スコトーマとは?原理や役割・スコトーマを外す方法をわかりやすく解説
スコトーマとは、心理学や自己啓発分野で「心理的盲点」を意味します。組織としてのスコトーマはビジネスの拡大を阻むリスクがあるため、スコトーマを外す方法を意識して“範囲を変える”必要があります。この記事では、スコトーマの原理やビジネスでの活用法を中小企業診断士で経営心理士でもある筆者が紹介します。
スコトーマとは、心理学や自己啓発分野で「心理的盲点」を意味します。組織としてのスコトーマはビジネスの拡大を阻むリスクがあるため、スコトーマを外す方法を意識して“範囲を変える”必要があります。この記事では、スコトーマの原理やビジネスでの活用法を中小企業診断士で経営心理士でもある筆者が紹介します。
目次
スコトーマ(Scotoma)とは、直訳で「視覚的な盲点」を意味します。もともとは主に眼科医が使う医学用語ですが、心理学や自己啓発の分野では「心理的盲点」といい、個人が情報を無意識にフィルタリングすることで、一部の情報が認識されなくなる状態を指します。
人間の脳は、大量の情報を処理しなければなりません。したがって、効率的に働く必要があります。その結果、特定の情報だけが意識に上がり、ほかの情報が見落とされることがあります。このような、一部の情報が意識に上がらないことをスコトーマといいます。
例えば、車の購入を検討し始めると、街中で購入を検討している車を多く見かけるようになった、という経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。これは、それまでは顕在意識に上がっていなかった“車”が、自分にとって重要なものとなったことで意識に上がるようになったためです。
人は五感(視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚)を通じてさまざまな情報を受け取っています。しかし、その情報すべてをインプットして処理すると、膨大なエネルギーを消費することになります。また、すべての情報が必要かどうかを意識して判断するためには、膨大な時間も要します。
そこで重要な役割を果たすのが、RAS(網様体賦活系)という神経ネットワークです。RASは外部からの刺激をフィルタリングして意識に届けることで、不要な情報を排除する役割を果たしています。この働きによって、人は重要と判断した情報に集中し、効率的な行動ができるようになります。
スコトーマは、脳が膨大な情報を効率的に処理し、心理的に安定して生きていくために不可欠なものです。スコトーマが果たしている役割には、以下のようなものがあります。
スコトーマの役割 | |
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認知負荷の軽減 | 意識に上がる情報を制限することで脳の認知負荷を軽減します |
精神的安定の維持 | 不安やストレスを引き起こす可能性のある情報を無意識に排除することで、精神的な安定を維持します |
効率的な意思決定のサポート | 重要な情報に集中し、不必要な情報を排除することで、効率的な意思決定をサポートします |
それでは、スコトーマの判断基準はどのようなものでしょうか。それは実は単純なもので、自分にとって重要かどうかです。重要かどうかは、以下のようなもので決まります。
スコトーマの判断基準となる要素 | |
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個人の信念や価値観 | 自分の信念や価値観と合致する情報は、重要であると判断され意識に上がりやすくなります。一方で、信念や価値観に反する情報は見落とされやすくなります |
その瞬間の脳機能の状態 | その瞬間に膨大な情報を処理する必要がある場合や何かに集中している場合、普段は聞こえる声が聞こえなくなるなど、情報が排除されやすくなります |
経験と専門知識 | 過去の経験や専門知識がある分野においては情報に敏感になりますが、その分野に詳しくない場合には、見落とされやすくなります |
感情と心理状況 | ストレスや不安、興奮などの状態は、注意力が特定の方向に偏りやすくなり、他の情報を見落とす可能性が高くなります |
所属している集団の影響 | 集団内には共通の文化などが存在します。集団内で共有されている価値観や慣習に従うことが多くなるにつれて、その集団の価値観などに反するものは無視する傾向が強くなります |
