目次

  1. 「ハウルの城」から生まれる久寿餅
  2. 「生徒に誇れる背中を」と転身
  3. リーマン・ショックで経営危機に
  4. 「ハートの久寿餅」で開いた活路
  5. 「エベレストに登る方が簡単」
  6. 有名百貨店の催事に出店
  7. 「粋で、キュート」な新ブランド
  8. コロナ禍で決断した常設店
  9. 伝統を守り、歴史を壊す

 ピンクの外壁、大きなタンク、吹き上がる蒸気。山信食産は社会科見学の小学生に「ハウルの城みたい」と例えられます。毎日1万セット以上の久寿餅を製造し、スーパーや和菓子店などへの業務用が7割、工場直売や催事などでの小売りが3割です。消費期限が約2日と短い生久寿餅が、評判を呼んでいます。従業員数は15人です。

ピンク色の社屋が目を引きます

 くずもちは大きく2種類に分かれます。一つは関西がルーツで葛粉が原料の「葛餅」。もう一つは、麩(ふ)の製造過程で出る小麦でんぷんを発酵させ、蒸して作る「久寿餅」です。こちらは関東の名産となりました。

山信食産の生久寿餅(同社提供)

 山信食産では730日以上発酵させた小麦でんぷんが原料です。アクと酸味を取りのぞくため、工場でタンクに移し、約7日間かけて攪拌(かくはん)と水洗いを繰り返します。熱を加えてとろみを出し、型に流し込んで蒸し上げます。温度を細かく調整し、口当たり滑らかで歯切れがいい乳白色の久寿餅が完成します。

 手間ひまをかけても消費期限はたった2日。それでも作りたてを味わってほしいと、小山さんは2015年10月、生の久寿餅を扱うオリジナルブランド「江戸久寿餅」を立ち上げました。

 「久寿餅が何でできているか、99%のお客様がご存じありません。催事でも10年以上ご説明していますが、まだまだ認知度が低い。僕ですらかつては葛粉で作っていると思っていたくらいですから」

山信食産の「江戸久寿餅」

 山信食産は1955年、小山さんの祖父・信清さんが焼麩の製造販売業として創業し、久寿餅、ところてん、あんみつに幅を広げました。

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