目次

  1. 化学物質管理者とは 厚生労働省が示す業務
  2. 化学物質管理者の選任のポイント
    1. 化学物質管理者の選任の義務化いつから? 掲示も必要
    2. 化学物質管理者の選任が必要な事業場
    3. 化学物質管理者の選任要件
    4. 化学物質管理者に必要な講習
  3. 化学物質の自律的な管理で事業者がやるべき3ステップ
    1. 取り扱い化学物質の把握
    2. 体制の整備
    3. リスクアセスメントの実施
  4. 労働安全衛生法の関係政省令の改正で必要な対応
    1. 2023年4月1日からの規制項目
    2. 2024年4月1日からの規制項目

 事業場では、事業者が化学物質の危険有害性を把握し、適切に取り扱う必要があります。厚労省の「化学物質管理者講習テキスト」(PDF方式)などによると、化学物質管理者とは自律的に化学物質を管理するうえでの事業場内キーパーソンです。

 化学物質管理者には、次のような仕事があります。

  • ラベル・SDS(安全データシート)等の確認
  • 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  • リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  • 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  • 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  • ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合)
  • リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応
化学物質管理者が行う記録・保存のための様式(例)
化学物質管理者が行う記録・保存のための様式(例)ケミサポの公式サイトから https://cheminfo.johas.go.jp/step/2-1.html

 2024年4月1日施行の労働安全衛生法の改正で、化学物質規制のあり方が大きく変わります。

 これまでは、特定の化学物質に対し、個別具体的な規制をしてきましたが、今後は事業者の自律的な管理が基軸になります。その一環として化学物質管理者の選任が義務化されることになりました。

従来の化学物質規制の仕組み
従来の化学物質規制の仕組み
自律的な管理を基軸とする化学物質規制の仕組み
自律的な管理を基軸とする化学物質規制の仕組み(画像は注記がない限り厚生労働省の公式サイトから)

 化学物質管理者の選任の義務化の制度が始まるのは2024年4月1日から必要です。化学物質管理者を選任すべき事由が発生した日から、14日以内に化学物質管理者を選任する必要があります。

 選任したときは、化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示してください。

 化学物質管理者の選任が必要な事業場に業種・規模要件はなく、リスクアセスメントが必要な危険・有害物質「リスクアセスメント対象物」を製造、取り扱い、または譲渡提供をする事業場となります。

 具体的な、リスクアセスメント対象物の化学物質は、後段「取り扱い化学物質の把握」で紹介しているリンク先で確認してください。

 作業現場ごとではなく、工場、店社、営業所など事業場ごとに化学物質管理者を選任してください。

 ただし、一般消費者の生活の用に供される製品のみを取り扱う事業場は、対象外です。

 化学物質管理者は、事業場の状況に応じ、複数名の選任も可能です。選任要件は、「化学物質管理者の業務を担当するために必要な能力を有するもの」で基本的には事業者の裁量によります。

 ただし、リスクアセスメント対象物の製造事業場では、専門的講習を修了している必要があります。

 リスクアセスメント対象物の製造事業場以外の事業場では、専門的講習などの受講を推奨していますが、資格要件があるわけではありません。

 化学物質管理者に必要な講習は以下の通りです。

  • 化学物質の危険性および有害性ならびに表示等(講義):2時間30分
  • 化学物質の危険性または有害性等の調査(講義):3時間
  • 化学物質の危険性または有害性等の調査の結果に基づく措置等その他の必要な記録等(講義):2時間
  • 化学物質を原因とする災害の発生時の対応(講義):30分
  • 関係法令(講義):1時間
  • 化学物質の危険性または有害性等の調査、およびその結果に基づく措置等(実習):3時間

 講習は中央労働災害防止協会と、日本規格協会で実施されています。化学物質管理者の育成テキスト(PDF方式)も公表されています。

労働安全衛生法の関係政省令改正のリーフレット
労働安全衛生法の関係政省令改正のリーフレット(厚生労働省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/content/001093845.pdf)

 国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれています。化学物質を原因とする労働災害は年間450件ほど起きています。

 職場の化学物質管理は、有害性の高い物質(措置義務対象)に順次追加されており、改正前の時点で674物質ありました。ただし、あらたな物質が追加されると、安全性を十分に確認しないまま、規制対象外の物質に変更し、労働災害が繰り返されるという“いたちごっこ”が続いていました。

 こうした事態を避けるため、厚労省は、事業者に化学物質の自律的な管理を任せることにしました。これにより、措置義務対象外の物質への対応も必要になるため、2026年には2300種類程度を考慮する必要がでる見込みです。

 労働安全衛生総合研究所の公式サイトは、事業者側で実施しなければならないことを3ステップで紹介しています。

  1. 取り扱い化学物質の把握
  2. 体制の整備
  3. リスクアセスメントの実施

 具体的な対応は以下の通りです。

 はじめに事業場内で化学物質(化学物質/混合物含む)を使っている場面を抽出してください。使っている場合は、化学物質の管理を検討してください。

 つぎに、実際に取り扱っている化学物質をリストアップしてください。取扱っている製品が混合物の場合は、成分として含まれる化学物質の情報を確認してください。

 リストアップした取扱い物質がリスクアセスメント対象物に該当するか確認してください。具体的な対象物質の一覧データは、ケミサポの公式サイトで入手できるほか、厚労省の「職場のあんぜんサイト」では、化学物質の検索ができます。

 自社での体制を整備するために、化学物質管理者を選任してください。労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者の選任も必要です。

 改正の趣旨や具体的な実施事項について、社内の安全衛生管理の担当者間での情報共有を進められたら、経営側や現場で働く労働者への周知・啓発をしましょう。

 リスクアセスメントとは、リスクアセスメント対象物の危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もることに加え、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討することを指します。

 リスクアセスメント結果をふまえ、事業者は、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にすることが義務付けられます。

 厚生労働大臣が定める物質(濃度基準値設定物質)について、リスクアセスメント結果を踏まえ労働者がばく露される濃度を基準値以下とすることも義務付けられます。

 具体的なばく露低減に向けた手段は、事業者が選択することになります。

  • 代替物質の使用
  • 換気装置等を設置し稼働
  • 作業方法の改善
  • 有効な呼吸用保護具の使用

 そのほか、化学物質規制で事業者に求められる対応は、厚労省の資料「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」(PDF方式)を参照してください。

ばく露を最小限度にすること(ばく露を濃度基準値以下にすること)
ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存
皮膚等障害化学物質への直接接触の防止(健康障害を起こすおそれのある物質関係)
衛生委員会付議事項の追加
がん等の遅発性疾病の把握強化
リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存
がん原性物質の作業記録の保存
職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大
SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新
事業場内別容器保管時の措置の強化
注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大
管理水準良好事業場の特別規則等適用除外
特殊健康診断の実施頻度の緩和

ラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加
ばく露を最小限度にすること(ばく露を濃度基準値以下にすること)
皮膚等障害化学物質への直接接触の防止(健康障害を起こすおそれのある物質関係)
化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示
リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等
化学物質管理者・保護具着用責任者の選任義務化
雇入れ時等教育の拡充
SDS等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化
第三管理区分事業場の措置強化