スコトーマは無意識レベルで働き、その判断基準は単純ではありますが、潜在意識に刻まれた無意識の基準です。そのため、その無意識の基準を修正する(スコトーマの範囲を変更する)にはその修正が自分にとって重要であると本気で感じることが必要です。
スコトーマは個人の心理的盲点を指す言葉ですが、スコトーマが及ぼす影響は個人だけに留まりません。組織でビジネスを行っている場合でも、その組織としてのスコトーマが存在するためです。
組織でビジネスを行っている場合、組織は同じ目的を達成する(顧客に価値を提供し利益を得る)ために行動しています。そのため、組織として重要事項が組織の構成員で統一されてしまうことで、その組織のスコトーマが形成されていきます。
経営学の観点からは、複数の要因の影響などさまざまな理由で説明されることもありますが、スコトーマも影響していると解釈できる事象には以下のようなものがあります。
これまでの成功体験が強固であればあるほど、新しいアイデアや革新的なアプローチを試みる意欲が減少します。
具体的な例として、2012年に倒産(2013年再上場)したコダック社が挙げられます。コダック社は、デジタルカメラ技術を最初に開発したにもかかわらず、大きなシェアを獲得していたフィルムカメラ市場に固執し続けました。デジタルカメラの市場成長を過小評価したことで、市場シェアを失いました 。
成功体験を過大評価してしまい、革新的なアプローチを試さなかったスコトーマの失敗例といえます。
スコトーマにより、企業は新たな市場や顧客のニーズを見落すリスクがあります。これにより、潜在的な成長機会を逃すことになります。
具体的な例として、全盛期に世界でおよそ9000店舗を展開していた大手ビデオ・DVDレンタルチェーン店・ブロックバスターが挙げられます。ブロックバスターは、デジタルストリーミング市場の可能性を見逃し、伝統的なビデオレンタルビジネスモデルに固執しました。結果として、Netflixなどの新興企業に市場を奪われ、最終的に倒産にいたりました。
成功体験に甘んじて市場や顧客のニーズを見落としてしまった、スコトーマの失敗例といえるでしょう。
スコトーマは組織内のコミュニケーションにも悪影響を及ぼします。特定の情報や意見が重要視されず、意思決定に偏りが生じることがあります。
これらの事例から学ぶべきは、企業は定期的に内部と外部のフィードバックを収集し、多様な視点を取り入れ、柔軟な思考と適応力を養うことが不可欠だという点です。
スコトーマを認識し、意識的に取り組むことで、企業は見落としていた機会やリスクに気づき、より効果的な戦略を策定し、競争力を強化することが可能になると考えられます。
先述したように、スコトーマは人が生きていくうえで必要な脳の働きによって現れます。また、無意識レベルで働いているため、すべてのスコトーマを外すことはできません。
これまで、意識に上がってこなかった情報を認識できるようにするためには、自身の無意識の領域に“新しい判断基準”を刷り込みスコトーマの範囲を変化させる必要があります。
そのためには、「本気で到達したいと想える目標を設定し、常に意識する」ことが重要です。目標に向かうことを継続的に意識したうえで、以下のような取り組みを実践しましょう。これにより、スコトーマの範囲を変化させやすくなります。
不要なスコトーマを外す方法 | |
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他者との交流による異なる視点の導入 | メンタリングやコーチングで新しい視点や考え方を学んだり、異業種交流会に参加したりする |
学習と自己理解の促進 | セミナーに参加して新しい知識を取り入れたり、定期的に自分の行動や決定について振り返る時間を設けたりする |
フィードバックの実践 | 信頼できる友人や同僚などからのフィードバックを定期的に求める |
自分と異なる視点を獲得するための取り組みは、以下のとおりです。
自分の分野や経験が異なるメンターやコーチなどと対話することで、新しい視点や考え方を学びます。必ずしも、コーチなどの専門家でなくても構いません。例えば、技術者が販売の専門家と意見交換を行うことで、技術的視点だけでなく、顧客視点や市場の動向についても理解を深めることができます。
異業種の人たちが集まる交流会などに参加することで、他の業界の動向や課題に触れられます。これにより、自分の業界とは異なるアプローチや解決策を学び、自分の業務に応用することができます。
