見学しているといいます。それが評価の高い接客の実演を共有するよい機会となります。
また、出場者は店で練習したり、その接客をもとに後輩を教育したりしているので、出場前から店の接客水準が上がっているといいます。
セブン-イレブン・ジャパン社長の永松文彦氏は大会に参加した従業員に語り掛けます。
「世の中がIT化であるとか、DXであるとか、いろいろと進化して省人化にもつながっていますが、人にしかできない仕事があり、それはまさに皆さんが普段からされている接客であり、そこにお客様の感動が生まれるのです」
セルフレジが多くの店舗に導入されて、従業員を単なる「コスト」と見る風潮が小売業界にあります。今こそ店の従業員が商圏内の一人ひとりと「顧客接点」を持ち、深化させていく。そういうメッセージを本部は発信しているようです。
デジタルとアナログを対比で用いるのではなく、両方の強みを活かして「顧客接点」を強めていく方向性がコンビニの店舗に示されています。
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