世界のシェフが注目する木桶仕込み醤油 ヤマロク醤油5代目が磨いた発信力
香川県小豆島にある創業150年の醤油屋「ヤマロク醤油」は2022年の売上高の34%を輸出品が占めました。5代目の山本康夫さんが力を入れたのは、販路拡大よりも輸出する商品のブランディングです。Instagramを通じて世界中のシェフやバイヤーから日々問い合わせが寄せられます。伝統的な製法をアピールした「ワンランク上の醤油」として木桶仕込み醤油を扱う29社が協力して発信するPRには、農林水産省も注目しています。
香川県小豆島にある創業150年の醤油屋「ヤマロク醤油」は2022年の売上高の34%を輸出品が占めました。5代目の山本康夫さんが力を入れたのは、販路拡大よりも輸出する商品のブランディングです。Instagramを通じて世界中のシェフやバイヤーから日々問い合わせが寄せられます。伝統的な製法をアピールした「ワンランク上の醤油」として木桶仕込み醤油を扱う29社が協力して発信するPRには、農林水産省も注目しています。
目次
2013年に「和食」が「日本人の伝統的食文化」としてユネスコ無形文化遺産に登録され、世界各国で和食(日本食)ブームが加速、海外の日本食レストラン数が2015年には約8.9万店だったのが2021年には15.9万店まで増えるなど、海外、特に欧米の富裕層を中心に、日本食を食する機会が増えています。
そんな日本食ブームも追い風に、ヤマロク醬油の売上高に占める輸出比率は、2018年に4.3%だったのが、2020年に16.9%、2022年には34%にまで伸ばしました。
山本さんは、自分で海外の販路を拡大することよりも輸出する商品のブランディングに力を入れます。
木桶仕込み醤油はワインと同じで蔵元によって特徴があり、ワインのように醤油の種類によって食材との相性が変わるといった情報を発信し続けており、海外から商品を売りたいという問い合わせが来るようになりました。
そんなブランディングを支えている一つが、Instagramです。ヤマロク醬油のフォロワー数1.5万人。現在、フォロワーの約7割は海外のアカウントです。
醤油の仕込みの様子などを動画と英語の字幕で紹介すると、多数の「いいね」がつくようになりました。
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「海外に向けて飲食の発信をするならinstagramだ」と知人にすすめられたことがきっかけでした。その甲斐があって、インド、ナイジェリア、南アフリカ、メキシコ、バーレーンなどさまざまな国のシェフやバイヤーからDMが日々届きます。
ほかの知人からの助言も参考に、プロフィール欄は「続きを見る」より前で完結できるように、英語で作成しました。すると、急激にフォロワー数が増えました。
2021年ごろから投稿に英語を一言入れるようにしたのは、アメリカでたまり醤油の製造販売に成功している「SAN-J」の社長から「一言でいいから英文をつた方がいい。と助言を受けたからです。
「英語で発信したら、海外の人からメッセージが来るんです」
Instagramで取引のリピーターを増やし、2022年から輸出額が一気に伸びました。海外の取引先はほぼ全員、ヤマロク醤油の蔵まで見学に来たことがあるといいます。
「インバウンドで見学に来られる方の中に、貿易関係者や、シェフがいることは珍しくないことです。その場で名刺交換をしたり、商談が始まったり、後日メールが送られて来ることもよくあること。販路を見つけるのではなく、輸出する商品をブランディングすることによって、そのブランドに共感したルートが自然と出来ていきます」
DMから連絡があり、サンプルを送ると、さらに知り合いのシェフに広めてくれることもありました。
「今後は1国1ルートでもう少し貿易を増やしたいです。今狙っているのはアフリカとインドですね」
海外展開に向けては、市場動態を知ろうとJETROが作成している各国の市場動態のレポートに目を通すようにしているそうです。
山本さんは元々、貿易の知識もない上、英語も話せませんでした。ドイツと貿易を始めた時は、翻訳ソフトを用いて、日本語を英語に翻訳し、ドイツのバイヤーとメールでやり取りしていました。
ある時、ある商談会で仲良くなった徳島県の柚子農家も同じドイツのバイヤーと貿易をするようになり、その柚子農家にドイツのバイヤーが「ヤマロク醤油の山本さんの英語が怪しいからどうにかしてほしい」と相談を持ちかけました。
それをきっかけに、柚子農家が知り合いの通関事業者を山本さんに紹介し、山本さんはドイツやその他の国とも直接貿易できる強力な助っ人と出会うことができました。
「とりあえずまずやってみることが大事」と山本さんは言います。山本さんの日頃の人との付き合い方が協力者を引き寄せているようにも見えます。
輸出に力を入れ始めたことは、コロナ禍にも関わらず大きく売上を落とさずに済んだ理由の一つになりました。
「ロックダウンで、ネット通販の需要が増えることを予想し、アメリカへの輸出を始めました。将来的に百貨店やスーパーの売上が落ち、ネット通販が増えてくることを予想できたので、amazonでの卸価格を高めに設定しました」
ちょうどアメリカのニュースWEBメディア『Business Insider』に取り上げられたこともあり、売れ行きは好調でした。
農林水産省は農林水産物・食品の輸出額について、2030年までに5兆円とする目標を設定し、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」を掲げています。
山本さんが立ち上げた「一般社団法人木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」は、そのなかでも注目されている事業の一つです。木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアムは、国内の木桶仕込み醤油メーカーを29社、メンバーに迎え入れました。そこで、補助金を活用して共に海外のブランディングとマーケティングをしています。
補助金の条件は同一品目同一産地が基本で、一つの都道府県の産品をPRして販売するなど、多品目同一産地の連携はこれまでにもありましたが、木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアムのような同一品目多産地の連携は今までありませんでした。同一品目多産地の連携はライバル同士でなかなか手を組まないことから、とても珍しい取り組みなのだといいます。
2020年、木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアムの設立当時、木桶仕込み醤油と、その醤油を使った加工品の輸出の売り上げ実績は6900万円ありました。さらに、2022年には1億7200万円まで増やしました。
「同一品目多産地の連携はめちゃくちゃ強いです。農林水産省と農林水産省の輸出戦略実行事業を委託しているアクセンチュア事務局からは、『同一品目多産地の連携は木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム以外どこにもない。連携できる理由が分かったら、連鎖させて他の品目にも広げたい』と言われました。同一品目多産地の連携は特に難しくありません。中学生のようなノリと飲み会があったら大丈夫。競争するのは醤油の品質。PRはみんなですればいいのです」
最後に、山本さんに今後の展望を聞きました。
「今は、木桶職人復活プロジェクト、木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム内の人材育成に動き出しています。どこも後継者不足で困っているので。若手が育ってきて、何年後かに、うちの息子が継ぐことになる日が来たら、息子をよろしくって言えるでしょ」
100年後を見据え、孫の世代にも美味しい醤油が残るようにと山本さんは意気込みます。
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