目次

  1. CSR調達とは
    1. CSR調達とグリーン調達の違い
  2. CSR調達が重要な2つの理由
    1. 調達先から生じるリスクの回避
    2. ブランディングによるビジネスチャンス
  3. CSR調達を実現するための手順
    1. CSR調達の自社基準を決める 
    2. CSR調達をやることを社内外に発信する
    3. CSR調達の目標を設定する
    4. CSR調達の実施計画を作成する
    5. CSR調達の実施計画を第三者目線でチェックする
    6. 発表、CSR調達の実施
  4. 企業価値と経済価値は両立する

 CSR調達とは、企業がサプライチェーン全体で健全な社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たすことを目指す活動です。

 具体的には、資材や原料などを調達するとき、品質や価格など今までの項目に加えて、調達先の労働条件、人権、地球環境への影響などもチェックしながら行うことをいいます。

 CSR調達は、各企業の理念に基づき、サプライチェーンにおいて各社が決めた基準(CSR調達ガイドライン)に沿って、取引先と連携しながら行われるのが一般的です。

 生産や運搬をするときに発生する二酸化炭素はどう削減していくのか、生物多様性はどのように守っていくのか、資源はどうやって保護するのか、などの問いに対して取り決めた基準をもとに実行されます。

 現在、CSR調達という考えにのっとり、調達先に自社の考えを共有した上で取引を求める企業や、CSRに積極的な調達先に切り替える企業が増えています。

 CSR調達に似たような考え方に、グリーン調達があります。

 グリーン調達は、環境省によると「納入先企業が、サプライヤーから環境負荷の少ない製品・商品・サービスや環境配慮等に積極的に取り組んでいる企業から優先的に調達するもの」です(引用:グリーン調達推進ガイドライン(暫定版) ~ バリューチェーンマネジメントの促進に向けて ~ │環境省)。

 一方、CSR調達は、企業(納入先企業)が、労働・地球環境などへ配慮をした調達先(サプライヤー)と共にサプライチェーン全体で社会的責任を目指す取り組みを指します。

 グリーン調達はCSR調達を実現するためのひとつの手段であり、CSR調達の中にグリーン調達が含まれる、ということになります。

 なぜCSR調達が重要なのでしょうか?その理由は、次の2つに集約されます。

  1. 調達先から生じるリスクの回避
  2. ブランディングによるビジネスチャンス

 順に詳しくご説明します。

 どんなに利益を出しても、公平・公正なビジネスをしていないと、消費者から信用されなくなる恐れがあります。

 2018年、ウーバー社が労働者に対して職場差別を行っていたことが発覚し、問題視されました。2021年には、H&Mやナイキが、新疆ウイグル自治区の民族・宗教的少数者の強制労働や差別に関わる企業・工場と取引していたことが判明し、中国国内で不買運動が行われました。

 もし資材や原料の調達先が、コンプライアンス、労働、環境、品質・安全性、事業継続管理、社会貢献などにおいて適切な対応をしていない場合、取引している自社にも影響が出かねません。

 CSR調達は、自社はもちろんのこと、取引先から生じるリスクを避けるための施策として必要とされています。

 自社らしい事業戦略にCSR調達を組み込むことでブランディングに繋がります。

 たとえば、FREITAG(フライターグ)は、CSR調達やSDGsという言葉がない頃から、トラックの幌とシートベルトでつくったオンリーワンのカバンでブランドを確立し、話題になりました。

 近年の例だと、2021年に米国ナスダックで上場したサンフランシスコ発のフットウエアメーカーallbirds(オールバーズ)が有名です。

 安全かつ合法的・人道的・倫理的な方法で製造するために、「製品はサプライヤーとのパートナーシップから生まれる」と表明し、第三者機関による評価を活用しています。

 現在は、既に多くの業種・業態の企業があり、資材・材料などはどこからでも購入することができます。

 価格競争に巻き込まれるとサステナブルな企業として存続することは難しくなることから、自社のブランディングが重要です。自社のブランドが確立すれば、価格競争に巻き込まれずに競合に勝つ、今までとは異なる顧客を獲得する、といったことも期待できるでしょう。

 CSR調達には、企業が生き残るために必要な、新たなビジネスチャンスを創造できる可能性があるのです。

 コンプライアンスは当然として、さらに人権、環境への配慮を行うと同時に、持続可能な企業活動の視点から利益も考え、CSR調達を心がける流れが強まっています。

 次に、CSR調達を実現するための手順をご紹介します。主に以下のことを行う必要があります。

  1. CSR調達の自社基準を決める
  2. CSR調達をやることを社内外に発信する
  3. CSR調達の目標を設定する
  4. CSR調達の実施計画を作成する
  5. CSR調達の実施計画を第三者目線でチェックする
  6. CSR調達ガイドラインの発表、CSR調達の実施

 順に詳しく説明します。

 CSR調達には明確な基準はありません。各企業ごとに自社の理念、事業を踏まえて何を基準とするか決め、それを踏まえて進めることが必要になります。

 以下はCSR調達に必要な項目と、その項目を達成するために一般的に設けられる基準です。自社の事業を踏まえながら設定してみてください。

コンプライアンス 人権・労働 環境 品質・安全 情報セキュリティ 事業継続管理 社会貢献
・法令遵守
・競争法遵守
・汚職防止
・知的財産権尊重
・競争法遵守
・反社会的勢力の排除
・差別禁止
・人権尊重
・児童労働禁止
・強制的労働禁止
・適切な賃金の支払い
・労働時間管理の徹底
・安全な職場環境の構築
・環境マネジメントシステムの構築
・温室効果ガス排出量削減
・環境負荷物質削減
・資源保護
・生物多様性保全の取り組み
・品質・安全追求
・品質マネジメントシステムの構築
・情報セキュリティ強化
・機密情報管理の徹底
・個人情報管理の徹底
・事業継続計画策定
・事業継続管理構築
・社会課題解決

