目次

  1. デジタル時代に「書く文化」を
  2. 買収した会社を任される
  3. 女性客を念頭に店を開く
  4. 文具を手にとってもらう工夫
  5. 立地の不利を克服する商品
  6. 街を楽しむマップを20万部制作
  7. インクスタンドも評判に
  8. 販売ノルマは設けない
  9. 30カ国に文具を展開
  10. 励みになった父のひと言

 「子どものころに父の机の引き出しをこっそりのぞいたことがあります。発見したのは、父に宛てて書かれたラブレター。古いものですから、当然、黄ばんでいる。でもね、筆で書かれたその手紙からは色あせることのない、女のひとの思いが伝わってきました。だから父も捨てられなかったんでしょう」

 デジタル全盛の時代だからこそ、書く文化を大切にしたい――。広瀬さんがカキモリのコンセプトに据えたのは「たのしく、書く人。」でした。

 出店の地は、蔵前。いまでこそ「東京のブルックリン」などともてはやされていますが、当時はけして栄えているとはいえない街でした。

 「家賃が安いところを探してたどり着いた街ですが、訪れてみればわずかながら洗練された家具屋さんや雑貨屋さんがありました。そしておもちゃや革製品、袋物の産地として知られるこの街では、じつは手帳などもつくられてきたのです」

カキモリのコンセプトは「たのしく、書く人。」です

 カキモリへの扉を開いたのは父の洋一さんのひと言でした。

 「東京の会社を買収しようと思っている。おまえに任せるからやってみないか」

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