目次

  1. メンタリングとは?
    1. メンタリングとコーチングの違いは?
  2. メンタリングを導入する目的
    1. 目的①社員の定着と離職率の低下
    2. 目的②自律した人材の育成
    3. 目的③従業員のモチベーションアップ
  3. メンタリングマネジメントの実施手順
    1. ステップ①メンタリングマネジメントの導入目的を明確にする
    2. ステップ②メンタリングマネジメントの制度を設計する
    3. ステップ③メンティの選定
    4. ステップ④メンターの選定
    5. ステップ⑤メンティ・メンターに運用方法を説明
    6. ステップ⑥メンタリングマネジメントの評価・改善
  4. メンターに任せっきりにしないことも重要

 メンタリングとは、1対1の対話を通して行われる人材育成方法です。指導する側をメンター、指導される側をメンティといいます。

 メンタリングの特徴は、メンターとメンティが対話を通して信頼関係を築くとともに、対話の中でメンティ自身が気付きを得て、成長していくことにあります。業務についての指示・命令や、一方的なアドバイスは行われません。

 そのため、メンターは上司などではなく、メンティが抱える悩みや課題を解決した経験を持つ先輩など、利害関係の少ない人材が選ばれます。

 メンタリングと似た人材育成の方法にコーチングがあります。

 どちらも指導者が一方的に具体的なアドバイスをするのではなく、本人の気づきを促す人材育成方法ですが、以下のような違いがあります。

メンタリング コーチング
指導する側 メンター コーチ
指導される側 メンティ クライアント/対象者
指導テーマ 中長期的なキャリア形成上の悩みや課題の解決方法 具体的な課題解決や目標達成の方法
指導方法 メンターは、メンティと対話を通してメンティの持つ悩みや課題を明らかにし、必要に応じてメンター自身が持つ経験や知見等を共有する
また、メンターは必要に応じたアドバイスを行う
コーチは、対象者に質問や問いかけを行い、積極的に傾聴することで、対象者自身の持つ答えを引き出し、目標達成や課題解決を促す
コーチは基本的にはアドバイスを行わない

 メンタリングとコーチングを比較すると、コーチングがクライアントの「具体的な課題解決や目標達成」に焦点を当てているのに対して、メンタリングはメンティの「中長期的なキャリア形成上の悩みや課題」に焦点を当てています。

 「中長期的なキャリア形成上の悩みや課題」とは、メンティ自身がすでに自身の課題や悩みとして具体的に認識しているものから、漠然とした不安や悩みまで多岐に渡ります。

 このような悩みや課題を解決するための方法を伝えるメンタリングを、人材育成の方法として導入する目的としては、以下が挙げられるでしょう。

 従業員は、業務上の悩みのみならず、プライベートでのライフイベントなど、キャリアプランに関わる様々な悩みや課題を抱えています。

 メンタリングでは、メンターが人生の先輩としてメンティに寄り添い、時に自分の経験にもとづくアドバイスを行います。それによりメンティが自社でのキャリアプランが明確になるとともに、メンターとの人間関係による安心感が増すため、社員の定着や離職率の低下を目的として行われるケースがよく見られます。

 メンタリングは上司から部下への指示によって行われる人材育成方法ではなく、メンターとメンティの対話によって成り立つ人材育成方法です。メンターは自身の経験や知見を必要に応じてメンティに対するアドバイスとして伝えますが、あくまでも主はメンティの気づきを促すことにあります。

 そのため、必要なことを自律的に考え行動する人材を育成したいときに、しばしば用いられます。

 漠然とした不安や悩みはそれだけでモチベーションを減退させます。不安や悩みが漠然としているからこそ、具体的な解決策や行動に結びつかず解消を難しくしていることもあります。

 メンタリングは、メンターとの対話により、メンティがこのような漠然とした不安や悩みから解放されるメリットがあります。メンターがいるおかげで目指すべき人物像が明確になり、仕事への意欲が高まったというケースもあります。こうした効果から、従業員のモチベーションアップのために導入する企業は少なくありません。

 次に、メンタリングマネジメント(メンタリングを用いて計画的に人材育成を行うこと)の実施手順について説明します。

 メンタリングには上記で見てきたとおり、さまざまなメリットがありますが、一方で「メンターに負担がかかりやすい」「効果が一律ではない」「効果を測定するのが難しい」といったデメリットがあります。

 その点にも気をつけながら、次のように進めるといいでしょう。

  1. メンタリングマネジメントの導入目的を明確にする
  2. メンタリングマネジメントの制度を設計する
  3. メンティを選ぶ
  4. メンターを選ぶ
  5. メンティ・メンターに運用方法を説明する
  6. メンタリングマネジメントの評価・改善を行う 

 それぞれの手順の詳細を以下で説明します。

 メンタリングマネジメント導入に限った話ではありませんが、制度の導入時には、「なぜその制度を導入するのか」を明確にすることが大切です。

 また、メンタリングマネジメントを実施することにより、自社で得たい成果などを定性的、定量的に明確化しておくことも重要です。

 たとえば、次のような形です。

  • メンタリングマネジメントの実施により、離職率を20%改善する
  • 従業員の自律度を図るため企画等の提案数を集計し、メンタリングマネジメントの導入前の集計数と比較する
  • 定期的なアンケートで仕事への意欲などを測定し、モチベーションの度合いをチェックする