海外旅行や異文化交流プログラムの参加により、自分とは異なる文化や価値観を体験し、視野を広げることができます。これにより、自分の固定観念やバイアスに気づき、それを修正することが可能です。
新しい情報に触れること、自分自身の信念や価値観、感情を客観的に観察しどのような情報を無意識にフィルタリングしているのかを理解するための取り組みは以下のとおりです。
セミナーなどに参加して新しいスキルや知識を習得します。例えば、自分の業務に関連する最新の技術やトレンドを学ぶとよいでしょう。また、幅広いジャンルの本を読むことで、新しい知識や視点を得られます。ビジネス書だけでなく、哲学書や小説なども読むと、自分の考え方の幅を広げられます。
定期的に自分の行動や決定について、振り返る時間を設けます。例えば、自分の思考や感情を記録し、それを分析することで、自分のバイアスやパターンを確認します。
信頼できる友人や同僚などからのフィードバックを定期的に求めることで、客観的な自身の思考パターンなどを確認します。これにより、自己認識を深め、自分の行動が他人にどのように影響しているかを把握できます。
具体的な取り組みの実践により新たな視点や知識を得て、固定観念を打破できれば、より広い視野を持つことができます。ただし、上述したとおり、「無意識の重要かどうかの判断基準」を変更する重要性を脳が認識しなければ、「新しく重要と思える判断基準」を獲得することはできません。
人は、あらかじめ見ようと準備したものしか見ません。新しい判断基準を獲得しようとする準備がなければどんな刺激にも反応しないことになり、どんな取り組みも効果が得られないのです。
そのため、現状の外のゴールの設定とそれを本気でやり遂げる意思が必要です。これにより、スコトーマの範囲を変化させることにつながっていきます。
先ほどお伝えしたように、人が行うビジネスにおいてもスコトーマは存在します。組織内で現れうるスコトーマを理解し、これらの範囲を意識的に変化させ、戦略的に活用できれば、ビジネスをより発展させることができます。
異なる視点を取り入れることで、新しいアイデアやアプローチを引き出し、革新的な製品やサービスにつなげます。
具体的な方法として、異なる部門のメンバーを集めた会議の定期的な実施などがあります。小規模な組織であれば、全社員参加の会議で新しいアイデアや改善提案を共有するのもよいでしょう。
また、社外の専門家や顧客など多様な人たちからの意見を積極的に取り入れることで、新しい視点を取り入れます。
リアルタイムで情報を収集・分析し、迅速に市場の変化に対応することで、ビジネスチャンスを逃さないようにしましょう。
具体的な方法として、顧客からアンケートやSNSを通じて迅速にフィードバックを収集し、分析する仕組みの導入などが考えられます。また、業界ニュースや競合他社の動向を定期的にチェックし、全社的に最新情報を共有します。
スコトーマは、人が生きていくうえで必要な脳の働きによって現れます。また、無意識レベルで働いているため、すべてのスコトーマを外すことはできません。ビジネスにおいてスコトーマを活用するためには、意識的にスコトーマの範囲を変化させる必要があります。
例えば、既存事業の業務を行っている場合には、その業務を適切に行うことに意識が向いているため、市場の需要変化などのビジネスチャンスはスコトーマになっている可能性が高いものです。
逆に、新しい事業の可能性を模索しているときには、既存事業に関する情報がスコトーマになっている可能性が高いでしょう。これを同時に一人の人が行うのは、スコトーマの原理から考えると難しいことはわかっていただけると思います。
そのため、既存事業の業務を効率的・効果的に行うための組織と新規事業開発を考える組織を分けることが、組織としてのスコトーマを減らすことにつながります。
このような、既存業務の遂行と新事業の開発という文化や考え方が全く異なるものを組織に両立させることができるのは経営者のみです。この2種類の組織を両立させる経営を「両利きの経営」といいます。
個人や少人数でビジネスを行っている場合でも、意識的にそれぞれの時間を切り分けることで、両利きの経営は可能だと思います。ぜひ、スコトーマを意識して両利きの経営に取り組んでみてください。
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