管理会計とは?財務会計との違いやメリット・実行のポイントを解説
管理会計とは、事業を行う個人や法人が必要な収益をあげているかや、無駄やムラがなく費用を使い、効率的に利益をあげられているかを検証する会計手法です。事業がうまくいかず困っている企業や、より多くの利益をどうすれば獲得できるのか悩んでいる企業は導入をおすすめします。
管理会計とは、事業を行う個人や法人が必要な収益をあげているかや、無駄やムラがなく費用を使い、効率的に利益をあげられているかを検証する会計手法です。事業がうまくいかず困っている企業や、より多くの利益をどうすれば獲得できるのか悩んでいる企業は導入をおすすめします。
目次
管理会計とは、企業の業績を分析し、売上の最大化または支出の最小化を目指す会計です。会社内で使用するものなので、絶対的なルールはありません。もっとも、一般的な管理会計手法があるため、まずはそれを押さえておきましょう。
一般的な分析手法には、次の2つがあります。
予算実績管理とは、事業がスタートする前に「予算」を立て、この予算と実績数値を比較し、その差額がどういう理由で発生したのかを分析し、次のアクションに移す管理手法です。
原価管理とは、売上に対する原価率が目標に達しているか、もしくは同業他社と比較して高すぎないかといった点を検証する手法をいいます。
ここでいう原価とは、売上を獲得するにあたって必要となる費用という意味合いです。そのため、製造業で使用する「原価」よりも概念を広く捉えるとよいでしょう。
例えば、飲食業では「FL比率」を管理することが原価管理にあたります。FL比率とは、Food(食材費)と人件費(Labor)の合計金額が売上高に占める割合です。
飲食店でもファストフードなのか、高級フレンチなのかで、目標とするFL比率は変わりますが、同業他社と比較し、もしFL比率が高い場合は「FLコストを変えずに売上単価を上げるのか」「FLコストを引き下げるのか」という判断軸が得られます。
これら2つ以外にも、業種に特化した分析手法があります。毎月の訪問者数や受注件数などの重要業績指標、いわゆるKPI(Key Performance Indicator)を設定し、これを管理することも管理会計のひとつと考えてよいでしょう。
管理会計と対比されるのが財務会計です。財務会計とは、国または法律により定められた一定のルール・基準に基づき行われる会計のことです。
日本で運営されている個人および法人(NPO法人や社会福祉法人等は除く)の財務会計は、一般に公正妥当と認められた会計基準によって作成される必要があります。会社独自の会計ルールでは作成できません。おもに2つの理由があります。
一つは、企業間の数字の比較可能性を担保するためです。
もう一つは、株主や出資者、銀行等の債権者が企業状況を会計から読み解くうえで、同一のルールに基づき作成されている必要があるためです。
また、財務会計では、財務諸表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)を作成しなければいけません。
財務諸表は、企業の「定款」で定められている「会計期間」ごとに作成することが義務付けられており、会社法で10年間、企業(具体的には本社)に保管することが求められています。
また、税金計算は財務諸表を基に行われます。
管理会計と財務会計の違いを比較すると、以下のとおりです。
管理会計 | 財務会計 | |
---|---|---|
目的 | 売上の最大化・経費の最小化 | 利害関係者に企業の業績を開示すること |
対象 | 企業内部 | 企業外部 |
ルール | 決められていない | 決められている |
作成する書類 | 予算実績や原価比率、KPIなどを基準にまとめた表(決められた書類はない) | 財務諸表 |
期間 | 自由(1か月、1年、1日など) | 定款に定められた会計期間(主に1年) |
管理会計と財務会計の大きな違いは、「誰が」使用するのかと、「その目的」が何か、という点が大きく異なります。
また、管理会計は「未来の数字の予測」であるのに対し、財務会計は「過去の数字の取りまとめ」であることも大きな違いといえるでしょう。
管理会計を取り入れるメリットは、事業運営で注視するべきポイントが見えてきます。
売上が足りないことが問題なのか、経費が使いすぎていることが問題なのか、経費の内訳に問題があるのか、資金が不足している点が問題なのか。課題点が明確になることで、資金はもちろん、人的なリソースをより無駄なく配分でき、事業の直線的な成長につなげられます。
管理会計の注意点は、数字で見える範囲が限定されていることです。例えば、顧客からのクレーム内容への対応など、個別具体的な内容へのフォローが必要かどうかといった点は、管理会計からはわかりません。
管理会計には、さまざまな分析手法があります。そのため、分析手法に応じた実行のポイントを紹介します。
まずは、予算実績管理のポイントです。
管理会計の目的は売上の最大化もしくは経費の最小化とはいえ、そのまま予算実績管理の目的にしてしまわないようにしましょう。曖昧な分析結果しか得られない可能性があり、結果的に管理会計の目的を達成できないからです。
予算実績管理では、「会社がつぶれず運営できているかを俯瞰的に確認すること」を目的にすることが良いでしょう。
具体的にいうと、「消耗品費の予算が10万円なのに11万円になってしまった……。どうしてだろう?」と細かく見すぎないことです。それによって会社の全体像を意識した分析ができ、売上の最大化や経費の最小化につながります。