 メンタリングマネジメントの目的を明確にしたら、運用方法の設計を行います。メンティやメンターの選定方法や選定基準、面談の頻度など、メンタリングマネジメントの運用方法を設計します。

(1)メンティの選定方法と選定基準

 メンティは指導を受ける側のため、基本的には社歴の浅い若手社員を選定します。若手社員の選定基準はさまざまですが、新入社員にするのか入社2~3年目の社員も含めるのかがひとつあげられます。また、対象の社歴の社員全員を対象とするのか、それとも一定の部署に限定するのかも判断が分かれるところとなるでしょう。

(2)メンターの選定方法と選定基準

 メンターは、基本的にメンティと年齢の近い社員を選定します。その上で、メンティと同部署の社員とするのか、他部署の社員とするのかが重要なポイントとなるでしょう。

 同部署であれば関係が築きやすく、職務上の悩みや課題が共有しやすい一方、職務上の利害関係が発生しやすく、指示命令の関係に置き換わってしまう恐れがあります。他部署であれば、このような心配は少ないものの、部署が違う分、関係性の構築や職務上の悩みや課題の共有がしにくくなる可能性があります。

(3)面談の形式

 面談の形式については対面、もしくはオンラインの形式が考えられます。

 対面の面談は、表情や仕草、姿勢などの非言語の部分の情報が受け取りやすく、関係性をより深めやすいのがメリットです。一方で、相談場所や時間などに制約がかかりやすいデメリットもあります。

 オンラインでの面談は比較的、場所や時間の設定が自由であるメリットがある一方で、ビデオ会議のシステムなどを利用しても、対面ほどの非言語の情報が受け取りにくいデメリットもあります。

(4)面談の頻度

 面談の頻度はさまざまですが、「1ヶ月に1回」「1ヶ月に2回」と一旦回数を決め、その後それぞれのメンターとメンティとの相談で頻度を決めるといった方法もあります。

(5)面談で使用するツール

 メンタリングでは、面談シートやITシステム等のツールの活用もおすすめです。ツールを活用することで、面談の際に聞く内容が明確になり、メンターによるメンタリングマネジメントの質の差異や、メンターの負担の軽減にもつながります。メンターのスキルや予算などを加味しながら選んでみましょう。

(6)評価方法

 メンタリングマネジメントは効果の測定が難しいというデメリットがあるため、事前に評価方法(どの指標をどのようなツール・手段を用いて行うのか)を綿密に設計することが大切です。

 主な評価指標と評価ツールや手段について、下表にまとめたのでご覧ください。

評価指標 評価ツールや手段
メンターおよびメンティのメンタリングの満足度 アンケート調査やヒアリング
メンティのキャリアプランへの意識の強さ アンケート調査やヒアリング
メンティの自律性の度合い アンケート調査やヒアリング、メンティの仕事の取り組み方の変化の調査(企画の提案数など)

 なお、メンタリングマネジメントの評価方法を考えるときは、メンティ・メンターそれぞれの評価と、メンタリングマネジメント全体の評価の、2通りの視点を持つことを忘れないようにしましょう。

 メンティ・メンターの場合は上記の評価指標を数値にして明確にし、それぞれに伝えることで改善を促せますが、メンタリングマネジメント全体の場合はそれらに加えて、従業員の離職率の変化など、より広い視野が必要になるからです。

 メンタリングマネジメントで指導を受けるメンティを、設計に従って選定します。また、メンティにはメンタリングマネジメントの目的や運用方法を説明するとともに、当事者意識を持ち、自身が成長する機会として自発的に参加をしてもらうことが重要な点も伝えます。

 メンティを指導するメンターを選定します。メンターにもメンティと同様にメンタリングマネジメントの目的や運用方法を説明します。あわせて、メンターには指導者としてメンティを支えるためのコツを伝えましょう。

  • 経験や知見などを押し付けないようなアドバイスを心がける
  • 相手に寄り添った傾聴を心がける
  • メンティとの対話の内容を他言しない
  • メンター自身の学びと成長の機会であることを忘れない
  • 常にメンティのお手本となるような言動を心がける

 また、メンタリングマネジメントはデメリットでも触れたようにメンターの負担が大きくなるため、メンター自身が困った際に相談できる場所や人を設けておくことも重要です。

 メンティ、メンターの双方が決まったら、2人に今後のメンタリングマネジメントの運用方法についての説明をあらためて行います。

 その際に、双方から疑問点や不安点を確認し、メンタリングマネジメントの運用に反映をさせていくとよいでしょう。

 事前に設計した評価方法をもとに、メンティ・メンターと、メンタリングマネジメント全体の評価を行います。評価は一度きりではなく、定期的にするようにしましょう。運用していく中で改善を繰り返すことが重要です。

 メンタリングは、メンターがメンティの良き相談相手となり、支援していく人材育成の方法です。

 メンターはメンティにとって心強い存在となりますが、その分、メンターにとって負担が大きくなるケースも多いです。

 そのため、メンターの相談先やメンター同士が悩みを共有できるコミュニティや場をつくるなど、メンターをサポートする体制を整えることも重要です。

 メンターがあってこそのメンタリングマネジメントであり、メンターの質が社のメンタリングマネジメントの結果を大きく左右するため、メンティのみでなくメンターにも目を向けていくことが大切です。