 CSR推進することによる効果、想定されるメリットを踏まえ、「CSR調達をやること」と「CSR調達に取り組む理由」を経営層・広報担当者から社内外へ発信します。

 伝える方法は、文章や動画があげられます。どの媒体を使うにしても、客観的に見て、CSR調達に取り組む理由がわかる表現を心がけることが大切です。

 実際に発信するときは、社内であれば社内一斉メルマガを利用したり、社内NEWSに掲載したりするといいでしょう。

 社外への発信は、ウェブサイトはもちろん、役員、営業など直接関連企業と連絡を取り合う人が適材適所へ周知していくことも必要です。新型コロナウイルス感染症の影響で人に会いにくくなった時代だからこそ、知らせるべき人に対して丁寧に伝えることが求められます。

 分かりやすく発信しているのはトヨタ自動車です。トヨタの仕入先サステナビリティガイドラインには、CSR方針をはじめ、仕入れ先企業へ協力のお願いが記載されています。

 また、トヨタ自動車のトヨタイムズの一部は、社内外へコンセプトを紹介しているメディアになっています。

 豊田章男社長による新年の挨拶はサプライチェーンを全て網羅し、自動車産業に関わる全ての人へのメッセージとして印象的でした。

 コンセプト、テーマ、適切な発信方法は会社ごとに異なりますが、こうした他社の成功事例を参考にするのもおすすめです。

 CSR調達に取り組む理由を社内外へ発信をしたら、自社の理念と社会的責任を踏まえて、CSR調達の目標を設定します。以下、目標の具体例です。

 中長期の目標
 ・環境に影響の少ないサプライチェーンを実現する
 ・物流・取引先企業全体でサステナビリティを意識したCSR調達実施を目指す

 短期の目標
 ・取引先企業へCSR調達の状況確認、指導・サポートを行う
 ・自社サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の情報を集める

 目標を立てるときのポイントは、企業を取り巻く社会環境の変化にあわせながら、中長期・短期それぞれの目標を立てることです。客観的な目標が立てられるように、自社と関係しているすべての調達先とのCSRの共有、依頼などからはじめるのもいいでしょう。

 また、目標を設定したら、再度社内外に向けて発信を行います。

 なお、手順①の「CSR調達をやることとその理由」を発信するときに、目標をあわせて発信する事例も多くありますが、筆者は本記事で紹介した順番で進めることをおすすめしています。

 CSR調達を始めることを先に宣言すれば、それによって進めることを得意分野としている人や、学びたいと思っている人を巻き込むことができ、より実現可能な目標が立てやすくなるからです。

 CSR調達の目標を達成するための計画を立てます。たとえば、次のような形です。

実施計画例

【中長期の目標】
・環境に影響の少ないサプライチェーンを実現する
・物流・取引き先企業全体でサステナビリティを意識したCSR調達実施を目指す

【短期の目標】
・取引先企業へCSR調達の状況確認(5段階評価などで見える化)
・取引先企業へCSR調達の指導・サポート
・自社とサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の情報を集める
→まずは排出量などを関連する事業会社で算出しているか確認
 している場合は、その範囲・算出方法などの詳細を確認する
 していない場合は、している企業の話を参考に範囲を定めることが可能か、また算出が可能か他社事例を参考に自社で実施することを検討する

 立案の際には、「経営層が承認し実行することを確認していること」「部門ごとの責任者が共有しやすいように具体的であること」が重要です。

 実施計画を立てたら、その計画が自社の企業理念や事業と離れていないかチェックします。

 また、そもそも自社のCSRに対する考え方が公平・公正であることも、あらためて確認しましょう。当たり前だと思っていた慣習が、実は従業員を苦しめるハラスメントだった……というケースも少なくありません。

 第三者目線で計画をチェックし、それが自社や社会にとって望ましいものであるかどうか、きちんと見極めることが大切です。

 ここまでで取り決めた内容を言語化し、CSR調達ガイドラインとしてまとめます。それを再び社内外に向けて発表し、計画に沿って実行します。

 CSR調達ガイドラインは、一度発信して終わりではなく、定期的に見直すことが大切です。社内外の関係者の意見を取り入れながら、形式的でなく、実効性を伴っているか常に確認します。

 確認方法はさまざまですが、たとえば、チェック項目を設定し、5段階評価で現状を見る、といったものがあります。それを1ヵ月ごとに行い、サプライチェーン全体で前進しているか確認するのもひとつです。

 CSR調達を行うことで社会貢献・社会課題を意識した企業活動を行うことができます。

 自社らしさ×事業×CSR調達という3つのかけあわせで競争優位に立ち、ブランドも確立できるでしょう。企業価値と経済価値は両立するのです。

 サプライチェーン全体でCSRを果たすことは、リスクマネジメントであるにも関らず、なかなか現場が見えにくく、直接対応がしにくいといった難しい点もありますが、関わる全ての企業が互いに学びあい、企業の成長を目指して実行しましょう。