もちろん10万円だったものが30万円と3倍にも跳ね上がっている場合は、一過性のものなのか、継続するものなのか、個別のチェックは必要です。しかし、経費において予算と実績との誤差が10%未満のものは、まず気にしないという姿勢でよいかと思います。
予算の集計ルールと実績数値の集計ルールを統一するのもポイントです。特に売上の認識時点(例えば、請求書作成時点で売上を認識するのか入金時にするのか)は統一しておく必要があります。
予算実績管理では、予算の数字に思いを「適度に」込めましょう。この塩梅が難しいですが、思いを込めすぎると売上は実現不可能なほどに高い目標となり、経費も限りなく少なくなってしまいます。
一方で、思いが全くこもっていないと、管理がそもそもできません。予算数値に思い入れがない分、実績数値と比較しても「だからなんなんだ」という結論で終わってしまいます。
予算実績管理の予算を作成するうえで大切なのは、「適度に思い(根拠)をいれつつ、実現可能な数値」をもとに作成することにあります。またこの予算実績管理は、毎月行うことが最低限必要です。
次に、原価管理のポイントを紹介します。
原価管理を行う上で、もっとも大切な作業です。
原価は、大きく分けて、原材料費・労務費(人件費)・間接経費の3つの要素から構成されています。この3つの経費を、売上の増減に応じて変動する費用(変動費)なのか、もしくは売上がゼロであっても発生する費用(固定費)なのか、適切に区別するのが原価管理を行うときの一番大切なポイントです。
なお、費用によっては、変動費と固定費にかならず区別できないものもあります。例えば、アルバイト/パートの人件費です。このような費用は、毎月最低限かかる部分については固定費と捉え、繁忙期などで残業が増える時期のでっぱりについては変動費として捉えるのが良いでしょう。
事業を行うと、会社ごとの独自性が必要になります。飲食店なら、「良い立地にある」「食材にこだわっている」「お酒の種類が豊富である」などです。
原価計算をするときは、まずは会社のこだわりをふんだんに盛り込んだ上でしてみましょう。その上で販売価格を考えてみます。
販売価格は、近隣店舗との兼ね合いや、消費者に受け入れられるのかといったさじ加減が難しいですが、FL比率は60%が一つの目安とされています。この範囲でどう割り振りを行うのかと、会社のこだわりを表現できるのかの2点を検討する必要があるでしょう。
管理会計には、予算実績管理や原価管理のほかに、さまざまな分析手法がありますが、ここでは、KPIを用いた管理会計を行うときのポイントをご紹介します。
KPIを用いた管理会計を行う場合は、管理会計の目的(利益の最大化もしくは経費の最小化)をそのまま掲げるのではなく、より絞り込んだ目的を決めることが大切です。
例えば、売上は一般的に、見込み顧客数(HPアクセス数)→問い合わせ件数→面談件数→契約件数によって構成されます。
単純に売上が「上がった/下がった」だけを見ていては、増減の原因がはっきりわからないため、かえって目的の達成につながりません。
そのため、KPIを用いた管理会計では、「見込み顧客の発掘」や「問い合わせ件数の増加」といった売上を構成する要素のいずれかの数字にフォーカスをすることがポイントになります。
KPIを利用した管理会計は、PDCAをより早く回すことが重要です。可能であれば1日ごとに結果がどうだったのかを振り返り、次への行動に繋げることが、設定したKPIへの達成へと管理会計の目的達成に繋がります。
管理会計システムを導入することも一つの方法です。
管理会計システムとは、予算実績管理や原価管理をパソコンやスマートフォンの画面上で行えるシステムを指します。各種データの自動収集・入力機能やシミュレーション機能などを備えていて、効率的に管理会計ができるのがメリットです。
予算実績管理を行う場合は、財務会計ソフトと連動しやすいものを取り入れるのがおすすめです。財務会計ベースで集計した数値をベースに予算を作成し、これを比較検討することで、予算実績管理が効率的に行えるからです。
財務会計ソフトと連動しやすいシステムには、freee会計やマネーフォワード クラウド会計などがあります。
一方、原価管理やKPI管理は、中小企業であればExcelやNumbersでも行うことができるかと思いますが、システムであればクラウドERP ZACといったものがあります。
なお、システム導入時には、管理会計の目的である売上の最大化もしくは経費の最小化を達成のためにシステムを導入することを忘れないようにしてください。システムを使いこなすことが目的となってしまってはいけません。
いずれにしても、どのシステムを取り入れればいいのか、そもそも本当にシステムが必要なのか迷ったら、公認会計士や税理士といった数字のプロのひとに相談をしてみるのもおすすめです。
管理会計を行う目的は「売上の最大化もしくは経費の最小化」であり、それによって事業を成長させることにあります。数字を分析することの意味を忘れずに管理会計を行いましょう。
また、管理会計はあくまでも定量化できる内容のみが対象となります。そのため、店舗イメージの好感度や顧客満足度など必ずしも定量化できない点は、別途注意する必要があります。
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