目次

  1. 「産業の塩」であるネジのエキスパート
  2. 手数料負担に違和感
  3. 金額の大きさに「ぞっとした」
  4. 全顧客に「負担のお願い」を送付
  5. 8割が理解を示す
  6. お願いで意識したポイントは
    1. 深追いをしない
    2. 請求書にも負担願いを明記
    3. まずは自分たちから改める
  7. 古い商習慣は変えられるか

 隅田鋲螺製作所は1941年、隅田さんの祖父が創業しました。当初はネジの製造を手掛けていましたが、生産機械の老朽化や職人の引退を受け、10年ほど前に製造部門を閉鎖。現在は東大阪地域を中心とした他の工場から、ネジやナット、ワッシャーを調達してメーカーなどに販売する、商社のような事業がメインとなっています。従業員は約70人、全国10か所に拠点があります。

隅田鋲螺製作所の本社(同社提供)

  目立たぬ存在ですがなくてはならないことから、「産業の塩」とも呼ばれるネジ。隅田鋲螺製作所が販売するネジも、自動車や建築、農業機械に医療機器と、幅広い分野で使われています。またネジやナットは、種類が膨大で製造元が多岐にわたるため、効率的な調達が難しいといいます。この点を解決して、顧客が必要とする部品を届けるのに、隅田鋲螺製作所が長年培ってきた製造元とのネットワークは大きな強みになっています。

 幼少期から、家業を継ぐよう父に言われて育ったという隅田さん。大学を卒業後、飲料メーカーで営業職として3年勤務したのち、2008年に家業に入りました。そこで経理業務を担当した際、ある習慣に疑問を持ちます。

 「手数料を引くってなんや」

 顧客にネジを納品したのち、支払われた代金の明細を確認すると、銀行振り込みにかかる顧客側の手数料が、支払い代金から差し引かれていました。代金が1万円でも、550円が振り込み手数料として差し引かれ、実際に振り込まれるのは9450円、といったような具合でした。差し引かれている手数料も本当に正しい額なのか、確認する術はありませんでした。

多種多様なネジを取り扱う、隅田鋲螺製作所の倉庫(同社提供)

 そもそも民法第485条では、弁済の費用(振込手数料)は、原則として代金を振り込む側が負担しなければならないと定めています。それなのになぜ、振り込まれる側が手数料を肩代わりしているのか。不思議に思った隅田さんでしたが、業界では当たり前のようにこの習慣が続いていました。改善を求めれば、当然顧客の負担が増えることになります。「それをきっかけに取引を切られるかもしれないと考えると、現実的に交渉はなかなか厳しいかなと思いました」。

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