目次

  1. 介護と仕事の両立が求められる理由 ビジネスケアラーとは
  2. 経営層が知っておきたい介護に携わる従業員の実情
  3. 介護と仕事の間で生まれる負のサイクル
  4. 企業が取り組むべき介護両立支援の3ステップ
    1. 経営層のコミットメント
    2. 実態の把握と対応
    3. 情報発信
  5. 介護・育児休業法で定められている制度
    1. 介護休業
    2. 介護休暇
    3. 所定労働時間の短縮等の措置
    4. 所定外労働の免除
    5. 法定時間外労働の制限
    6. 深夜業の制限
    7. 転勤に対する配慮
    8. 不利益取扱いの禁止
  6. 厚労省、実践マニュアルや助成金を案内

 厚生労働省によると、ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族等の介護に従事する者のことを指します。

 高齢化が進んで、ビジネスケアラーが増えているだけでなく、介護離職者は毎年約10万人に上り、2030年には、家族を介護する約833万人のうち約4割(約318万人)がビジネスケアラーになると見込んでいます。

 2030年には経済損失が約9.1兆円に上ると推計しています。このうち、仕事と介護の両立困難による労働生産性損失が約7.9兆円を占め、中小企業でも1社あたり733万円の損失が生まれるといいます。

 そんな状況が迫るなか、経産省は検討会を立ち上げ「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」をまとめ、経産省の公式サイトで公表しました。

 ガイドラインでは、介護に直面する従業員について3つの特徴を認識しておく必要があるとしています。

  1. 自身の介護状況開示への消極性
  2. 介護状況が個々人によって多様かつ可変であり、将来予測が困難
  3. 肉体的負担に加えた精神的負担の増加

 介護は育児と異なり、明示的な始まりがないことや、自分のキャリアを心配して職場で相談できていないことがあります。そのため、ガイドラインは「企業側が定期的なアンケートなどを通じて介護の実態把握を行うことが必要になってくる」と指摘しています。

 また、介護の負担は、直接的な介助(食事・排泄・入浴等)だけではなく、介護サービスに関する情報収集、ケアマネジャーや介護事業者とのコミュニケーション、見守り、外出付き添い、医療的介入等における意思決定といった精神的負担も重く、肉体的な負担以外にも目を向ける必要があるといいます。

 ガイドラインによると、介護と仕事の両立支援は、経営上の優先順位が低くなりがちです。

 積極的に取り組めないと、従業員が「周囲の理解が得られないのではないか」という心配から介護の状況開示を控えるようになり、企業内で仕事と介護の両立に取り組んでいる従業員の数や動向が把握できないことで、経営者は「ニーズがない」と判断してしまい、企業内部で徐々に生産性の低下が生じてしまう「負のサイクル」に陥る可能性が高いといいます。

企業で生じている介護両立支援を巡る負のサイクル
企業で生じている介護両立支援を巡る負のサイクル

 そこで、ガイドラインは企業における仕事と介護の両立支援を先導していくことが期待される経営層を対象にしたものであり、企業が取り組むべき事項をステップとして具体的に示しています。

 こうしたなか、ガイドラインは、すべての企業が共通して取り組むべき事項として、次の3つのステップを示しています。

  1. 経営層のコミットメント
  2. 実態の把握と対応
  3. 情報発信
企業が取り組むべき介護両立支援のアクション
企業が取り組むべき介護両立支援のアクション(経産省の公式サイトから https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html)

 それぞれについて紹介します。

 ガイドラインがまず求めているのが、経営者自身が「介護」について知ることです。そのうえで、従業員やグループ企業の経営幹部層に向けて、両立支援推進に関するメッセージを発信し、担当役員や担当者を任命しておくことを求めています。

 つぎに、自社での実態を把握するため、全社的なアンケートを実施することや、規模の小さな企業であれば社員一人一人に聴取していくことも有効な打ち手となり得るといいます。

 そのうえで、会社全体の人材戦略の中に介護の実情を反映し、定量的に計測可能な指標を適切に設定し、経営層自身が意識的にPDCAを回していくマインドを持つことが重要である、とガイドラインは説明しています。

 さらに、仕事と介護の両立の大きな壁の1つが、従業員が仕事と介護の両立に関して必要な知識を持てていないという課題があるといいます。そのため、会社として、自治体などのパンフレットを活用して活用できる制度を紹介したり、研修を開いたり、相談窓口を設けたりすることを勧めています。

 厚労省によると、介護・育児休業法で次のような制度が定められているので把握しておきましょう。

 労働者は、申し出ることにより、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として、介護休業を取得することができます。

 対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、半日単位で取得できます。

 事業主は、①短時間勤務制度、②フレックスタイム制度、③時差出勤制度、④介護サービスの費用助成のいずれかの措置について、介護休業とは別に、利用開始から3年間で2回以上の利用が可能な措置を講じなければなりません。

 要介護状態にある対象家族を介護する労働者は、所定外労働の免除を請求することができます。1 回の請求につき1月以上1年以内の期間で請求できます。介護終了までの必要なときに利用することが可能です。

 1ヵ月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働が免除されます。

 深夜業(22時から5時までの労働)が免除されます。

 事業主は、就業場所の変更を伴う配置の変更を行おうとする場合、その就業場所の変更によって介護が困難になる労働者がいるときは、その労働者の介護の状況に配慮しなければなりません。

 事業主は、介護休業などの申出や取得を理由として解雇などの不利益取扱いをしてはなりません。

 経産省だけでなく、厚労省の公式サイトでも介護と仕事の両立支援のための実践マニュアルや両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)を案内しています。

 実際に取り組むときはこちらも参考にしてください。